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5.死を招く村① 少年以外には誰もいない。

◇ ◇ ◇


「嫌だよお前なんか。ひとりで遊べよ」


 拳を握る。

 小柄な自分が軟弱な拳を打ち込んだところで、眼前のガキ大将――どころか取り巻きの子どもたちにさえ、さしたるダメージを食らわせられないのは分かっていた。

 だがもとより自分を奮い立たせるために拳を握ったのであって、攻撃力は関係ない。


「で、でも……」


 奮い立たせた割には情けない声が出てしまい、少年はいったん口をつぐんだ。

 ガキ大将たちは、一応はこちらの言葉を待ってくれているらしい。

 彼らの目に表れるいら立ちと無言の催促に押されるような形で、仕切り直す。今度は普通に――目は伏し目がちではあったが――言うことができた。


「でも、僕もみんなと遊びたいよ」


 途端、ガキ大将たちの顔が申し合わせたようにゆがむ。

 彼らが顔全体に嫌悪感を浸透させるのに合わせるようにして、少年は視線をさらに下方へとそらした。自然うつむき加減となり、垂れた前髪からのぞくのが彼らの足だけとなる。

 と、その足が一歩こちらへと踏み出された。

 顔を上げると、もう一歩分の距離を残してガキ大将が立っていた。彼は一度ふんと鼻を鳴らしてから、声に冷ややかなものを含ませ、


「化けモンがなに言ってんだよ。お前みたいな化けモンが、俺たちと遊べるわけないだろ」


 痛い。

 昔から、恐らくは生まれた時から自分をさいなんできた痛み。だがいまだにその出どころが分からない。ただ漠然となにかが痛い。深く追究する気はなかった。分かったところで、それに対する特効薬がなければ意味がないから。

 痛い。

 これ以上この場にいても、もっと痛いだけかもしれない。

 痛い。痛い。

 それでも。

 少年はほとんど泣き顔に近かったそれを無理やり笑顔へと変えて、ガキ大将たちに笑いかけた。


「じゃ、じゃあ化け物ごっこやろうよっ。僕が化け物で、君たちが退治屋。これならいいでしょ? ね? ね? 他にもなんでもやるしさ、だから――」

「嫌だって言ってんだろ! 鬱陶しいんだよ、化けモンがっ!」


 敵意むき出しに怒鳴られ、少年は今度こそ言葉を失った。先ほどよりも深くうつむき、下唇を強く()む。

 痛い。

 ガキ大将は、もう少年に構うつもりはないようだった。少年に背を向けると取り巻きたちを(いち)(べつ)し、


「行こうぜ。化けモンが邪魔でここじゃ遊べねえ」


 振り返りもせず、取り巻きを連れて去っていった。

 村外れの野原。生えている雑草は丈が短いものばかりで、駆け回るのに支障はない。寒村の子どもらが遊ぶには十分な広さがあるため、数ある遊び場の中でも使用頻度の高い場所だった。

 しかし今は誰もいない。少年以外には誰もいない。

 いくら遊び場が広くても、ひとりでは全く意味がない。

 幼子には大き過ぎる(せき)(りょう)感が、辺り一帯を包んでいた。

 鼻の奥がつんとする。痛い。


「……僕は……化け物なんかじゃない……」


 痛い。痛い。だけど今痛くても。


「……きっとみんな、分かってくれる。信じていれば……」


 信じていれば。いつかきっと、痛くない日が来るのだ。


◇ ◇ ◇

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