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オッサンの錬金魔術  作者: 梅雨川
9/16

少しばかりの休息

ウツな回です。

最初と最後読めば、特に変わらないと思います。

こんな物語ですが、どうか付き合って下さると、幸いです。

王都の王城の裏側の貴族域

その森林地帯にある大きくも地味な屋敷。

森の中で屋敷のある一帯は開けており、庭先にある何らかの植物は今日も多量の日光を浴びていた。


屋敷の中からは、油に熱が入る音。

煙突から薫、肉の香り。

静かな森の中にあって、祐逸の人工的音源。

屋敷の持ち主。


それが、この男、佐々木蒼汰であった。



「なるほど、これをこうして、こうか?」


そんな彼は今、朝食を食べ終えて、風呂を作っていた。

あれからギルドには、二か月間、毎日ポーションを届けていた。

そうギルド側の依頼で契約の更新により、もう二か月、納品してくれと言うので、今でも納品を行っていた。


今ではちょっとした金持ちだ。

白金貨や白銀貨は貴族階級でも、上の方の人間しか持っていないため、手に入りずらく、それ以前にそこまでの金を用意できないため、ほとんど製造されていない。


金貨一万七千九百九十七枚


そもそも、金貨を持つこと自体あまりないらしいが、まあいいだろう。


そんなお金の使いどころに、風呂を作ることにしたおっさん、非常に謳歌している。


「風呂の構造としては、ためた水を温め、その後流す感じで、ふむ、三段階水をためる工程が必要か」


悩ましげに語るおっさん。

だが、さすが錬金術師職業を保有するだけのことはあって、その数時間後には日本における少しばかり大きな浴場が出来上がっていた。


「さて、久しぶりにリーネのところでも行くかね」


最近、と言うか二か月間ずっと行くどころか会ってもいないため、二か月ほどでも久しぶりに感じるのだった。


そうしてやってきたのは、貴族の集合住宅街でも結構な大きさを持つ屋敷の前にいた。


「君、リーネはいるかな?」


いきなり、主人を呼び捨てにした怪しげな男に、怪訝な表情をする門番。

しかし、その顔を見て、すぐに中に入る。


しばらくして、リーネ自身が来た。

「やあ、蒼汰殿、久方ぶりだね」


「ああ、そうでもない気もするが、まあいいか。最近は元気かな?」


「ああ、非常に元気でやらせてもらっている。立ち話もなんだから、なかでお茶を飲んでいくと言い」


そう言って、おっさんを屋敷に入れるリーネ。


「私は今重要なゲストをもてなしている。来客が来てもかまうな」


門番にそう言い、おっさんの後を追うリーネ。

言いつけられた門番は、体をブルりと震わせた。


~~~~~~~~~~

「最近はどうなのだ?蒼汰殿」


「ふむ、まあいろいろとあって、ハイポーションをギルドに納品することで収入を得ている」


「は、ハイポーション?それは、上位錬成術師が錬成に錬成を重ね、苦労して作る代物だったと思うのだが…」


初耳情報に、驚くおっさん。


「む、そうなのか?まあ、作れるし、納品できてるので、問題はないだろう」


ギルドでは、森の錬金術師と言われているおっさんだが、彼がそれをしることはなかった。


「しかし、そうか。あれから二か月か」


「そうだな」


リーネを正面から見据え、少しばかり気になったことを聞く。


「ん?最近は忙しいのか?」


「そうでもないが、だぜだ?」


リーネが少し驚いた、とばかりに聞いてくる。


「目の下がやけに化粧が濃いと思ってね。隈を隠しているんじゃないかな?と」


「…蒼汰殿には隠し事が出来ないようだ。そうだな、最近は特に忙しい」


力なく笑うリーネを見て、少しばかり助けてあげたいと思うおっさん。


「何か、力になれる事であれば協力するが?」


「それだと、蒼汰殿に情報を開示しなくてはならなくなる。あなたを危険にさらすわけにはいかない」


ふむ。

頷き、少しばかり黙る。

ここは、無理に聞くべきか、一歩下がってみているか。


そこで思い出すのは前世での出来事。

