7.巡る因果⑥ 血の導きを汝らに。
◇ ◇ ◇
「ったく、買えもしねえのに豪快に商品あさるなよ」
先ほどの道を逆にたどっていきながら、俺はぶつくさとこぼした。
が、ミスティは気にも留めていないようだった。うれしそうに左腕をかかげ、
「ちゃんと買いましたよー。ほらこれ」
「それは俺が仕方なく買ったんだろっ」
「貢ぎ物サンクスです」
「確信的なら殺すぞてめえ!」
さすがに沸点までいき、吠える。
ミスティが身に着けているのは、時間を示すマジック・ジャンクだ。ジャンクとしては品数が多い部類に入るが、陽光で動くなど使い勝手がいいためそれなりに値は張る。
かくいう俺も一個所持しており、だからこそ買う必要などなかったのだ。
じゃあなんでそんな物を購入したかというと、この全力うっかり娘がカウンターからうっかり落とし、盤面カバーに傷を付けやがったからだ。
「金がねえならねえなりに、つつましやかに振る舞えっての」
半ば以上諦めて、それでも一応俺はあがいた。
「私だいぶつつましやかですよ?」
全身全霊諦めた。
「分かったもういい。とっとと曲芸通り行ってさっさと見て回って、宿泊街で宿取るぞ」
「りょうかーい」
調子よく応えるミスティをせめて困らせてやろうと、俺はせっせと足を速めた。
五番通りに戻ると、さっきまでジャンクに夢中だった姿はどこへやら、ミスティの興味はあっさりと大道芸人に移った。
……どれだけトチ狂ったとしても、こいつにはプレゼントなんてしてやんねえ。
「へえー。灼熱の床歩きにジャグリング……あ、すごい! ナイフの嚥下なんてものもあるんですね!」
鋭い刃をのみ込んでいる男を見て、ミスティが感嘆の声を上げる。
それはいいが、「頑張ってください」と言いながら、剣のみ男の肩をたたくのはやめてやれ。
なんでこんなのに付き合ってんだろ、俺……
後悔しつつ、はしゃぐミスティの後に付いていく。
ミスティは目移りするようにどんどん芸を見て回り、やがて外壁のある突き当たりへとたどり着いた。
「血の導きを汝らに」
そう俺らに呼びかけたのは、薄いベールを頭にまとった女だ。ツノの上からベールをかぶっているのだろう。側頭部にふたつ、不自然な盛り上がりがあった。
年のほどは、中年に差しかかったくらいだろうか。化粧っ気はなく、清楚というよりは質素な装いでたたずんでおり、まるで生気を絞り尽くされたかのような雰囲気だ。ただし顔にはまった碧眼だけはぎらぎらと、異様な存在感を放っていた。
女は紋様を描くように、虚空を指でなぞって続ける。
「私は神代。神の言葉を伝える者。来る言賜の儀に、聖なる言葉を紡ぐ者」
「神代ってもう決まってるんでしたっけ?」
あれ? とミスティが首をかしげる。
「まだだろ。俺も詳しくは知らねえけど、決定は前日のはずだ」
確か日が変わる深夜帯に、拡声魔法で大々的に街中に知らされるとかなんとか、やたら迷惑極まりないしきたりだった気が。
女は少しむっとしたように言ってきた。
「私には分かるのです。本物は、選ばれる前に選ばれている。頭の中に響く言葉が、私が神代だと告げるのです」
なんだかねえ……別のもんに選ばれちまってる気がしねえでもないが。
こういうのと関わるといろいろめんどくせえ。
俺はくるりと女に背を向けた。
「行くぞミスティ。そろそろ宿取りに行かねえと」
「え、もうですか? もう少し――」
「宿によっては、夕食時に演舞が見られるぜ」
「さあ行きましょう!」
はきはきと付いてくるミスティ。
……悲しいことに、だんだんこいつの扱いに慣れてきた。
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