2.ぺんぺん村の夜明け⑤ あんなインチキ導司にだまされんなよ。
最後にミスティの縄を焼き切ってやると、ほっとしながらも少し非難じみたまなざしを返された。
「ウィルさん知ってたんですか? 彼女が《ユーザー》だって」
「まあな」
ミスティの言う通り、俺は早い段階からファルファが《ユーザー》であることに気づいていた。具体的には、この女が明かりを求めるように室内を見ていた時。
《ユーザー》にしろ横取り屋にしろ、魔法と関わる者であれば、魔力のダウンロードには敏感だ。
だから俺にも分かった。ファルファはさっき、魔力をダウンロードしかけて途中でやめた。中断した理由は分からねえが、ともかくこいつが《ユーザー》であるならば、挑発して魔法を使わせればいいだけだ。
「ひどいですよぉ。私ひとりで焦って、馬鹿みたいじゃないですか」
「なんだよ事前に教えろってのかよ。こいつに聞かれちゃ終わりだろ」
俺は口をとがらせ、親指でファルファを指した。
「口に出さなくても、なにか伝え方はあるでしょう?」
「例えば?」
「アイコンタクトとか」
「実は侵入時に散々使ったけど全然通じてなかった」
「こっそり手でサインとか」
「せめてここしばらくの間、俺の手元をわずかにでも見た記憶があるか考えてから発言しろ」
「じゃあテレパシー!」
「そんなものが使えるなら、今この瞬間の思いをくみ取ってくれねえか」
言うとミスティは求めに応じて、一応の誠意は見せようとしたようだった。
「うーん……」
と考え込んでから、ぱんと手をたたく。
「反省?」
「あえてだよな? あえてのずらしなんだよな?」
「あなたたち、よくも……」
するっと滑り込むように、ファルファが言葉を挟んでくる。喉元の氷柱を意識してかか細い声で。
「よくもこんな真似を。導司様の罰が下ると知りなさい」
なんだかねえ……
いや、魔法と縁のないやつならまだ分かるが……
「《ユーザー》のくせに、あんなインチキ導司にだまされんなよ」
あきれ気味に漏らすと、それはファルファにとって聞き捨てならない侮辱のようだった。かっと形相を変えると、
「導司様はインチキではありません! 未来視の力をもち、神に祝福された聖なるお方です!」
喉に氷柱の先端が食い込むのも構わず、声を荒らげる。
だからその未来視ってのが大ぼらなんだっての。マジック・ジャンク見たことねえのかよ……
俺は完全にあきれ返って手を掲げた。
この分じゃアドザの居場所を教えてくれそうにはねえし、人を呼ばれちゃ厄介だ。
きんきんわめいているファルファの腹に、創り出した雷球を押し当てる。さすがにぎゃっと叫んで静かになった。ていうか気を失って崩れ落ちた。
取り上げられていた短剣を棚上から回収し、腰の剣帯に収める。ついでに燭台も頂いて、俺は部屋の外へと足を踏み出した。