3.深紅の街③ メリアラソーン
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当然負けてしまって、俺は今メリアラソーンの入り口にいる。
「うわぁっ」
大したこともないのに、隣でいちいちミスティが「わぁー」とか「うー」とか騒ぐのに最近はうんざりしていたが、これに関してはまあ、ミスティが感嘆の声を上げるのも理解できた。
深紅の街はその名に恥じず、赤が華やぐ街だった。
赤レンガの建物は店も個人宅も関係なく、それ自体が美術作品の一部であるかのように整然と並び、街の骨格を形作っている。所々で風にはためく赤い旗には、簡略化された花の図案が描かれているようだった。たぶんあれが町章だろう。
今が花祭りの時期だからなのかは分からないが、道行く人々の装いも、赤を基調としたものが多い。
そしてなによりメリアラの花だ。
俺たちが通ってきたばかりの門から始まり大通りに沿って、大量のメリアラが咲き誇っていた。風が吹くたびに独特の香りが鼻孔をくすぐる。
ここまで赤にまみれるとくどいような気もするが、不思議と青空によく映えていた。街の景観について、絶妙なさじ加減で采配を下す者でもいるのだろうか。
ここから見えるどの景色を切り取っても、観光にふさわしい街といえるだろう。
……頭の異物がなければ、もっと楽しい気分になれたんだがな。
「それじゃあ早速で悪いけど、あたしの聞き込み手伝ってくれる? ちゃんとアレも付けたんだし」
入り口の脇に三人寄った状態で、キッカがあるものを見ながら指を立てる。
その視線の終着点に手を添えながら、俺もまた、そこにすねた視線を注いだ。といっても実際には見えはしないが、当てつけのひとつくらいしたって、罰は当たらねえだろう。
俺の頭には今、黒光りする一本のツノが生えている。
もちろん本当に生えているわけではない。街に入る前、街道脇でキッカが俺に取りつけたものだ。ミスティいわくかなり『っぽく』仕上がっているらしい。
が……俺はキッカが使った接着溶液の方が気になって仕方なかった。そんなしっかり仕上がる接着溶液なんて、髪ももろともに、しっかりべっちゃりいってしまっているのではないかと。
「乱暴な付け方しやがって。自慢の赤髪が台無しじゃねえか」
ツノを付けるという屈辱の上、髪をこんなことにされて俺がぶーたれていると、
「ほんとあんたって見栄っ張りね」
キッカは鼻で笑いやがった。しかもさらっと「あなた」呼びから「あんた」呼びに変えてやがる。なまじ最初が丁寧だっただけに、格落ち感が半端ねえ。
こいつっ……
禿げろ! 禿げちまえ!
俺は恨みの念を送った。次魔法を横取りしたら、こいつ絶対ハゲにしてやる。
復讐案を固めると、俺は仕返しとばかりに――というかまんまその意図で――鼻を鳴らした。
「言っとくけど俺は付き合わねえからな。焰族がいれば十分だろ。三時間後に、またここで合流な」
「ウィルさんはどうするんです?」
どこからか流れてくる音楽に耳を傾けていたミスティが、気づいたように言ってくる。
「適当にぶらついてくる。寄る気はなかったけど、せっかく来たなら見なきゃ損だしな。キッカ、後で計算機の使い方教えろよ。あ、宿はお前らが決めていいから」
「他人任せねえ」
「焰族頼りの流族ちゃんがなにか言ったか?」
あきれたようにつぶやくキッカを、じろりとにらみやってから。
「んじゃま、そういうこって」
俺は後ろ手を振り歩きだした。
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