姉さんからのクリスマスの贈り物は、ケーキだけの筈が、妹もできました
こんな風に、離婚後も親子が逢えて、更に、それを周囲も自然と受け入れられればいいな、と想って描きました。
温かい眼で読んでいただければ、と想います。
「ええ、いいわよ。気にしないで、昼から来るのね」
昼ご飯を前に、携帯電話で、母さんが誰かと会話している。
恐らく、さくら姉さんからの電話だろう。
父さんは、急な仕事が入って、夕方にならないと帰って来ないので、今は僕と母さんの2人しか、この家の中にはいない。
そうなると、姉さんとしては、内心では顔を出しづらいのかも、と想ったが、さくら姉さんが、電話をわざわざしてきたのは、別の理由だった。
「悠真、昼から結愛ちゃんの相手をお願いね」
母さんが、昼食の時に、いきなり言って、僕は驚く羽目になった。
結愛ちゃん、さくら姉さんの妹だ。
でも、僕の妹ではない。
どういうことか、というと。
さくら姉さんは、僕のお母さんとは別の女性と、お父さんとの間に産まれた姉さんだ。
別の女性と言っても、いわゆる先妻で、僕のお母さんは後妻というだけだ。
さくら姉さんの実母も、別の男性と再婚していて、そちらには、蓮と結愛という子どもがいる。
ちなみに蓮と僕とは、同い年の小学6年生で、同じ小学校のクラスメートになる。
そういえば。
「悠真、妹の結愛が明日、遊びに行くかもしれないけど、妹に手を出すなよ」
「お前の妹に手を出すか。小学3年生だろうが」
「俺にとっては、可愛い妹なんだよ」
「そもそも何で、結愛が家に来るんだ」
「俺の口からは言いたくねえ」
昨日の蓮は、妙に不機嫌だったが、その理由がようやく分かった。
さくら姉さんが、結愛と共に家に来て、今日は我が家に泊まるのだ。
成程、クリスマスイブに、蓮の姉と妹は、別の家に泊まりに行くわけか。
蓮は素直になれず、両親の下に止まることにしたという訳だ。
そんなことを、僕が想っていると。
「こんにちは」
さくら姉さんが、我が家に来た。
傍には結愛がいる。
「こんにちは」
結愛は少し固い挨拶をした。
「本当にすみません。結愛が我が儘で。お姉ちゃんの手製のクリスマスケーキを食べたい、と言い張って」
「別にいいわよ。全くの赤の他人という訳ではないし」
母さんと、さくら姉さんは会話を交わして。
「それじゃ、悠真、結愛をお願い」
さくら姉さんは、母さんと台所に籠った。
クリスマスケーキをさくら姉さんが作り、母さんが、クリスマス料理を作るのだ。
僕と結愛は、学校の勉強をしたり、それに疲れたら、近くの公園に遊びに行ったりして過ごした。
そうこうしていると暗くなり、家のリビングで、2人でテレビのバラエティ番組を見ていると。
「ただいま」
父さんが帰ってきた。
「いらっしゃい、結愛ちゃん」
「こんにちは」
ほぼ初対面ということもあり、結愛は父さんにも固い挨拶をした。
そして、父さんが着替えて、クリスマスパーティの準備が整い、
「メリークリスマス!」
僕たちは、そう言って、クリスマスパーティを始めた。
「父さん、学費を出してくれて、ありがとう。私の手作りケーキを贈るわ」
「気にしなくていいよ。向こうは3人。こちらは2人なんだから」
父さんとさくら姉さんは、そう言っていた。
さくら姉さんの母さんにしてみれば、3人の子どもがいるが、父さんにしてみれば2人な訳だ。
とは言え、クリスマスパーティで交わす会話ではない。
母さんが空気を読んだ。
「それにしても、ケーキ作りが、さくらは本当に上手いわね」
「パティシエを本格的に目指したら、と先日、高校に入った先輩に言われました。固い性格なのも、パティシエ向きだと褒められたのか、けなされたのか、分からないことも言われましたけど」
本当に、さくら姉さんはケーキ作りが上手い、美味しいケーキだ、と僕も想った。
さくら姉さんは、将来、パティシエになってもいいかもしれない。
