8.神代奪還戦線② 私が神代よ!
俺はタリタ肉の最後の一口を飲み下すと、渋々明かした。
「神都ではなぜか、俺の魔法がうまく働かねえんだよ」
「え⁉ なんでよっ?」
「だから理由は知らねえって」
たぶん教会が神都全体に張ってる、保護結界魔法あたりが原因だとは思うんだが……
ミスティに魔法が効かないのと違って、神都を離れればいいだけの話だから、正直その辺はあまり追究してなかった。
「ふぅん……よく分かんないけど、あんたの魔法もいろいろ制限あんのね」
キッカはひとまずは納得したようにうなずき、そして「ん?」と眉をひそめた。
「じゃあ昨夜あたしを脅したのは、全くの嘘っぱちってこと?」
「全くじゃねえ。場合によっては成功する時もある」
「そんなちんけな意地はどうでもいいのよ。よくもだましてくれたわね」
「喧嘩の最中に、自分の弱点明かす馬鹿がいるかよ。だまされたのも含めてお前の負――」
ぶつりと言葉を中断する。自分のそれよりも気になる言葉を耳にして。
「神代……私! 私が真の……」
雑踏のノイズに紛れて聞き取りづれえ。
俺は声のする方に向かって進んだ。
すると五番通りの入り口付近に、見覚えのある女を見つけた。
昨日見かけた、ベールをまとった中年女だ。相も変わらず、熱量ある叫びを上げている。
「私が神代よ! 私が皆に御言を伝えるの!」
キッカが不思議そうに首をかしげる。
「なに言ってるのかしらあの人。神代はミスティなんでしょ?」
「ああ。だけど自分が神代だと信じ込んでんだ。昨日までならともかく、今となっては誰も信じねえだろうけどな」
俺の言葉を証明するかのように、女の周囲には不自然な空間が生じていた。広場自体は混み合っているのに、通行人が女を避けて歩くから密度がいびつになっているのだ。
「選定は間違っている! 私が神代に選ばれるべきだった! 私が真の神代なのよっ!」
「大丈夫かしら、あんなこと言っちゃって。今に代行者に捕まるんじゃない? そうでなくとも信心深い人に絡まれるんじゃ」
「その前に俺が絡む」
「へ?」
ごみになった串をキッカに押しつけると、俺は中年女に近づいた。
「よお」
「あなたは昨日の……」
女はすぐに俺のことを思い出したようだ。
まあこんな戯言に、立ち止まって耳を貸すやつなんざ数も知れてるか。
「ちょっと、ごみくらい自分で捨てなさいよ!」
隣で嚙みついてくるキッカは無視して、俺は続ける。
「まだ自分が神代だって思ってんのか?」
「思ってるだけじゃない。事実そうなの。私が神代なのよ!」
「だったらよ」
狂気のにじんだ女の目を見て、俺はぴっと指を立てた。
「こんな所でか細く主張してねえで、中央にぶちかましに行こうぜ」
◇ ◇ ◇




