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3.深紅の街① 見ての通りの流族

◇ ◇ ◇


「やだね」

「そこをなんとか」

「断固拒否だ」

「でもウィルさんの身を守るためにも」

「俺のためなら、なおさら俺が自分で考えるべきだろ。で、考えた結果反対だ」

「ウィルさん!」


 ふたりして街道を進みながら、業を煮やしたようにミスティが声を上げる。

 それでも俺は首を縦に振らず、街道脇の草木へと適当に視線を流した。


「絶対にごめんだぜ。ツノなんて誰が付けるか」


◇ ◇ ◇


 メリアラソーンは大陸有数の大都市だ。特産品は、燃えるような赤い花弁をもつメリアラの花。

 春には満開のメリアラが街中至る所にあふれ、鮮やかで情熱的な景観をつくり出す。深紅の街といわれるゆえんである。

 だが華やかな街にも、いや華やかだからこそ、当然格差は存在する。

 特にメリアラソーンは、大陸中心部から離れているため神都の目が届きにくく、差別が公然と横行している。実のところ深紅の街という言葉には、そういった意味も込められていた。つまりは深紅の――焰族(フレアル)の街だと。

 ちなみに無角者(オレ)は問題外。メリアラソーンにおいて()(かく)(しゃ)は、生命権すら危うい扱いで、よってメリアラソーンに()(かく)(しゃ)の住民はいないとされている。


「ね、ね? だからメリアラソーンに入るなら、()(かく)(しゃ)であることは隠した方がいいんですって!」


 案内冊子をぱしぱしたたきながら必死に訴えてくるミスティに、俺はすげなく答える。


「今みたいにフードかぶってればいいだろ」

「それじゃああからさまですよ! 以前立ち寄ったぺんぺん村でもばれてたじゃないですか!」

「じゃあそもそも寄らなきゃいいじゃねえか。というか元々俺はそのつもりだったし」

「なに馬鹿言ってんですか!」


 まるで俺が世界一の愚か者だとでもいうように、ミスティは目を見開いた。


「メリアラは、世界三大(ほう)()っていわれるほどの花なんですよ⁉ ここで無視するなんて押し花コレクターの名が泣きます!」

「存分に泣けよ」

「ああもう!――いいですか? メリアラの花は今が旬! 加えて開催中の花祭りを堪能するには、少なくとも三日間必要です。だからわがまま言ってないで、しっかり対策取ってくださいよ!」

「人の意見を当然のごとくわがままに分類すんなよ」

「あたしもツノを付けることをお勧めするわ」


 突如として割って入った声に――俺もミスティもぴたりと口をつぐんだ。同時に足も止まる。

 俺たちがいるのは、メリアラソーンへと続く街道。有名な花祭りが開催中ということもあって、歩道横の馬車道は度々、その存在意義を誇るように土煙を上げている。

 前方に目を凝らせば、俺らと同じ徒歩の旅人の姿を、それなりの数確認できる。となれば当然、後ろにもいるだろう。

 だから誰かに会話を盗み聞きされたとしても、それ自体はなんら不思議なことではない。

 が、


「……なんだお前?」


 俺は()(さん)くさいものを見る目つきで、背後を振り返った。誰かは知らないが、さも当然のようになれなれしく話しかけてくるやつなど、まあ大体ろくなやつじゃねえ。


「あたし? あたしはキッカ・アンダーソン。見ての通りの流族(アクオット)よ」


 自らの()(さん)くささに自覚があったのか、そいつは即座に名乗りを上げた。

 女である。見ての通り流族(アクオット)の。

 年は、俺やミスティよりも二、三歳は上だろう。俺よりも拳ふたつ分ほど背が高く、動きやすそうな旅装に身を包んでいる。無駄な露出を控えた格好から、最近()()っている『なんちゃって旅人』でないことがうかがえる。

 その代わり……という訳ではないのだろうが、指通りの良さそうなピンクの髪を、女――キッカだっけか? 変な名前だな――は肩の下まで伸ばして、惜しげもなくさらしていた。豊かな髪に溺れるようにして、朱色の双角が(かい)()()えている。


「ごめんね、急に割り込んじゃって。でもあなた、それでメリアラソーンに行くのは自殺行為よ」

「あんたには関係ねえだろ。余計なお世話だ」

「それがあるのよ」

「どういうことです?」


 と、ミスティ。

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