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3.深紅の街⑪ 僕らの拠点はこちらです。

「そうそう、こうしていけ好かないやつに会いに行くのだって、お前の意思を尊重してやってのことだぜ。そこんとこよく考えろよ堅物女」

「あんたこそ慎みなさい気取り屋とがりマン」

「てめ――」

「ウィルさん! キッカさんもやめましょうよ! 行くって決めたんだから行く。それでいいじゃないですか」


 ミスティになだめられ、俺とキッカはようやく歩きながらのにらみ合いをやめた。

 ミスティがほっと息をつき、そういえばと聞いてくる。


「ウィルさん。シフォンさんと出会った路地裏って、あとどれくらいかかるんです?」

「もうそろそろだぜ」


 言ってるうちにもその路地裏に差しかかり、俺はすたすたと奥に踏み込んでいった。

 しばし歩いて、違和感に鼻をひくつかせる。

 表通りで散々嗅いだ香気にある意味あてられて、()(こう)にはいまだにその香りがへばりついていたが。

 その香りを押し分けて、わずかに届いた臭いがあった。


「なんか臭くない?」

「そういえば異臭が……」


 キッカとミスティも顔を見合わせ、臭いの出どころを探っている。そこへ、


「来てくれると思ってました」


 路地の突き当たりから、すっと人影が現れ出る。


「俺は特段来たくもなかったけどな」

「照れ隠しですか」

「照れてねえよ。きめえこと言うな」


 薄く笑みを浮かべる、金髪の少年――シフォンに素っ気なく告げ、続ける。


「で、どこで話すんだよ。まさかこの狭苦しい道が拠点だなんて言わねえだろうな」

「まさか。僕らの拠点はこちらです」


 自らが現れ出た方向を、優雅なダンスパーティーへ誘うかのように、恭しく指し示すシフォン。昨日(きのう)よりも包帯の数は減ったが、右目の眼帯や(ほお)(あざ)など、いまだ痛々しさは残る。

 俺たちが付いてくるのを確信しているのだろう。シフォンはそのままくるりと向きを変え、突き当たりの向こうへと引っ込んだ。

 キッカが続き、ミスティが続く。そして最後に俺が続く。この順がそのままシフォンへの警戒度――というか好感度を示していた。


「こちらです」


 シフォンが足早に進んでいく。ただでさえ狭苦しい道を圧迫するように置かれたコンテナを通り過ぎようとしたところで、俺は立ち止まった。

 先行する三人はすでに先の角を曲がろうとしていたが、よほどのことでもなければ見失うことはないだろう。

 ゆっくりと音を立てないよう、コンテナの蓋を開ける。そっと中をのぞき込み――

 ……ふうん。

 俺は開けた時と同様、静かにコンテナの蓋を閉めた。


「ウィルさん?」

「今行く」


 角の向こうから聞こえてきた声に返事をし、俺は三人の後を追った。


◇ ◇ ◇

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