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星守りとオオカミ

作者: ゆきもち

 私の仕事は星守りだ。

 星守りとは空から落ちてきた星を片付ける仕事をする人のこと。私の一族は代々星守りをしていて、世界各地に散らばり流れ星を探すのが一族の務めだった。

 私はジパングという国の新岸と呼ばれる地域を担当し、緑の深い山奥に一軒家を建てて一人で住んでいた。昼は眠り、夜は一晩中星空を観察する。そして星が落ちたらその場所に向かい、誰かが星に触れてしまう前に処理するのだ。星は強いパワーを秘めていて、その力に耐えられなくなったものが流れ星となり地上に落ちてくる。地面の星はその石の中にはち切れんばかりの力を内包し、下手に力を加えれば爆発してしまうのだ。だから私のように星から人を守る仕事をしている者を「星守り」と呼んでいた。


 夏の夜空、亥の刻。家の前で火をおこし湯を沸かす。薬缶の水が沸くまで、湯のみと茶葉を入れた急須を用意する。空を見上げると雲一つない満天の星空が広がっている。青から紫へグラデーションがかった天の川が大空を横断する。暇を持て余し、ひとつひとつの粒を数えながら星を見守る。

 天の川の星が一つ揺れた。そして、瞬いたかと思うと流れ星となり地上へと落ちてきた。目測からそう遠くはないところに落石したことを知り、水の入ったバケツを引っ提げて現場に向かった。家から5里ほど離れたところにその星はあった。木々が密集した森の中に星は落ちている。しかし、キラキラ光るその石をちょうどオオカミが突こうとしていた。


「あぶないよ!」


 私は叫び、オオカミに注意した。オオカミは人がいると思っていなかったのか、飛び上がるほどに驚いた。こちらに視線を向けた彼に片手をあげて挨拶する。彼も頭を下げてから「ワン」と吠え、返してくれた。


「このキラキラ光るものはなんですか?」


 オオカミがわたしに聞いてきた。突こうと前に出していた右足を宙に浮かせ、指さすように星に向けた。


「これは流れ星だよ。星は膨大な力を秘めているから、下手に扱うと危険なんだ。もし君が触っていたら爆発していたかもしれないね」

「え!?」


 オオカミはまた飛び上がって驚いた。


「じゃあ、これはどうすればいいんですか。このまま放っておくんですか!?」


 両前足で私の足を挟み、ゆさゆさと揺らしてきた。私はその慌てぶりが新鮮で、クスリと笑って答えた。


「こうするんだよ」


 手に持っていたバケツを構え、中の水を星に静かにかけた。星はしゅわしゅわと音を立てて、光を徐々に失っていった。その様子をオオカミは目を輝かせてみていた。完全に光らなくなった星は、はたから見ればただの石のようだ。


「触ってごらん」


 私がそういうと、オオカミはおそるおそる右前足で星だったものを小突いた。コロンところがり何の反応も見せない石にオオカミは気を良くし、鼻を近づけてふんふんと匂いをかいだ。


「ただの石になってる!」


 尻尾をぶんぶんふりながらオオカミは石をころがし、じゃれ始めた。私はバケツを裏返し地面に置いてその上に座り、オオカミの様子を眺めていた。そういえば、ここ数年誰かと話したりしていなかったことをぼんやりと思い出しながら。


「星は水をかけると石になる!森のみんなにも教えてあげなきゃ!」


 思いついたようにオオカミは叫んだ。知ったばかりのことを報告したがるこどもオオカミに、しかし私は首を横に振ってその必要はないと答えた。


「どうして?」

「みんなには星の光が見えないからだよ。私たちの様に特別な目を持っている者だけが、地上に落ちた星が光っていることを知っているんだ」

「みんなにはさっきのキラキラが見えないの?」

「そうだよ。みんなは石と流れ星の区別がつかないんだ。だから、私たち『星守り』が流れ星を探し、こうして水をかけてただの石に変えているんだ。」


 オオカミはじっと石を見つめた。星の輝きを思い出し、その美しい光が他の者たちには見えないことを残念がっているようだった。


「もしも、また星を見つけたら水をかければ大丈夫なの?」

「ううん、できれば私に知らせてくれたらうれしいな。水のかけ方にもコツがいるんだ」

「わかった!」


 元気よく返事をしたオオカミに愛嬌を感じ、その頭を撫でた。オオカミは気持ちいいのか目を細め、私の手を受け入れた。


「よかったら、ときどき私の家に遊びにおいで。運が良ければ、また流れ星を片付ける作業を見せてあげられるかもしれないから」

「ほんとに!」


 頭を撫であられながら、オオカミは嬉しそうに尻尾を振っている。その様子を見て、わたしも自然と笑顔になる。

 ふと、違和感を感じ取って私は夜空を見上げた。案の定、木々の隙からのぞく星の一つが瞬き流れ星となって地上に落ちた。


「さっそく、流れ星が生まれたみたいだよ」

「やった!早く見に行こう!」


 そして私たちは、星を探しに夜の森を歩いた。

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