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1.不思議少女と導司様④ マジック・ジャンク

◇ ◇ ◇


「さてと。この辺でいいだろ」


 街道脇の木の下にどさりと荷物を置き、腰を下ろす。


「やったあ、木陰ですぅ」


 ミスティもザックを下ろし、へばるように俺の左隣へと座り込んだ。

 おいおい。街を出てから休みなしで歩いてきたのだとしても、ばてるの早過ぎんだろ……

 旅の仲間とやらの情けねえ姿を見て、俺は早々に同道を後悔しつつあった。

 ミスティと短期契約(?)を交わしたものの、細かい話を詰めるには外野――スキンヘッド&刈り上げ男が目障りだった。やつらは逃げ出す気配(というか目を覚ます気配)が全くなかったので、俺たちの方が適当に歩いて距離を置いたという訳だ。

 ……なのであいつらがきちんと生きているかどうかも不明だが、あの状態なら大丈夫だろう。もしうっかり死んでたとしても、まあどうでもいい。正当防衛だし。

 ともあれそんなこんなで今、俺とミスティは大きな木の下にいた。

 もし旅人に木陰を提供するためにこの一本樹が植えられたのだとしたら、素晴らしい配慮だ。

 温暖な今の季節、あくせく歩けば汗もかく。じりっとした日差しを()けて涼やかな風を堪能できるなんて、ありがたいことこの上ない。

 俺はしばし風のそよぎに耳を澄ませていたが、やがて木の幹から背を離し口火を切った。


「よしミスティ。早速だがマジック・ジャンクよこせ」


 言われたミスティは、まだ涼み足りないらしい。口をとがらせながら、


「せっかく涼んでるのに、せっかちさんですねぇ。女の子と手をつなぐ時も、そんなにがっつくんですか?」

「俺はそういうキモい冗談が嫌いだ」

「意外に潔癖なんですね。というより純情? 純情ボーイ?」

「うるせえ黙れ! 早くよこせ!」


 鋭く言い捨て、手のひらを突き出す。

 ミスティはやれやれとばかりに肩をすくめ、ザックをあさって()()を取り出した。


「これです」

「ほお」


 感心した声を上げつつも、実のところ俺は()()の正体について、全く見当もついていなかった。

 ミスティからブツを受け取り、裏表をまじまじと見て正体を探る。

 片手で持てる程度の、平べったい板のような物体だった。取り立てて重量感があるわけでもない。マジック・ジャンクによく見られる材質で、爪で小突くと硬い感触が返ってきた。

 板の上部は、長方形の形にくぼんでいた。くぼみは大小ふたつあり、うちひとつは透明な物体で覆ってあるようだった。

 そして一番重要であろう特徴は、板上に大量に並んだ突起物である。それぞれの突起物に数字や謎の記号が転写(?)されており、指で押すと抵抗もなく引っ込んだ。


「これは一体なんの用途なんだ?」

「さあ。私も手に入れただけで、さっぱりです。でも見た感じ、なにか便利そうな感じしますよね?」

「見た目だけのごみってこともざらにあるけどな」


 いずこからか現れ出る、魔法を超えた不可思議な物質。

 非常に利便性の高いお宝が見つかることもある。全くもって役に立たない(くず)(てつ)なこともある。

 マジック・ジャンクがマジック・ジャンクたるゆえんである。

 そしてそんな不確かなジャンクを収集するのは、俺にとって大事な趣味だった。


「電気で刺激すると動く物もあったりす――ん?」


 手当たり次第に突起物を押していた指が止まる。

 突起物のひとつ――ACと書かれた突起物を押した途端、大きい方の長方形に記号が出現したのだ。


「なんですかこれ? 四角いですけど」

「いや、これは――ゼロじゃねえか?」


 不思議そうにのぞき込んでくるミスティに、俺は突起物を適当に押して長方形部分を見せつけた。


「見ろよ。他の数字を押しても、同じ体裁の数字が長方形に現れる」

「あ、なるほど。やたら角張ってるけど確かに数字ですね」

「となるとこいつは……おお!」


 俺は興奮のあまり身を乗り出した。


「こいつまさか計算機か⁉ すげえ、めっちゃ便利じゃねえか!」


 使い方はまだよく分からねえが、使いこなせば半端なく便利だ。

 取りあえず十字の記号が『足す』であるっぽいことは分かったから、それを取っかかりに解読していこう。


「いやあ、いい物を手に入れた!」


 ほくほく顔で自分のザックにしまい込むと、ミスティがにっこり(ほほ)()んだ。


「満足してもらえたようで、なによりです」

「ほんとにな……ってお前。どうやってこれを入手したんだ?」


 そういえばと、俺は疑問を口にした。

 先ほどまでいたギトミックは、鉱山の採掘で発展してきた街だ。その鉱山付近で、マジック・ジャンクが出土するようになったと、俺は風の便りで聞いたのだ。

 だが実際に赴いてみると、ガセも大ガセ。はした金にもならないレベルどころか、マジック・ジャンクですらないただの石ころばかりだった。

 まあマジック・ジャンクに興味もないようなやつらからすれば、ジャンクも石ころも大差ない。こんな空振りは日常茶飯事だ。

 そんなこんなで街に戻った俺だったが、そこで情報屋から朗報を仕入れたのだ。入手したばかりのマジック・ジャンクを、換金したがっている女がいると。

 ギトミックにはそういった換金屋――ジャンク屋の類いは存在しない。

 となると女は、ジャンク屋のある大きな街へ向かうだろう。

 そう見当をつけ、複数の情報屋から得た情報を元に、俺は女を待ち伏せた。もし女が()(かく)(しゃ)なら商談でも持ちかけ、焰族(フレアル)(ゆう)(かく)(しゃ)だったなら……まあ奪っちまえばいいかなと思いながら。


「言っちゃ悪いが、お前にジャンクを見つけられるとは思えないぜ。そもそもその様子じゃ、あの現場にたどり着くほどの体力もねえだろ」


 当てずっぽうにずけずけ言う。

 が、こいつの今の(こん)(ぱい)ぶりを見るに、そう間違いでもねえだろう。


「いえそれがですね」


 ミスティは後頭部に手を当て、白状するように舌を出した。


「世界を見るぞー! って息巻いて旅立ったはいいものの、ギトミックでのんびり過ごしてたら、思いの外散財してしまって。今後の路銀が不安になってたところを、マジック・ジャンクについて意気揚々と語ってる人たちがいまして……それでつい」


 ってまさか……

 念のため、確認するように俺は問う。


「……お前、さっきのやつらからスったのか?」

「えへへ」

「えへへじゃねえよ!」


 無論、俺だってこいつからジャンクを奪おうとした身だ。人のことなど言えはしない。

 けどまさか、この女も犯罪チック――というかもろ犯罪サイドを攻めてるとは思ってなかった。

 ……こいつの前では、金目のもんは手放せねえ。

 俺はそっと、自分のザックを手元に寄せたのだった。


◇ ◇ ◇

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