転移
魔王城の広間。
そこで、魔族の者たちの悲鳴が挙がる。
それでも、悲鳴を聞いて外から来た軍勢がその二人を倒さんと、突撃する。
その数およそ三千。
そんな軍勢を前に、おっさんはため息を吐いていた。
「はぁ、こんな数を良く用意できてるな。この城の近くだからか?」
おっさんは、敵の股や、足を的確に、槍や剣を、空間魔法でつないで貫いていく。
そんな折、無機質な声が頭の中に響いた。
『敵の数、千以上を確認、スキル『軍師』の『軍勢の召喚』が解放されました』
ふむ、軍勢の召喚か。
っていうか、何でこのタイミング?もしかして、千を超える敵を相手にすると解放されるとか、条件をクリアしなければならないのか?
まるでゲームだな。
そう思うおっさんだった。
まあ、一人ひとり倒すのも時間がかかるし、召喚してみるか。
「ええっと。リーネ私から離れないように」
一応、ね。
「ん?わかったが…」
ええっと、これも創造するやつなのか?
思い描くのは、アニメや漫画みたいに屈強な戦士、戦車とヘリ、それと歩兵か?
少しづつ具体的に思い描く。
そうしていると、後ろには、目の前にいる敵を上回るほどの、何やら剣や槍、銃を持つ歩兵と、戦車がずらりと並んでいた。戦車がドイツ軍制なのは、俺がそうイメージしたからだろう。
そして、さらに後ろには、アメリカの爆撃機から、C-5まで、様々だ。
「これは、本当に、チートだな。やはり、この体の元の持ち主がそうとうチートだったんだろうなあ」
おっさんは、目を遠くしながらつぶやく。
ぼおっとしていると、召喚した歩兵の中から、遠くからでもわかる女性の兵士だ。
その格好は、緑色の軍服で、自身のイメージが多分に入っていた。
「おいおい、その格好は恥ずかしすぎだろう」
自分で想像しておきながら、人が着ているのを笑う、いやなおっさんだった。
「閣下、指示を」
軍人にそう言われ、ぽかんとする。
「閣下?それに指示?俺、軍を率いたことがないのだが?」
「ご安心を、ここにいる軍はすべて、閣下に従います。ところで、現在の状況を鑑みるに、ここは、数と火力にて、殲滅戦を行うべきだと提案します」
目の前の光景を指してそう言う。
おっさんも、それにつれられて、めのまえを見ると、今さっき現れた軍勢に驚き、落ち着いた一部の敵は、鬼のような形相でこちらを見ている。
「ああ、そうね。まあ、任せるは」
「かしこまりました」
きれいな敬礼をすると、何やら無線機で伝えていた。
「閣下は、これより殲滅戦を始めるとのことだ。早急にそうとうせよ」
『それは、閣下のお言葉か?』
「ああ、閣下に誓って、そうである」
『了解した。これより、殲滅戦を行う』
と言う声が聞こえた。
うん。これ過剰暴力だよね?
せめて、なるべく殺さないようにしないと。
焦ったおっさんは、急いでそのあたりのことを話す。
曰く、これは戦争じゃないから、殺すのはどうかと等々。
「わかりました。では捕縛が主な作戦であるということですね」
「ああ、分かってもらえて何よりだよ」
ため息を漏らす。
「わかりました。では至急、その様に伝えます」
と言う具合で、固まって突っ立っていたものから順に捕縛、暴れた者は多少けがをさせて、鎮圧。
その動きは洗練させたような兵士の動きだった。
数時間ほどを経て、見えるところの全ての敵は、捕縛されていた。
「これで、任務は完了しました」
おっさんの下に、先ほどの軍人が来る。
「ああ、ご苦労だった」
そう言うと、全ての軍隊が消えた。
「さて、元の場所に戻してくれる奴はいないのか?」
俺が、声を張り、そう聞くと、ビクンんと、目のまえにいる銀髪の少女の方が震える。
「なあ、頼むよ。元の場所に戻してくれたら、傷も治すし、開放もする」
「蒼汰殿!?」
なぜか隣のリーネが驚いているが、今は少し黙っていただこう。
「で、銅なんだ?元に戻してくれるのか?」
俺は、少女の近くでそう聞くと、コクリ、と頷いた。
「わかった。じゃあ、頼む」
彼女だけを開放し、立ち上がらせる。
「いいだろう。代わりに、貴様が戦争に参加しない、と言うならば、引き受ける」
銀髪少女は、たくましいことに、解放された後、すぐに距離を置き、臨戦態勢に入ってそう言ってくる。
ああ、面戸くせ。
「わかった、分かった。そうしよう」
「…」
「ふん、人間の言葉が信じられるか!」
「ではどうする?このまま皆殺しにして、出て行ってもいいんだぞ?」
本当はできないけど。
「ウグ」
そうしないだけであって、できないわけじゃない。
しばらく見つめあい、相手側が折れた。
「いいだろう。今はその言葉を信じよう」
そうして、少女は両手をかざす。
すると、自身の下に魔方陣が出来上がる。
そこでおっさんは、自分の体が浮いていくことに気が付く。
「今度はこのようなへまはしない」
そう言って、魔法を発動させる。
そして、気が付けば、どこかの城壁の前だった。
「ここは…」
おっさんが現在地をわからないでいると、リーネが驚いていた。
「そんな!ここはデューチェだぞ!」
デューチェ?この町の名前か?
「デューチェとは?」
「ああ、我々が目指していた、一番辺境の町だ」
ああ、ってことは、空間魔法か。
「そんなに驚くことか?」
「当たり前だ!本来、転移は距離に応じ、そのぶんの魔力が取られる。まして、魔都から、デューチェまでだと?人間技ではない…」
と、戦線苦境しているが、まあいいや。
何やら過ぎようだが、俺は田舎に引っ込む。
そんな俺には関係ないことだ。
「ま、今サラ驚いても仕方がない。とりあえず中に入ろう」
そう言って俺は、門を指さす。