4.鮮碧の矜持⑦ 別に構わないだろ?
俺がばっさり言い捨てると、シフォンは不愉快そうに片眉を立たせた。
「なんだって?」
「種族がどうとか関係なく、てめえは人を殺してごみ箱に放り込むクズってことだよ」
「ああ、あれを見たんだ」
シフォンは合点がいったようにうなずきながらも、自分の正しさを主張してきた。
「先に襲ってきたのはやつらだ。別に構わないだろ?」
「構わねえよ」
俺はひょいと肩をすくめた。
革命隊の拠点に案内されたあの日、俺が路地裏のコンテナで見つけたのは、腐乱しかけた死体だった。シフォンに暴行を働いた後、俺にぶちのめされた男ふたりの。
「他人が死のうと興味はねえ。ましてやちんぴらなんてな。でもそれはそれとして、お前は身動き取れない人間をなぶり殺してごみ箱に捨てた――こんなとがった行動取るやつ、世界がどうとか関係なく、筋金入りのクソだと俺は思うね」
「そのクソさは、環境が作った性行なのかもしれないよ?」
「だからなんだっていうんだよ。俺だって自分の性格が多少ねじくれてることは自覚してるが――」
「多少?」
キッカが疑わしそうに口を挟んでくるが、無視。
「自覚してるが、それを環境のせいにしたりはしねえよ」
「その辺りは考え方の違いだね。分かり合うのは難しそうだ」
シフォンは早々に議論を投げ出し、話題を転じた。
「ところでさ。僕がどうして、こんなのんきに会話に興じているのか疑問には思わなかったかい?」
「思ってるぜ。だからその理由を教えてくれると、手っ取り早くて助かるんだけどな」
半ば以上冗談だったが、多少は下心を込めて言ってみる。
こいつ自身が言う通り、追い詰められている割に、シフォンは逃げるそぶりすら見せない。隠し球の類い――例えば攻撃力の高いマジック・ジャンクとか――を持っている可能性はある。
いつもの俺なら、そのときはそのときとばかりに、問答無用でシフォンをたたきのめすところだが……
今は一応、マーリーとミスティの衛護を請け負っている身。できれば安全に事を運びたいところだ。
しかしシフォンは案の定というか、俺の呼びかけには微笑みで応じただけだった。そして懐に手を入れると――こちらに向かって駆けてきた!
俺は後方へ飛びのきながら、胸中で歓声を上げる。
よっしゃ、こっちに来てくれるってんなら、やれることは増えるぜ!
かざした手のひらの先で幾つもの氷が生まれ、形を成していく。
魔法提供者は無論、優しく有能な刈り上げ男たちだ。ちっとばかり強引に魔法を使わせて、《アクセス権》を奪い取っておいた。が、
「正直僕も、どこに当たるか分からないんだよね!」
シフォンが鋭く叫び、懐から右手を取り出す。その手が握っていたのは、L字型の、筒のような物だった。
ジャンク屋で一度見たことがある。あれは――