5.死を招く村⑥ 村は死んでいた。
◇ ◇ ◇
「陰気くせー村だな」
「誰よふかふかのお布団って言ったの。ふかふかどころかカビ生えてそうじゃない」
「ふたりとも、そんなずばり言わなくても……」
ミスティは俺とキッカをたしなめると、他に適した形容表現を探すように、じっくりと周囲を見渡した。が、
「……まあ確かに、陽気さとは無縁な感じですけど」
結局は俺らと大差ない言葉を吐き、肩をすくめた。
「なんかこっちまで気分が落ち込んでくるわねー」
口をへの字に曲げ、厄払いをするように手を振るキッカ。
確かにな。
さっきまでは晴れ空に見合うくらいに、空気はからっとしていた。
だがここはなぜか、よどんだ湿気に覆われている。しけった空気の中では、どうして気分が重くなるのか。そんなどうでもいいことまで考えてしまう。
とにもかくにも村は死んでいた。
いや、正しくは死の気配に包まれていた。
小さく寄り集まった家々には、窓から人影らしきものが確認できたし、少なくはあるが戸外にも人の行き来はあった。
しかしそいつらの顔には一様に、恐怖の感情が張りついていた。それは各家の戸口に、草人形――確かこの辺りにおける、弔いの風習だ――がつるされていることと関係しているのだろうか。
なんにせよ、ここでぼーっと突っ立ってても仕方ねえ。
俺は一番手近な、家の庭で作業をしているおっさん――つっても、立ち話をするにはやや距離があるが――に呼びかけた。
「なあ、あんた」
庭木から実をもいでは左手の籠に入れる……という作業を繰り返していたおっさんの手が、ぴたりと止まる。
おっさんがこちらを振り向くのに合わせて近づいていくと、ぼそっとしたつぶやきが耳に届いた。よくは聞こえなかったが、礼儀がどうとか言ったようだ。
それがおっさんの、無角者に対する姿勢なのかと判断しかけ、すぐに思い直す。
そういや、俺は今有角者だった。
キッカたちの「今のあんたには最低限の用心でしょ。少しは頭働かせなさいよこのクズ」「そうですよ、ふかふかお布団が懸かってるんですから。わがまま言ってないで、たまには理性のレベルを徘徊獣からヒトのラインまで上げてください」との説得(つか暴言)を受け、あのいまいましいツノをまた付けているのである。だからおっさんの態度は無角者とは関係ない。
んじゃああのおっさんは、一体なにをぶつくさ言ってんだ?
おっさんは俺の表情を見て、きちんと聞き取れなかったのだと察したらしい。眉間に皺を集めて、覇気のない碧眼には不快さを浮かべ、こころもち大きな声で言い直してきた。