自分の仕事をどれだけこなしても上がらない給料、残業手当がなく有給はいつの間にか消え、働きづめの日々、給料の半分以上を持っていく借金取り。

借りた覚えのないお金に、嫁の裏切り。


思い出す度に胸糞が悪くなる。

少しばかり、不機嫌いなった顔で、リーネに凄む。


「いや、構わないとも。なんでも相談してくれ」


しばらく、黙り込む。

俺は、そんなリーネを待つ。


「……婚約しろと言われたのだ」


待って出た悩みが婚約ときた。

へ?婚約?


「そ、それが寝不足の原因なのかね?」


「ああ、婚約相手は第一王子、殿下なのだ」


な、なるほど。

えっと。


「それがどうして寝不足に?」


またしばらく沈黙し、返答が返ってくる。


「殿下は、武芸が達者でありながら聡明でもあるらしい、さらに容姿端麗ときた。皆、婚約には賛同してくれているし、祝福もしてくれている」


ふむ。


「普通にいい相手のように思えるが?」


ウム、と頷き返すリーネ。


「ただ、少しばかり女癖が悪く、一部の貴族にも不人気でな、さらに手に負えないほどの暴君っぷりだそうで、気に入らない侍女を解雇したり、侍女と夜を共に過ごすなど、噂も様々でな。すでに、事実であると確認が取れている事柄もある」


な、なるほど。

優れているが故の人格の乱れか。


「その点で言えば、第二王子殿下は、容姿端麗であるし文武両道、第一王子ほどまでは行かないが、非常に優秀と聞いている。さらに、非常に国思いだと聞いている」


「なるほど」


「だが、国王陛下が第一王子を是非国王に、と言うので、第二王子は早々他の公爵家と結婚している」


「ふむふむ、で、そこまで行くと断ることも憚られると」


「そうだ」


なるほど。確かに相手が現在の国の長を任される、更に相手からの申し出ともなると、断りにくいわけだ。

貴族も楽じゃないな。


「リーネ、君は他に好意を寄せている相手でもいるのかな?」


「いや、好意と言わけではないが、気になる相手なら、いる」


少しばかり頬を桃色に染める。


「はっはっはっは!!」


俺は、そんなリーネの初々しい姿を見て、つい笑ってしまう。

ああ、若いとは、なんていいのだろうか。


「な、なにがおかしい!」


顔を真っ赤にして怒るリーネ。


「いやいや、思った以上にその相手のことが気になっているようなのでね。ならば答えは決まっているだろう。断ればいい」


「し、しかし、皇太子殿下だぞ!」


ふむ、やはり、国の中枢に身を置くことには少しばかり興味があるようだ。


「実家は何と?」


「…特には。私に一任する、と」


なるほど。


「ならば、断りなさい。若いんだ。好きな様に生きるのが一番。貴族と言う立場からそうもいかないかもしれないが、なるべく自分の意思で行動することも、大切だとおじさんは思う」


「…そうだな。そうしよう。うむ、何やら心が晴れた感じがする!ありがとう!蒼汰殿!」


彼女の顔は相変わらず隈はあるが、悩みが晴れたような顔をしていた。


「まあ、忙しいのは変わらないが、今回の件でだいぶ悩んでいたんだ」


「そうか、それにしても、そこまで貴族の仕事は多いのか?」


「いや、普段はそうでもないのだが、少しばかり魔族の進行が早くてな」


ふむ。


「今、優勢なのは?」


「…いや。今は硬直状態だ」


「…なるほど」


まあ、ここの話は立ち入るべきじゃないな。


「そうか。まあ仕事もほどほどに。それでは、お暇させていただこうかな」



「わかった」


俺は、席を立ち、ドアに向かって歩く。


「…なあ蒼汰殿、なぜ我々は争っているのだろうな」


「魔族が人間を、人間が魔族を嫌ってるからじゃないのか?」


「そうではなく、魔族が悪で我々が正義だからと、言われている」


「ふむ、それで、何が言いたいんだ?」


俺はリーネを見つめる。


「疑問に思ったことがある。何故魔族は悪なのかと」


「ふむ、その答えを私に求めるのか?」


「…蒼汰殿なら違った視点で、見ているのではないのかと思ってね」


「なぜだ」


確かに、魔族も人類も特に思ったことはない。


