8.神代奪還戦線⑨ うまくやつらを、だまくらかしたな。
キッカが驚いたように、礼拝場の入り口を指さした。鐘楼や本堂がある側だ。
これ以上なにがあるってんだ。勘弁しろよ……
……って、
「あれってミスティか⁉」
まさかこの場で見るとは思わなかった顔に、俺は目をかっ開いた。
しかしその姿は、いつもの旅慣れた格好ではない。
ミスティは白いゆったりとしたローブに身を包み、男をひとり引き連れるようにして歩いていた。茶髪を結い上げきらびやかな装飾で頭を飾り、足の先までお上品に仕上げてやがる。心なしか足取りまでつつましやかだ。
完全に虚を突かれた俺とキッカだったが、それは代行者たちも同じらしい。
「神代様……?」
「なぜここに……」
「神代様! このような場所に来てはなりませぬ!」
隊列すら乱して、神に仕える代行者たちが口々に叫ぶ。
「キッカ、分かってんな?」
「下手に動くなって? 聞くまでもないでしょ」
間髪容れずに返してくるキッカ。
目的のミスティが自ら現れたんだ。本来なら、なんとしてでもこの場で連れ出したいところだ。
……が、今は状況が悪い。俺自身このざまで、ろくに動けそうにもない。
今は様子を見て、慎重に機会を探りたかった。
「おい貴様! 貴様は神代様の侍者であろう。どうして神代様を止めなかった⁉」
ミスティのそばに控えている男に、代行者のひとりが詰め寄る。
男は窮したように肩を縮こませ、
「いえそれが、神代様直々のご判断で……なんでも、エリオンテ様からのご指示であると」
「エリオンテ様からの……?」
「まさかそんな……」
ざわつく者たち。
ああミスティのやつ、そうやって逃げ出してきたのか。うまくやつらを、だまくらかしたな。
合点がいき感心しているうちにも、ミスティはこっちに近づいてくる。代行者たちが守るようにそばに付いても、我関せずといった様子で。
やがて話ができる距離まで来ると、ミスティは静かに口を開いた。
「エリオンテ様の御言を聞きました。この神聖なる地を騒がせた咎人たちは、エリオンテ様が直々に裁かれるとのこと。その者たちの命、私が預かりましょう」
「ミスティ……?」
どうしてだか分からない。
演技だと分かっているはずなのに。
俺にはその顔つきが、鬼神をも鎮めるような、厳然神聖なものに感じられた。
◇ ◇ ◇