そういえば、固い性格と言えば。
何で父さんと、さくら姉さんの母さんが離婚したのか、というとお互いの生活パターン等々が譲り合えなかったといった事情かららしい。
お互いに固い性格同士だった、という訳だ。
似た者夫婦といえば、似た者夫婦だが、この先、数十年も共にはやってはいけない、と1年程の結婚生活で、お互いに離婚を決意したが、既にさくら姉さんは産まれていた、という訳だ。
そして、離婚の際に、さくら姉さんを実母が引き取って、親権者になったのだが。
別にお互いに憎み合い、いわゆる血みどろの争いの果ての離婚という訳ではなかったし、父さんは、さくら姉さんのことが可愛かったしで。
しょっちゅう、父さんとさくら姉さんとは会い続け、周囲もその事情が分かっていて。
さくら姉さんの両親は、離婚後は別々の家庭を築いたが、さくら姉さんは、平然と2つの家庭を行き来し続けた、という訳だ。
中学生になった今でも、さくら姉さんは、月に数日は我が家に泊まりに来るほどだ。
そういえば。
「私、姉さんがうらやましいの。2つの家庭それぞれから可愛がられているから」
結愛ちゃんが、公園で半ば独り言を言っていた。
世間一般的な話なら、物心つく前に両親が離婚して不幸な家庭で育った、というパターンなのだろうが、妹の結愛ちゃんの目からすれば、そんな風に、さくら姉さんは見えるようだ。
そんなことを僕が想っている内に、我が家のクリスマスパーティは終わり、さくら姉さんと結愛ちゃんは僕の家に泊まった。
急なことで、布団が足りず、さくら姉さんと結愛ちゃんは1つ布団で寝た。
僕はちょっとうらやましさを覚えた。
僕も小学校に入る頃までは、さくら姉さんの傍で寝ていて、さくら姉さんの布団で寝てしまっていたことさえある。
そして、次の日の午前中に。
「もう少しいればいいのに」
「いえ、結愛を連れて帰らないと」
そう僕の両親とやり取りをして、さくら姉さんは帰って行く。
僕は、さくら姉さんを送っていくことにした。
そして、さくら姉さんと結愛ちゃん達の家が見える頃、
「ねえ、悠真兄ちゃんと呼んでいい」
結愛ちゃんが、いきなり言った。
「どうしたの急に」
さくら姉さんが、驚いたように言った。
「何か寂しかったの。姉さんは3人もいるのに、私は2人なのが。悠真君を悠真兄ちゃんと呼べば、私も3人になると考えたの」
結愛ちゃんは、そう言った。
そうか、そういう見方もあるのか。
「いいよ。そう呼んでも」
僕はそう言った。
結愛ちゃんは、微笑んだ。
「じゃあ、また、遊びに行ってもいい」
「いいよ」
僕と結愛ちゃんは、そうやり取りをした。
さくら姉さんは、僕たちの傍で微笑んで、このやり取りを見守ってくれた。
そして、冬休みの間、何日か、結愛ちゃんは、遊びに来たのだが。
「お前を、結愛の兄とは認めん」
「いきなり、何を言い出すんだ」
「ともかく、絶対に許さん」
三学期の始業式の日の朝、僕は、いきなり蓮に絡まれていた。
「どうしたんだよ」
何人かのクラスメートが、僕と蓮のやり取りに気が付き、仲介に入ってくれた。
「いや、結愛が、悠真のことをお兄ちゃん呼ばわりしだしたんだ」
蓮の言い訳に、僕は、わざと斜めに返した。
「お互いに、さくらさんのことを姉さんと呼ぶ仲じゃないか。結愛ちゃんが、僕をお兄ちゃんと呼んでも、別にいいだろう」
「その口調、ますます許せん」
「おい、気に入らない相手と結婚するといい出した妹の兄のようになっているぞ」
「しばらく放っておいて、蓮の頭が冷えるのを待つしか無いな」
クラスメート全員が、僕と蓮の関係を熟知している。
だから、蓮は放置されてしまった。
とは言え。
ここまで蓮が怒るとは。
とても残念だが、結愛ちゃんに、悠真兄ちゃんと呼ぶのを止めさせるべきか。
そんなことを僕は考えてしまった。
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