「一度、魔王軍に召喚されたことがあっただろう。その時、あなたは普通に接していた」


「確かに、そうだが…」


冷や汗をかく。


なんだ?これはあれか?踏絵か?「魔族に加担する異端者!」見たいな?


「ただ本当のところ、どうだがわからない。だが、蒼汰殿はすでに答えを持っているのではないか?この戦争の行く末と、意味を」


「………」


黙っていても、リーネは引く気がないようだ。


仕方がない。

「これは私の主観だ、この国では異端に値するかもしれない。それでも聞くか?」


「ああ、参考程度に聞くことにする」


なるほど、異端かもしれないということを考慮しても、聞きたいと。

何故、俺にそんなことを求める?

まあ、今はいいか。


「…そうか。では、私から見れば、この戦争は」

「何の脈絡も無く行っているように見える」


「な、何?」


想定外の答えにリーネは目を丸くる。


「結局は生存競争でも何でもない。これは、相手が気に入らないから、滅ぼそう、と言って戦争しているに過ぎない。戦争とは、いわば暴力装置だ。相手が要求を吞まない時に、無理やりにでもいうことを聞かせたい場合のみ行使する、暴力だ。所詮戦争なんて政治の道具にしかならない」


近代の日本で育ったからこそわかる、戦争の理屈。

口を開けたまま固まるリーネ。

それでも尚意見を述べるおっさん。


「もし、戦争こそが国の~なんて思っているのなら、今すぐやめるべきだ。国の為を思うなら、戦争と言う名の労力こそが無駄だ。魔族を倒し、領土を広げたところで今の人類には、活用できない。ならば、国内での発展こそを行うべきなのだ」


一通り自分の説を述べる。


「では、あえて戦争をしている理由を挙げるならば、名誉のためだ。ここまで来た人類の、人間の尊厳をかけた、名誉の戦いだ」


「……」


「彼ら魔族も人間を殺したし、我々も殺している。では、戦争は何のため?と聞かれれば、それはもう、今までの道のりで死んでいった人類すべての、誇り、尊厳の維持、名誉のためだ。それを、この国が理解しているかどうか、それは俺にはわからない。だが、そこまで思考してないのであれば、この戦争に勝とうが負けようが、この国に未来はない。多分な」


俺は歴史分析家でもなければ、人類学者でもない。

戦争なんて、人類史上の汚点だと思っているし、殺すのも殺されるのも嫌だ。

出来ればしたくない、が、異世界に来たからには、致し方あるまい。


「つまり、何が言いたいかと言うと、戦争とは、政治的手段に過ぎない」


一気に話したため、喉が枯れたので紅茶を飲む。


いつの間にか、冷えていた。


「そのような装置に意味を求めても、無理な話だと、私は考えている」


話し終え、沈黙すると、部屋に静寂が訪れる。

日が傾き始めたからなのか、部屋の気温が下がったように感じられた。


暫く時間が過ぎ、リーネが言葉を発する。


「戦争は、政治的手段?暴力装置?馬鹿な、では今まで我々は何のために戦ってきた?悪たる魔族を倒すためだ。そうして、国に、世界に平和を取り戻すために戦ってきた」


反論をするように、蒼汰に言う。

その表情は、こちらを睨み、目は獣の如く光っていた。


「…確かに、人類が決めた悪を倒せば、平和がやってくる。では、君は魔族を何故悪と断定する?何をもって悪というんだ?」


戦争が始まったこの時代ではすでに、言っても後の祭りではあるのだが、質問されたからには答える。

それが、ここまで偉そうに演説したおっさんの義務だ。


「魔族は、この国の民を殺した。何の罪もない民を!そして、世界に侵攻してきた!そんな者たちに交渉する余地はない!」


確かに、史実では侵攻を始めたのは魔族だ。

魔族は、時折発現する、強力な魔力と統率力を持った『魔王』が誕生する。

彼らは、魔王に従い、人間を嫌う。


「なるほど、確かにそうだ。つまり、先ほどの話の前提が崩れているわけだ。こちら側に対話する姿勢があっても、あちら側にはない。そうなると、戦争と言う手段しか取れなくなる」


「そうだ!奴らは人を人とも思わない!そんな奴らに世界を任せられるか!?」


物凄い勢いで畳みかけるリーネ。


