3.深紅の街⑨ 気は進まねえな。
「でもなんで今になってそんなことを? ずっと伏せてきたんだろ?」
「この街の選挙って、焰族の候補者が流族の候補者に圧勝するのが常なのよ。一応選挙という体裁は保っていても、焰族の票をひとりの候補者に集められちゃ、数で負けてる流族が勝つのはまず無理でしょ? でも今回の選挙は現町長に加え、もうひとり焰族の候補者がいるの。なんでも現町長の汚職がひどすぎて、街の有力者が声を上げたとかで」
「てことは焰族の票が割れるのか」
ミスティが「そうなんです」とキッカの説明を引き継ぐ。
「加えて、差別に目を光らせている神都の目から逃れるために、あえて流族を町長に据えて、実権は副町長の焰族が……って考える派閥もあるみたいで。そうなると、近年は流族の居住人口が増えてきてるのもあって、もはや焰族が絶対に勝つとは言い切れない状況らしいんですよね」
「で、焦った現町長が焰族を駆り立てようと、ジャンクの話を吹聴してると?」
「みたいですね。焰族サイドはだいぶぴりついているようで、流族の候補者は家の前にごみをまかれたり、刃物入りの郵便物を送りつけられたりと、結構物騒な状況らしいです。まあ別に、犯人が焰族と決まったわけではないですけど……」
ないけれど、まあ十中八九焰族だろうな。
しかし……選挙情勢なんて知ったこっちゃねえが、問題のマジック・ジャンクは公邸にあんのか……
「手に入れるなら、こっそり盗むか押し入ってぶんどるしかないわね」
俺の言葉を先取りするように、にんまりと笑うキッカ。
「気は進まねえな」
その行為に嫌悪感を抱くというよりは、ただただ面倒事になるのが嫌で、俺は顔をしかめた。だけど件のジャンクに興味があるというのも、正直なところだ。
ミスティは別にどちらでも構わないのか――そういえばこいつは、俺以上に手癖が悪かった――まばたきしながら、
「で、どうします? 公邸のジャンク」
と判断を催促してくる。そこへ、
「失礼」
背後から、第三者の声が割り込んできた。まるでキッカの時と同じだ。
本人もそう思ったのか、キッカは苦笑を浮かべて俺の背後に目をやっている。
「公邸のマジック・ジャンクに興味がおありなら、役に立てると思いますよ」
聞き覚えのある声だったが、そこから特定の個人へとつながらない。
俺は手っ取り早く振り返った。
それを待っていたかのように、
「もちろんこちらも、それなりのことを期待しますが」
包帯だらけの顔からのぞく左目を三日月型に細めて、その男、シフォン・シンドローヌはもったいぶるように笑みを浮かべた。
◇ ◇ ◇




