3.深紅の街⑭ 身の危険を感じるのだよ。
マーリーは小さく笑い、半身を傾けて後ろに目をやった。その視線の先にいるのは、頑迷そうな顔つきの、初老の男。
俺にとってはマーリーよりも、こっちの男の方がはっきりと記憶に残っていた。なんせ昨日、こいつの店をのぞいたばかりだからな。
一方男の方はというと、俺を見ても素知らぬ顔をしている。商売柄、客の情報を出さない癖が染みついているのだろう。
それら全てを知ってか知らずか、マーリーは自信満々に後を続けた。
「彼はマジック・ジャンクの裏商売をしていてね。君らはジャンクコレクターなんだろう? 彼の店はなかなかの品ぞろえだぞ」
それは確かに嘘でも誇張でもなかった。というか実際、すでに目をつけているジャンクがある。昨日は時間がなくて吟味できなかったが、近いうちによりすぐりを買う予定だった。
「万が一公邸のジャンクが手に入らなかったら、君らそれぞれが望むジャンクを、私が店から買い取り君らへの報酬としよう」
ふむ……それはそれで、なかなかおいしい話ではある。
内心ではほとんど話に乗りながらも、俺は慎重にうわべを取り繕った。
「協力するとして、こんないたいけな子どもになにしろってんだ?」
途端、キッカがぶっと吹き出した。
「あんたそれマジで言ってんの?」
「うるせえ黙れ!――で、どうなんだ?」
マーリーはなにやら微笑ましげに俺とキッカを見比べ(笑うなクソが)、
「私は、年齢だけで線引きをするのは愚かだと思っている。優秀な者には年少者であろうと敬意を払い、協力を申し込む。君にお願いしたいのは、私の護衛だ」
「護衛?」
「ああ。最近なにかと物騒でね。冗談ではなく、身の危険を感じるのだよ」
ミスティが言ってた、郵便物に刃物云々ってやつか。
「革命隊の中には、《ユーザー》がひとりもいないんです」
シフォンが補足するように話に入ってくる。
あーなるほど。そういうことね。
「見たところ、あなたの奪略魔法はかなりの威力でした。それでぜひとも力をお借りしたくて」
「あら、だったらあなたたち運がいいわね。私も魔法が使えるわ。しかも借り物じゃない、自分の魔法よ」
自慢げに胸を張るキッカ(この女、さらっと俺を馬鹿にしやがって……)に、シフォンは「それはすごい!」と顔を輝かせた。
マーリーも期待を強めたまなざしで、
「それでどうかな? 協力してくれると、こちらとしてはうれしいのだが」
と、やや強めの圧でもって聞いてきた。
俺とキッカは顔を見合わせる。
「まあ元々ろくな手段もなくて、手荒なやり口になりそうだったしな」
「その前に穏便な手段を試みても、悪くはないわね」
話は決まった。
◇ ◇ ◇




