次代の主 【月夜譚No.35】
「猪突猛進」という言葉がよく似合う人だった。自分の身のことなど全く顧みずに行動を起こすものだから、周囲の者は肝を冷やすばかりで生きた心地がしなかったものだ。思えば、先代も随分と活発な性格だったので、その血を色濃く受け継いでしまったのかもしれない。
側用人の目を掻い潜ってやんちゃをするので酷く手を焼いたことは確かなのだが、皆口を揃えて「あの方は尊敬に値する」と言う。
自身のことはどうでも良いような振る舞いをするのに、他の者のこととなるとまるで自分のことのように真摯に思い悩むのだ。昔、高価な壺を不注意で割ってしまった側用人を庇って、自らが父親に怒られたこともあった。
年を重ねて振る舞いは落ち着いてきたが、だからこそ、そういった性格が際立って感じ取れる。多くの者が彼を慕って敬うのも無理はないことだ。彼が見せてくれる未来は一体どのような世界なのだろうと、期待せずにはいられない。
願わくば、彼にとっても輝かしい世であることを。