3.深紅の街⑫ なんかあったらまあ頑張れ。
◇ ◇ ◇
「ここが?」
「ええ、ここです」
短く問う俺に、やはり短く答えるシフォン。
入り組んだ路地をぐねぐね曲がりながら着いた先は、廃屋にしか見えない家だった。
シフォンが立てつけの悪そうな扉へと手を伸ばす。開け方にコツでも要るのか――たぶんそれはあえてというより、劣化した末の不便さと思われる――やや不自然な動きで扉の取っ手を引っ張った。
きしんで開く扉の奥には、左右に続く廊下があった。シフォンに促されるまま、俺たちは中へ入る。
屋内もまた、外装に負けず劣らず――というのも変だが――の劣化具合で、ガス灯に照らされた壁にはひびが入っていた。
さて、とシフォンが振り返る。ミスティへと微笑みかけ、
「呼びつけておいて申し訳ないのですが、焰族のお嬢さんはこちらへお願いできますか?」
と、正面向かって右奥の部屋を指し示す。部屋の前には若い女性が控えていた。
「彼女――ミレーユがおもてなしいたします。大丈夫、危害は一切加えません」
「それって私が焰族だからですか?」
ミスティが傷ついたように顔をしかめる。
「すみません。流族と行動を共にしている以上、あなたに種族間のこだわりはないのかもしれませんが……これからするお話を聞いてもなお、友好的でいてくれるのか不安でして。まずは流族のおふたりに話を聞いていただきたいんです」
「でも……」
「仕方ねえな。ミスティ、悪いけど別で待ってろ。なんかあったらまあ頑張れ」
「頑張れって……ウィルさん一応、私の護衛ですよね?」
「それに関しては努力目標だろ」
「そういう予防線はずるいですよぉ」
ミスティは渋りながらも、一応は納得して引き下がった。
「彼女になにかあったら許さないわよ」
「そこは信じていただいて大丈夫です」
念押しするキッカに、シフォンが大きくひとつうなずく。そしてミスティが右奥の部屋へ案内されるのを見届けると、自身もまた歩きだした。
その後に俺とキッカが続き、足を踏み入れたのは左奥の部屋だった。
シフォンは扉――外扉よりは傷み具合が幾分マシな、といった程度のやっぱりおんぼろな扉――を押し開き、俺らを中へと招き入れる。
ひとり部屋くらいの広さを想像していたのだが、中は思ったよりも広かった。
よくよく見ると部屋中央に、壁をぶち抜いた形跡がある。ふたつの部屋を強引に一部屋にしたらしい。
……崩壊したりしねえだろうな。
そんな不安を抱きながらも、俺は室内の様子を確認した。




