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婚約を破棄しなければならないと思う勇者と、最大の切り札を持つ王女

 俺は王女との婚約を解消すべきだと考えていた。

 なぜ、そういう結論に至ったのかと言えば、俺は人間ではなくなっているからだ。

 魔王に止めを刺した際に、その心に一番ふさわしい姿になるという呪術をかけられて……ユニコーンになってしまった。


 元の姿に戻れないか色々と努力はしてみた。だけど、仲間の賢者に相談しても、大聖堂にいる大司教様に相談しても、エルフの長老に相談しても、知恵を授けてくれた老竜に相談しても、一様に自分の手には余ると答えられるだけだった。

 これはもう、戻ることはできないと判断するしかないだろう。


 俺は兵士に呼ばれると、息を整えてから王女との再会を果たすことにした。右目に眼帯をした王女は俺の姿を見ると顔面蒼白になり、手足を震わせながらそっと手を差し出してきた。

「アレック……アレックス! どうしてこんな姿に!?」

「魔王に止めを刺した際に呪いをかけられました」

「何と卑劣なっ!」


 普段は物静かな王女が、怒り狂った鷹のように怒号を響かせていた。こんな表情……初めて見たぞ。彼女が悲しんだ後で様子を観察しながら婚約解消を願い出ようとしていたけれど、簡単にはいかなそうだ。

「何か……何か手は無いのですか!?」

 彼女はすぐに大臣を見たが、彼も困った顔をした。

 まあ、賢者、大司教、エルフ長老。老竜というそうそうたるメンバーが無理と言っているのだから、彼に解決できなくても仕方のないことだと思う。


「申し訳ありませんが……」

「うーん……」

 王女はじっと僕の顔を眺めた。

「キスすれば戻るかな?」

「お、お待ちください……アレックス殿は魔王の呪いで……!」

「黙りなさい! マクセル!!」

「ひぃっ……」

 あまりにも忠臣大臣のマクセルが不憫なので、僕も彼の肩を持つことにした。

「王女様。僕は魔王の呪いでこの姿に変えられたんです。下手に触ると貴女にも呪いが……」

「あなた独りに危険な役目を押し付けて、わたくしだけ安全なところで見ていろと言うのですか!?」


 俺は即座にツッコミを入れた。

「そう言って、貴女の父上も戦の天才と言われた皇太子兄君も戦死してしまいました。もう王族は貴女しか……」

「うるさい!」

 彼女は俺を抱き寄せると、強引にキスをしてきた。

「…………」

「…………」

「…………」


 王女は不満そうに言った。

「何も起こらないじゃない……!」

「と、とにかく、王族はもう貴女しかいないんです。俺はもう役に立てないから婚約を……」

「だめーーーーー!」

 そのタイミングの良さと声の大きさに俺は愕然とした。絶好のチャンスだっただけに、これはなかなかに厳しい。

「勇者アレックスよ。貴方の姿は何としても我が王国が元に戻します! ですから貴方はこの城に留まりなさい!!」

 ちょっと待ってくれ。アンタは魔王の呪いを受けたヤツを城に置くつもりか!? 下手をすれば、邪気を受けた兵士やメイドが悪魔化するかもしれないぞ!

 俺は不本意ながらも、王女を突き放すことにした。


「お気持ちは嬉しいのですが、僕も早く家庭を持ちたい。この姿に似合った相手を探そうと思います」

 王女には酷な言葉かもしれないが、こうでも言わないと彼女は変な命令を出して、傾きかけた国に止めを刺しかねない。

 大臣も賛成の様子で言った。

「殿下。アレックス殿の病は、大司教にも、エルフの長老にも、伝説の竜にさえ手に負えないのです。ここは彼のわがままを聞いて差し上げてはいかがでしょう?」


 王女は俯いていたが、ゆっくりと俺を見た。

「最後に1度だけでいいのです。チャンスを頂けませんでしょうか?」

「チャンス? 構いませんが……何をなさるつもりですか?」

 そう答えると王女は笑った。

「目を……つぶって下さい」

「わかりました。こうですか?」

 そう言って目をつぶると、王女が俺の目の前に手をかざしたように感じた。


――――――――

――――

――


「……もういいですよ」

 そっと目を開けてみると視野がとても狭くなっており、少し視線を下げると人間だった頃の手足や胴体がある。そうそうたるメンバーに聞いても戻せなかったのに、どうしてもとに戻れたのだろう?


 そう不思議に思いながら目の前を見ると、王女は両目を包帯で覆っていた。

「凄い……でも、どうして?」

「過去に何があったのか思い出してください」

 俺は過去に何があったのかを思い出してみると、魔王討伐の前に御城に寄ったとき、王女は俺に呪い除けのマジックアイテムを持たせてくれていた。


 だけどこの記憶は、後から植え付けられたものに感じる。元の俺の記憶では、王女は片目だけ眼帯で隠してただ見送るだけだったが、植え付けられた記憶では両目を包帯で覆っていてマジックアイテムを渡してくれている。

「ど、どうなってるんだ? 王女様……その目は??」

「実は……兄が死んでしまったとき、私は過去にさかのぼれる力を譲り受けました」

 なるほど。だから兄君こと皇太子殿は……

「ただし、その能力は自らの目を代償とする力です。だからもう使えません」


 俺はこれほど自分を思ってくれた王女と婚約破棄しようとしていたのか。いや、平民に過ぎない俺にここまでしてしまう王女は君主としては……とても危うい。

 目が見えなくなった今、しっかりと俺が目とならないと!


 残る人生をかけて、王女を守っていくと固く誓った。

 ここまで読んで下さりありがとうございます。

 もし、気に入って頂けたら【ブックマーク】や広告バーナー下の【☆☆☆☆☆】に評価をよろしくお願いします。


 また、長編恋愛小説『2400メートルの求愛 ~最も愛しい彼女から、最も嫌なライバルと思われたい男の仔の物語~』も合わせてお読みいただければ幸いです。

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