4.鮮碧の矜持⑰ 俺にとっては
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青空の下、焦土と化した一帯に焦げ臭さが充満している。
風が吹き上げた灰をさすがに吸う気にはなれず、俺は風上側へと移動した。
敵はもういない。骨も残さず土へと還ったから。
……うーん。大きい魔法を使うとやっぱ、微調整が難しいな。次はもっとピンポイントに極限の威力を込めてみるか。
軽い振り返りを終え、俺は大きく伸びをした。
と、こちらを見つめる二対の目に気づく。
「なんだよ。まさか『殺す必要あった?』なんて言うんじゃねえだろうな。言っとくけどさっきの矢は、お前らもしっかり狙ってたんだぜ」
歯に物が挟まったような顔のミスティとキッカに、先回りして反論すると。
「言わないわよ。ただ」
「ただなんだよ。自然を大事にしろってか?」
「まあ、それもあるっちゃあるけど……」
「すごい魔法だな……って思って」
「そりゃどうも」
おざなりに言い、俺はザックを担ぎ直して反転した。
もうここに用はねえし、この焦土のありさまは遠目にもよく分かる。そうでなくともここは街道なのだから、人だってすぐに集まる。誰かがやって来る前に、とっとと行くが吉だ。
歩きだすと、ミスティたちも慌てて付いてきた。
キッカが横に並びながら、聞いてくる。
「あんたさ、その頭のせいで散々な目に遭ってきたんでしょ?」
「単刀直入だな」
「いいでしょ別に。で、それだけ強力な魔法が使えて、なにかしようって思わないの?」
「なにかって?」
「だから……世界を滅ぼそうとか征服しようとか。『希代なことをしてやろう!』『俺が魔王になってやらぁ!』みたいな」
「それか、神都の教会兵に自分を売り込むとか。横取り屋でも、これだけ力があればいけるんじゃないですか?」
「まずお前のお気楽路線だが」
会話に加わってきたミスティに、冷たく返す。
「無角者が中央でやっていけるわけねえだろ。馬鹿抜かすな」
「でも中央ほど朱碧平等をうたってる所はないですよ?」
「そりゃ腐っても神都だからな、建前は立派に掲げるさ。でも無角者の実質的な扱いなんてどこも大差ねえ。どっちかつうとお前らの方が、無角者に対する態度としては異端だぜ?」
「それはもしかして、遠回しにうれしいって言ってるんですか?」
「別にどーでも。で、お前の魔王誕生路線だが」
魔王ってなんだよと思いつつも、答える。
「メリットに対してリスクがでか過ぎるのに、そんなもの目指すわけねえだろ」
「そんなものなの?」
「そんなもんだろ」
青い空を見上げながら、俺は無感動につぶやいた。
それに認めたくはないが。
たぶんなにより、こうやって普通に会話できることが、俺にとっては希代なんだ。
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