野宿
「まあ、そう言う私も、冒険者なのだがな」
そう言ってリーネは、頬を掻く。
「そうなのか。てっきり騎士か何かだと思っていたのだが…」
リーネの着けている装備は、銀の鎧に長剣、正に騎士といった風貌だったからだ。
「ああ、最近冒険者になったのでな、どの様な装備が自分に合っているのか分からなくてな」
俺は頷きながら、装備についてを考えようとしたところで、気付く。自身の記憶に無い筈の、鎧やアーマーの知識が有ったからだ
あまりにも膨大な記憶のため、思わず立ち止まってしまう。
「?蒼太殿??」
リーネが振り返り、此方を向く。
「いや、何でもない。ところで、後どれくらいで街に着くんだ?」
少し気になった事を聞き、話を反らす。
「ああ、此処から丸1日歩けば城壁が見えるだろう」
丸1日だと!
現代の社会で育った蒼太からすれば、そんな物は受け入れがたい事だった。
「いや、日が沈むだろ」
蒼太が空を指してそう言うと、リーネは首を傾げる。
「そうだが?」
蒼太は自分の顔から嫌な汗が出るのを感じる。
「いやいや、食事はどうする。睡眠は」
再びリーネは、さも当然かのように言い放つ。
「だから、途中で野宿するのだろう?」
そこで蒼太は、ああ、と思う。
そう言えば、此処って異世界だったな、と。
「成る程。取り敢えず、行けるところまで行くか」
気合を入れるように歩きだす。
「ああ、そうだな」
こうして二人は、ひたすら森の中を歩むのだった。
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そろそろ日が沈むだろというとき、リーネが言い出した。
「今日は此処で野宿しよう」
彼女が持っていた袋から、毛布のような物を取り出す。
そんな物を持っていない蒼太は、仕方がなく、そこいらの石の上に座り、一服する。異世界から転移させられて、それ程時間が立っていない状況では、どうしようもなかった。
「仕方がない。俺はここですわってっ……」
そこで、自身のスキルに、あらかじめ保存しているものを出せるスキルがあったのを思い出す。そして、その中に、何が入っているのかも、分かるようになっていた。
「何なんだ一体」
思わず呟く。
「ん?どうした?蒼太殿」
リーネが此方に聞いてくる。
俺は、先程の記憶通り、あるアイテムをだす。
それは、現代のアパートその物のような形をした、プレハブで出来た小型の建物だった。
「野宿をするなら、こちらの方が良いだろう」
そう言って中に入る。
中には、部屋が部屋が四つほどあり、キッチンにベッドルーム、洗面台に洋式便所便所、シャワーに湯船がはってあるバスタブ、更には洗濯機に冷蔵庫等々。
何もかもが現代に見られる部屋その物だった。
何故俺が、こんなものを持っておるのか、些か疑問だが。いや、それとも錬金術の力による物なのか。
「まったく分からん」
取り敢えず、リーネを中に呼ぶことにする。
「リーネ、中は安全のようだ。中に入って構わないぞ?」
アパートの前で口を開けて突っ立っている彼女に言う。
「リーネ?」
二度目の呼び掛けに、彼女が気付く。
「あ、ああ、蒼太殿、君は一体何者なんだ?この様な魔法?は始めて見たぞ」
ふむ、此を魔法と呼んで良いものなのか、後々面倒くさそうなので、そのままでいいや。
そうだな、迷子?いや子供じゃあるまいし、かといって冒険者になるつもりもない。う~ん。
ま、適当にはぐらかしておこう。
「別に大した者でもない。ただ少しばかり、人と違うだけだ」
「少しばかり?」
何やら悩んでいるリーネを中に促す。
それからは、風呂に驚き、キッチンに驚き、ベッドに驚きと、非常に忙しそうに表情を変えていた。
暫くしたのち、静かになる。
「落ち着いたか?」
「ああ、この様な施設は見たことがないからな。少しばかり驚き過ぎてしまった」
リーネが天井や床、キッチン等を見ながらそう言う。
「それにこの光、まるで魔法ではないように魔力を感じない」
リーネは天井の電灯を見ながら言う。
それはそうだろう。何せ、この施設には、魔法と言う物が一切関与していないのだから。
此はどういう原理で動いてるんだ?太陽光にしたってそれ程充電できてないだろうに。
ま、使えるんならそれで良いか。
面倒事を後々に回す、典型的な日本人の蒼太であった。
食料は、冷蔵庫に何故かある一通りの食材を食材を料理する。
「此は何だ。見た事もない食材があるぞ」
リーネが玉ねぎを見て、そう言う。
「そうだな。まあ食べてみれば美味しいもんだ。取り敢えず、今日はカレーか」
食材や、様々な観点により今日はカレーとなった。蒼太は長らく独り暮らしであったため、自炊もできるのだった。
「凄いな蒼太殿は、その様なことまで出来るのか」
既に風呂に入り、この建物に付いていたバスタオル肩に掛けたリーネが、驚くようにそう言う。
「まあな。生きるのに必死で身につけた物だから、あんまり上手くないかもだけど」
「そうなのか?まあ、食べられれば何でも良いさ。楽しみにしている」
そうして料理を始めたときだった。
『スキル料理人を発動』
頭の中にそう響いた。
「ん?今なにか聞こえたか?気のせいか」
料理に集中していた蒼太は、気付かずに料理を続ける。
そうしてできたのは、一流レストランにもひけをとらない、最高のカレーが出来た。
「何だこれは!上手いぞ!蒼太殿は料理人立ったか?」
「いや、そういう訳じゃないんだが。まあ美味しいなら何よりだ」
内心焦り、スキルが勝手に発動しないよう、料理人スキルをオフにする。
「うむ。どんどん頂こう!」
そうして、あっという間にカレーが消えた。
「美味かったぞ、蒼太殿」
「ああ、それは上々、ではもう寝て明日に備えるとしようか」
俺の提案に頷いてリーネはベッドルームに向かった。
「さて、異世界で1日たったが、俺は何が目的で目的で此処に来させられたのやら」
思わず呟くほどに、彼の中では大きな疑問になっていた。