4.鮮碧の矜持② 売られた喧嘩は買うもんだろ!
硬い音が辺りに響く。
マーリーに向かって飛来した複数の氷柱を、間際で現れた氷の壁がはじき飛ばしたのだ。
細かく砕けた氷柱の欠片が、夕陽を反射し朱くきらめく。
「なっ、なんだっ⁉」
どよめく支持者たち。
マーリーやその取り巻きたちも驚きに目を見開いている。とっさに氷の防壁を張ったキッカは多少落ち着いていたが、それでも間一髪の対処に冷や汗をかいているようだった。
そんな中で俺は、ひとりテンションを上げていた。
「キッカ! マーリーを頼む!」
「え? ちょ、ちょっと! あんたはどうすんのよっ⁉」
「売られた喧嘩は買うもんだろ!」
氷柱が飛んできた方に走りだしながら、一方的に宣言する。視界の先には、こちらに背を向けて去りゆくふたつの人影。
これだよこれ、これを待ってたんだよ。
動きだした展開に満足し、俺は嬉々として人影を追った。
距離を取れば逃げ切れると思ってんだろうが、甘い甘い。
俺、脚には自信あるんだよ。日常生活において追い詰めるにしろ逃げるにしろ、脚の速さは要となるからな。
人混みをするりと避けながら、障害物はむしろ利用するように踏み越え、スピードへとつなげていく。
犯人らが細い路地へと逃げ込むと、俺は近くにある住宅へと駆け寄った。ごみ箱や突き出た壁などを取っかかりに屋根へと上がり、広く自由な追跡路を駆け抜ける。
犯人たちが路地の出口に近づく頃には、俺はとっくに先頭だ。
屋根を蹴って、やつらの前にすたっと降り立つ。
追跡者を無事にまいたと安心していたのか、犯人たちは目を見開いて立ち止まった。
男のふたり組だ。共に焰族で、共に人相が悪く、双角スキンヘッドと一角刈り上げという違いで辛うじて個性を出している。
にしてもこの髪型、最近のちんぴらのブームなのか? ちょっと前にも似たような――
ん……?
「あれ、お前ら――」
「てっ、てめえ! あん時の!」
俺が違和感を吐き出す前に、男たちの方が怒声を上げる。
そう、やつらだ。ミスティと出会った時にぶちのめした、あのふたり組。
あの後生死も不明だったが――別に知る必要もなかったし――無事に回復したらしい。
スキンヘッドが俺を見据え、ぎりぎりと声を絞り出す。
「特徴を聞いた時、似てるなとは思ったが。まさか角有者のふりをしてたとはな……ちょうどいい。てめえにはでっかい借りがある」
俺はわざとらしく片眉を上げた。
「なんだよ、まさか俺を追いかけてたのか? 気っ色悪いな」
「んなわけねえだろ!」
スキンヘッドがどんと拳で壁を打つ。
振動が伝わったのか、壁際に積み上げられていたごみ山から、レンガの欠片が転がり落ちた。