「そうだな。そのためには『絶対的強者』にならなくてはならないな。だが逆に、強者でありながら戦争に真っ向から対抗するのは何故だ?私が見る限り、この国には余裕がある。人間と肩を並べる獣人、エルフ、ドワーフも戦争に参加し、僅か数年で魔族領の三分の一を削り、今なお国力を保っている。そして、こうしている間にも、魔族領は削られていると聞く。では何故講和しない?」


最近は、小競り合いだけで、侵攻できていないそうだが。

それはさておき。


「こうわ?」


リーネが、何を言っているんだコイツは、と言うような顔で見てくる。


「いくら人間を毛嫌いしている魔族だって、そこまで行けばもはや領土を維持するのに精一杯だろう。まあ、それでも戦うかもしれないが、仮に精一杯だったとして、そこまで行けば、殲滅する必要はない。さらに、『異界の門』?を開いて、勇者様を召喚するようだが、魔族を滅ぼす力をこれ以上手に入れてどうするつもりだ?現状でも押し切っているのに?」


「敵を取る。死んでいった者達の為に」


静かな声で、しかし凛とした声音でそう言う。


理解できないのは、今だその辺りの歴史的道を辿っていないからだろう。

この世界では、文明は魔法のおかげで進んでいるが、やっていることは戦国時代のそれと変わらない。

敵を打ち、領土を広げ、強さで民を従える。

気に入らなければ切る。


「そうだな。それでもいいだろう。魔族を打ち、敵を取る。だが、それは向こうも同じではないか?」


「向こうも、同じ?」


「そうだ、彼らも繁殖する過程で家族や友人が出来、絆が生まれる。友が殺されれば怒るし、家族が殺されれば復讐心が芽生える」


「……」


「そんな彼らを押している我々こそが、交渉案を提示するべきだ。と、私は思う。どんな理由であろうと、どんな状況であろうと、戦争は何も生まない。残るのは、相手への軽蔑と嫌悪感、廃退した大地、それらすべてが戦争と言う物の正体。そうだと思っている。」


これ等はあくまで、自分の主観、自身の短絡的な意見に過ぎない。

他方から見れば、他の見方もあるかもしれない。

だが、義務教育から高等学校までに学んで、様々な資料や人の意見を聞き、出した自分の見解が、これなのだ。


「この考えが全てではない。最初に行ったように、飽くまでも私の意見だよ」


そうして、話終える。


目の前には俯く少女の姿。

目元は暗くて見えない。


おっさんは、ふと窓の外に視線を外し、外を見る。


「今日は、珍しく冷えるな」


部屋の中は、物音一つせず、やがて、それは破られる。


「なるほど。そうだな。では、この話は私の心のうちにとどめておこう」


そう言った。

受け入れると言った。

その返答におっさんは驚く。


「う、受け入れられたのか?このような話が?」


まさか、受け止められると思わず、偉そうに語ったおっさんは、少し焦る。


「ああ、王国でこのような話をすれば、私でなければ異端者として、祭り上げられるから注意するんだな、蒼汰殿」


「あ、ああ。勿論んだ」


「それと、この話には私にも納得する部分があるが、この様なことを考える輩は、いないだろう。いたとしても、火やぶりにされているよ」


そう言って、少しばかり笑うリーネ。


「よって、この話はなかったことにする。それでいいですか?蒼汰殿?これは二人だけの秘密です」


「わかった。そう言うことにしよう」


こうして、少々思惑とは違ったが、一つの考え方を学んだリーネだった。

~~~~~~~~~~

「それでは、たまには家に来ると言い」


おっさんは、門の前でそう言う。


「そうだな。蒼汰殿にあの屋敷を指し…売った後の姿も見てみたいからな」


「来ても、何も出んよ」


はっはっはっはっ

と快活に笑いあう二人、先ほどのことを水に流す速さは一流だろうか?


「とにかく、今日はよく来てくれた。久しぶりに息抜きが出来た気がするよ」


「そうか。それは良かった!では、またな!」


そう言っておっさんは後ろ手に手を振る。



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