中村登場
「ふぉおおおおおお」
首都高をママチャリで一人飛ばしている人物がいた。
メドューサの様なボッサボッサの髪は風でオールバックになり、叫ぶ口元からは前歯が2本欠けている。
服装は暗闇に運良く目立つ黄色の上下高校のジャージに胸には中村の刺繍が付いていた。
力の限り飛ばす為立ち漕ぎで漕いでいたものの、後ろからクラクションがひたすら鳴らされ追い越される時に暴言を吐かれていた。それは中村は2車線ある内、左車線のど真ん中を占領していたからに他ならない。もっというなら根本的に高速に自転車で入っているのが間違いであったからだ。
しかしながら当の本人は全く気にしていない。クラクションが鳴らされればその音に合わせて右手を上に突き出しリズムを取り、横に張り付き窓を開け暴言を吐かれようものならカウンターで食べていたガムを吐きかけた。
こうして700キロある道のりを1日で走ってきた。
「やっと出口だーーー!」
両腕をまるで天からの贈り物があるかのように掲げ出口を確認すると速度を緩め普通レーンに入っていった。
「通行券出して。」
そこでは仏頂面の強面の男が高速道路の普通レーンでお金を貰うバイトしていた
男はバーの手前で止まった中村を一見するとマニュアル通りの対応をした。
補足情報であるが彼は以前高速道路の入り口で通行券を発行する係をしていたが、道に迷ったじじいやボードに乗ったヤンキー果ては捨てられたポメラニアン。ありとあらゆる生物に通行券を渡して度々問題になっていたが、勤務態度は真面目だったため社長自ら苦渋の決断の元出口の配属になったのだった。
「はい。」
中村はポケットからくしゃくしゃになった紙を取り出した。
「13140円。」
男は紙を機械に通すと通行料を言った。
「いや高いって。」
「13140円。」
値段を渋る中村に対して男は無表情で対応した。
「それは車の値段でしょ?これ自転車だから。タイヤ2個しかついてないから半分でしょ?」
中村は独自の謎理論を繰り出した。
「だからえーと5000円ぐらいか。」
「6570円。」
男は瞬時に脳内で暗算すると半分に割った。計算は早くても彼もまた馬鹿だった。
「ほいじゃあここにこれだけあれば足りるだろ?」
ゴソゴソとポケットからぐちゃぐちゃの紙幣にありったけの小銭を取り出した。
男はそれを数えるとレジからお釣りを取り出した。
「17675円のお釣り。」
日本中探してもお釣りで万札が出るのは中村が会計した時ぐらいである。
「あぁいいそれやるよ。返しがあるなら足りるってことだな。」
「えっ?」
中村ワールドに取り込まれた男はバイト中決して見せなかった感情を露わにした。
「じゃあそのバーあげてくれ。」
男は戸惑い意味わからなくなったため言われるままにバーを上げた。
「サンキューじゃあな。あっすまんがその黄金のコインは欲しいな。タバコ切れたから。」
中村はお釣りの五百円玉を一枚掴むと料金所を後にした。