開幕
初めまして、世目名委と申します。
今回、初めて作品を投稿させていただきます。
至らぬ点がございましたら、一言コメントしてもらえると助かります。
「君は…、『ハナ』好きになったかい?」
カレは私に背を向けてそう言った。
答えは決まってる、
カレと出会ったその日から、昨日まで一度も変わることはなかった。
そしてそれは今この瞬間でも変わらない。
私は一つ深呼吸をし、満面の笑みで答えた。
「そんなの…『キライ』にきまってるでしょっ」
「またあした、じゃあねっ、彩華」
「うん、バイバーイ」
そう言い残すと、石沢加恋は教室を飛び出していった。
どうも最近話題のアイドルグループにご執心のようで、ここのところは
毎日こんな感じだ。
「いったい何がそんなにいいんだろうって顔してるね」
前から声がしたのでそちらに振り向くと、若葉翔が前の人の椅子に座って
こっちを見ていた。
「…いたんだ」
「いたんだって…、そりゃひどいねー、おんなじクラスなんだからいて当たり前でしょうに」
翔は顔をしからめると、手に持っていたスマホをいじり私に差し出す。
スマホを受け取って画面に目を向けると、いかにもな感じの男数名が写っている。
どうやら、加恋がご執心中のアイドルの写真をわざわざ調べてくれたらしい。
「どう?かっこいいっしょ。俺もこんな顔で生まれてきたかったぜ。」
悔しそうな顔をする翔を横目にあらためて画面を見る。
たしかにひとより優れた容姿をしているなとは思う。この笑顔(営業スマイル)で
いったい何人の女性を籠絡していったのだろう…
「そうだね、かっこいいとおもうよ。見せてくれてありがとう。」
残念ながら特に何かを感じることはなかったので、適当に取り繕うと翔にスマホを返した。
「そうだよな、そうだよなっ!」
翔は特に気にした様子もなくスマホを受け取ると椅子から立ち上がった。
「さ~てと、そろそろバイト行かねーと、じゃあなー!」
「うん、またあした」
翔は自分の机の上のカバンをつかむと、バタバタと駆け足で教室から出ていった。
二人で話している合間に教室からは誰もいなくなっていたらしく、
いつもの日中の喧騒とはかけ離れた静けさが教室に漂っていた。
「…。」
(と、とりあえず家に帰って何をするかを考えながら帰り支度でもしよう。うん。そうしよう。)
そそくさと手を動かし、カバンに教科書を詰め終え、教室を後にしようとした…
そんな時だった、
カタンッと後ろから音がした。ビクッとし背中に悪寒が走るのを感じる。
(…だ、大丈夫、まだ夕方だしっ、何か出るなんてそんなの迷信にきまってるしっ、)
この学校にはそんな噂があることなど聞いたことがない。
そう大丈夫、大丈夫。
必死に自分を言い聞かせ、後ろを向かずに教室を後にしようとした。
その瞬間だった。突然言いようのないほどの頭痛が私を襲った。
「っ!?な、に…、これ…」
立っていることすらままならず、地面に座り込む。
目の前がぐわぐわと揺らぎ、
あまりの気持ち悪さにまともに思考することすらできない。
「あっ…あぁああっぁ…」
さらに頭痛の激しさが増していく。
「うっ…、ぷっ…」
よもや吐きそうなほどの頭痛のせいで意識が混濁していくのを感じる。
かろうじて動かせる手でカバンからスマホをあさろうとするが、感覚がマヒしているようで思うようにモノを判別できなかった。
「…」
そして、私は意識を失った。