8.神代奪還戦線① あまり言いたくなかったが、仕方ねえ。
◇ ◇ ◇
「それで、どうやってミスティを助け出すわけ?」
中央広場の一角で、ポメラ牛の串焼きを片手にキッカが言う。周囲の通行人を気にしてか、こころもち声を潜ませて。
「どうやってっつっても、教会を説得するか、あいつを連れ出してさっさと逃げるしかねえだろ」
俺はキッカの横を歩きながら、自分の手にある串焼き――こちらはタリタ鳥のもも肉だ――にかぶりついた。言賜の儀は観光客が一段と増えるからと、宿屋が即席で用意したテークアウトメニューらしいのだが、これがなかなかにうまい。しかも神代の連れだってんで、お代は無料ときたもんだ。神代様すげえ。
「あたしが言ってるのは、どうやって教会を説得したり、ミスティを連れ出したりするのかってことよ。当たり前のこと言わせないで」
俺の鼻先で串を振りながら、キッカ。鋭い串の先端が間近で揺れる。
「おい危ねえだろ、目に刺さったらどうすんだよクソが」
「それはそれで清々するじゃない」
「てめ、まだ俺を前世と結びつけてんのかよ」
「違うわよ」
キッカは串を引っ込めて胸を張った。
「前世は関係ないわ。ちゃんと今のあんたがうざくて言ってる」
そうか。それなら別にいい……ってわけでもねえけど、まだマシか……
なによりミスティの件があるのに、こんなアホなことでもめて時間を無駄にしたくはねえ。
俺は妥協してやることにして、広場の中心をぐるりと囲む壁へと目をやった。
都を囲う外壁ほどではないが、やはりそれなりの高さはある。見たところ壁に沿うようにして、一定間隔で衛兵が配置されているようだった。もちろん、壁正面に構えている聖門にも。
神職者でもなんでもない俺たちは、簡単には中に入れてもらえないだろう。
入るための方法を模索しながら、俺は話を元に戻した。
「ミスティがいる場所は見当がついてる。言賜の儀を控えた神代は、大教会の清めの間にいるはずだ」
「あー、なんかそんな話だったわね。確かそこでエリオンテと交信して、神力を授かるのだとか……本当かしら?」
「さあな。んなことこの際どうでもいいだろ。とにかくその間は誰も清めの間に近づけない。だったらそこに忍び込んでさらえばいいだろ」
「そんな簡単にいくと思う? 絶対警備は付いてるでしょ」
「お前ご自慢の魔法があんだろ」
さすがに代行者には及ばないだろうが、こいつの《ユーザー》ランクはそこそこ上だ。最悪強行突破になったとしても、身体を張った囮くらいにはなれるだろう。
「魔法で教会に盾突くなんて、下手すりゃお尋ね者じゃない」
キッカはいっそう声を潜めて葛藤するように、なにやらぶつぶつひとりで言っていたが、
「……仕方ないわね」
とため息をついた。
「まあいざとなれば、あんたの陰険ゲス魔法でなんとかなるか」
「当てにするならせめて敬意を払え」
キッカを半眼でにらみ、口早に続ける。
「それとそもそも、ここ神都において俺の魔法は当てにすんな」
「なんでよ?」
間髪容れずに聞き返してくるキッカ。
やっぱ聞いてくるか。まあそうだよな……
あまり言いたくなかったが、仕方ねえ。




