1.不思議少女と導司様⑥ アドザ
◇ ◇ ◇
奥まった場所に位置する村の、さらにその奥。そこに集会場は存在した。
草が刈り取られてぽっかり空いた円形の地面を、二重三重に囲うように、石や木で作られた椅子が並んでいる。席数には余裕があるのか、恐らくはこれで全てであろう村人たちが座っても、まばらに空きが見受けられた。
特に空き地の奥に当たる部分には空席が目立った。というより、ひとりしか座っていない。空き地中央に立つ話者の顔が見えなくなるのを、避けてのことだろう。
……別にあんな貧相な顔なんて、見れなくてもいいような気もするけどな。
集会場の様子を茂みの陰からのぞき見ながら、俺はそんなことを思った。
そう、茂みの陰だ。
俺とミスティは、集会場の席には座っていない。
じいさんに誘われたとはいえ、閉鎖的な村の重要なイベントに、部外者の俺たちが手放しお気楽に飛び込み参加する気にはなれない。
いつ奇声を発しながら槍を振りかざして襲ってくるともしれない――などとはさすがに思わないが、こういう時は遠巻きに見るに限る。
第一周囲が謎の熱気に包まれている中、自分だけが冷静な時の場違いさ、居たたまれなさは半端ない。そういった意味でも様子見したかった。
――閑話休題。
俺は改めて、集会場の中央に立つ貧相な男へと目をやった。
手入れをサボっていること確実のぼさぼさ頭に、もじゃもじゃの髭。すっかり日が落ちて、等間隔に立てられた松明しか光源がないためよく分からないが、たぶん毛髪の色は黒系統だろう。そしてそろいの黒系の双角が、ひょろりと髪の隙間から突き出ている。
目の色は……見えないが、見なくたって分かる。流族が、こんな焰族だらけの村で祭り上げられるわけがねえ。たぶん赤目だな。
野暮ったいローブに隠れた身体は恵体には到底思えず、ローブの裾からのぞく足首はまるで鳥脚だ。だらんと垂れた右手には、杖らしき物が握られていた。短めの、やけにごつごつした杖だ。松明の光の照り返しから、なにかの金属製と思われる。
なんにしろ、どういった角度から見ても立派に(?)貧相な男だった。
ただ脇に、今にも倒れそうなたたずまいの、腰が大きく曲がったじいさん――村長だろうか?――を従えているから、相対的にもしかしたらちょっとは力強さがアップして見えるかもしれない。
「あれが……導司様……?」
隣でミスティが、ぶつぶつとつぶやいているのが聞こえる。導司という言葉の響きから、かっこいい感じのなにかを想像していたのだろう。
世界を見たくて旅立った結果、早々に貧相なおっさんという現実に触れたわけか。おめでとうよかったな。
「皆そろったようだな――それではこれより、導司様から御言を賜る」
村長(勝手に決めた)が、見た目に反してしっかりとした口調で、開始を宣言する。
「導司様、お願いします」
「うむ」
そばの椅子へと引っ込んでいく村長にうなずくと、男――アドザは右手を掲げた。ローブの袖がめくれ、骨張った腕が姿を現す。
「ピッケル殿、前へ」
「は、はい!」
俺たちに一番近い席に座っていた男が、声を裏返らせて立ち上がる。後ろ姿でも分かるほど緊張した足取りでアドザの前まで行くと、気をつけの姿勢で静止した。
「これより、そなたの未来を視る。創神エリオンテ様の御言を伝えよう」
「お願いします」
アドザの言葉に、神妙に返す男。
静かな時が流れる。
たまっていた唾を飲み込んで初めて、俺は自分も緊張していることに気づいた。
どうやらなんだかんだで、俺も少しは期待していたらしい。我ながら調子がいいとは思うが、まあそんなものか。
ちらりと横を見ると、ミスティも気を取り直して、真剣なまなざしをアドザへと注いでいた。
アドザが杖を振るう。
重々しい厳粛さは感じないが、見ようによっては、無駄な見栄えを排した本物の所作と見えなくもない……のかもしれない。
場を支配する緊張。虫の音すら途絶える。
すると突然杖が七色に輝き、陽気なメロディーを奏でだした!
そして同時に声が流れる!
『明日は誰にもやって来る! だから今できることを全力で! ハッピー★ラッキー願いを込めて! エリオンテのスマイル占い♪』
「……あ?」