6.胡蝶の夢⑤ 終わることのないやり直し
よくできました。
手首を返して指を止め、そのままキッカを指し示す。
続きを促されたキッカは一度視線で抗議を訴えると、
「まあ、よくある話よ」
切り替えるように物憂げな息を吐き出した。
「辺境で疫病が流行ると、悪魔だ呪いだとかで被差別民が狙い撃ちされる。流族なり無角者なりね。ここは流族の村みたいだから、無角者のダンが標的にされたんでしょう。そして最終的には疫病により、村そのものが死に絶えた」
「それがどうして、人が消えたり、よみがえったりするのにつながるんです?」
「あくまで想像の延長だけど。ダンはたまたま、罹患するのが遅かったんじゃないかしら。死に逝く村人たちを見て、彼らから責め立てられて、自分がなんらかの呪いを引き起こしてるのだと思い込んでしまった。そして自分も病に侵され、死ぬという時になって――」
「その時願っちまったんだろうな」
思わず口からこぼれ出る。
「元々横取り屋の力を使いこなせてたのか、最後の最後で覚醒したのかは分かんねえけど。とにかくやり直しを願ったこいつの意思は、リーク・スポットから奪った魔力で具現化されちまった」
「なによ結局説明奪ってんじゃない。目立ちたがり屋」
「うるせえな。いいだろ別に」
ちまっこいことを言うキッカに犬歯をむいていると、
「それでみんな生き返ったって言うんですか?」
確かめるようにミスティが聞いてくる。
「っていっても、ダン含め村人そのものは完全に死んでるけどな。よみがえったのはダンの記憶に基づいて再現された仮想人格体だ。個々に考え感情を発露するが、本人じゃない」
ミスティは痛ましげに、今は満ち足りた顔で眠るダンを見下ろした。
「……やり直しを願って再現して、なのにそれでも罵られるんですか?」
「仮想人格の根幹はそれぞれの精神性に起因してるからな。悪魔の呪いにとらわれた村人たちは、かたくなに『悪魔』を信じて疑わなかった。だからダンの言動に合わせて――呪われたと思ったら、勝手に自己暗示で消えていく。そうやってストレートな死の呪いが、繰り返し再現されてたんだ」
死の間際にダンがやり直しを願う。
だけどやり直しても大筋は変わらない。村人も、そしてダンですら心の奥で、自分が諸悪の根源だと思っていたから。
そして仮想人格体にも憎まれたダンの再現体は、またやり直しを願う。魔力は途切れることなく供給され続け、終わることのないやり直しが続く。
「さっきのでダンの無念も晴れただろうから、もう繰り返すことはねえだろうけどな。きっと村が燃えてようやく、あいつは自分が悪魔じゃないと安心できたんだ」
「そうだったんですか……」
ミスティはしみじみつぶやくと、気づいたように聞いてきた。
「ウィルさんは?」
「あん?」
「ウィルさんも……やっぱり、大変だったんですか……?」
「俺は別に。むかつくやつは燃やすだけだし」
気遣う視線をはねのけるように、俺はやや乱暴に手を振った。
と、
「あ」
キッカが声を上げる。
声に釣られて見下ろすと、ダンの身体が透過していた。ハンナが消えた時みたいに。
「も、もしかしてまた生まれ直しですかっ?」
「まさかそんなことは……」
ないとも言い切れねえが。元々確証をもってやったことじゃねえしな……
全員固唾をのんで成り行きを見守る。
ダンの身体が透過していく。この世界から、存在が押し出されていく。小さな手足も、安らかな寝顔も、なにもかもが消えていく――
完全に消失したかと思えた瞬間、消えた身体と交代するように、なにかが大量にはじけ出てきた。
ひらひらと揺れる四枚の羽に、細長い触角。
それらは瑠璃色の蝶だった。




