6.胡蝶の夢⑪ 鳥の声
◇ ◇ ◇
……鳥の声がする。
目を閉じていても分かる。朝が来たのだ。
まぶたを通して感じる光すら今は強く感じるが、ここで起きなければずっと起き上がれない気がして、俺はゆっくりと目を開けた。
目に入ったのは、ちぎれ雲がばらまかれた薄青の空だ。
だから屋外で寝ていたのかと思ったが、なんのことはない。ただ屋根がないだけだった。
恐る恐る半身を起こす。動かないのではないかと思ったが、どうにか身体は動いてくれた。
だけど……だりい。すっげえだりい。痛みはだいぶ引いたが、身体が重い。
顔を動かすのも億劫なので目だけで見回すと、半壊した室内が視界に入った。
昨日、宿泊場所に選んだ――っつってもほぼほぼ野宿みてえなもんだが――焼け残った民家である。俺はそこのベッドに横たわっていた。
はて。ここにはミスティが寝ていたはずだが……
そこまで考え、濁っていた記憶がよみがえる。
昨夜、割と本気で死にかけてた時。運よくミスティが俺を見つけてくれた。
俺とキッカが寝床を抜け出していることに気づき、月下の胸きゅんデート(発言ママ)をのぞこうと捜していたらしい。地面に這いつくばっている俺を見て、聞きもしないのに混乱しながらべらべらしゃべってくれた。
それに関しては、デートじゃねえよとかデートだったとしてのぞくのは悪趣味過ぎんだろとか、いろいろ思うところはあったが、いかんせん俺は死にかけてたのでその辺は自粛した。
後のことはよく覚えてないが、毒や解毒剤の件は、きちんと伝えることができたと思われる。朦朧とする中、解毒剤を飲まされたり、かつがれたり――途中から半ば引きずられているような気はしたが――したのは記憶にある。
……んで今、ここに至るという訳か。
ベッドの左脇で座り込み、頭と腕をシーツに乗せて眠りこけているミスティを見下ろし、息をつく。
反動で痛んだ腹部に手をやると、布のようなものに触れた。つまりは手当てもしてあるということか。
……俺、一応はこいつの護衛なんだっけか。
さすがに情けなくなって、俺はうな垂れ頭を抱えた。
あー、ったく。なにやってんだ俺は……
と、ミスティがうめきながら顔を上げる。どうやら目が覚めたらしい。
「起きたか? その、昨日は悪いな。いろいろと世話に――」
俺が皆まで言う前に、ミスティはがばっと身を乗り出してきた。
「ウィルさんっ⁉」
「…………」
「ウィルさん、大丈夫ですか⁉」
「……いや、死ぬかも……」
腹部――体重をかけたミスティの手に押し潰された負傷部位から届く痛烈な刺激に、俺は泣きそうな声を上げた。
◇ ◇ ◇




