誰?
「おいおい、これはやばすぎるだろ」
ここがどうあれ、前世の経験から静かに、悠々自適に暮らすことを目指すと、転移したと分かった時からそう決めていた。
そのため、目立つようなことはしまいと決めて、その矢先からであった。
「まあ、普通に生きていれば、大丈夫か」
そう言い聞かせ、目指せ悠々自適なスローライフ、と再び歩き出すのだった。
「そういえば、ここって森のどのあたりなんだ?」
見るからに人のいなさそうな森を、やみくもに歩くのは非常に効率が悪い。せめて、どちらに向かって歩けばいいのかがしりたかった。
「ええっと、マップとかないのかな?」
俺は、再びステータス画面を見る。
どうやら、国王のスキルで自分の領域を持つ際に、マップと同じような機能を使うことができるらしい。
「まるでゲームだな」
森の中をとにかく前へ進んでいると、何やら金属同士がぶつかり合う音が聞こえた。
どうやら近くで戦闘を行っているようだ。
音源へと、近づく。
そこでは、緑色の小さな人型の生物と戦う騎士のような見た目の人が戦っていた。
人型ではあるが、明らかに人間ではないそれが、騎士を囲い、追い詰めていく。
「見逃せない、よな」
俺は、とっさにそう思い、騎士の元まで歩む。
いつもの癖で、ポケットに手を突っ込み、煙草をくわえ火をつける。
その一連の動きは洗礼されていた。
「ああ、君たち、いったい何をしているのかな?」
まずは、言葉の意思疎通を試す。
「ギャギャッ、ギャー!!!」
こちらに気が付いた緑色の生物が、こちらに襲てくる。
「え、っちょ、」
とっさに横に転がり、それをかわす。
元居た場所には、緑色の生物が持っていた棍棒が土にめり込んでいた。
「おいおい、マジかよ」
士の危機を感じ、体が鈍くなる。
その隙を狙ったかのように、再び棍棒をたたきつけてくる。
「っく、ってーな!」
ちょうど立ち上がろうとしたところに、横から振られたため、腹に見事に命中。
口の中に、何かがこみあげてくる。
「な、なんだ?」
吐き出したのは、血のようだ。内臓がつぶれたらしい。
「…クソ、もう終わりかよ」
俺は碌に立てない体を力を絞って、何とか動かす。
再び、棍棒が振られ、今度は足を持っていかれる。
「おいおい、これは、絶対、やばいって」
いよいよ、死の危機に瀕する。
人生で二度目の死が、訪れようとしたとき、その声は聞こえた。
『HPの半数の減少を確認』
『自己再生、自動開始』
『攻撃力×200』
『効果範囲内にいる敵を自動排除』
『法典を自動発動』
『スキル【王の居城】を自動発動』
『守護、自動発動』
『レベル50以下の敵の殲滅、開始』
女性の無機質な声が聞こえたとたん、俺に向かってきていた、緑色の生物が、血を吹き出しながら、絶命した。
「な、なんだ?」
別の緑色の生物が攻撃をしてきた。
『レベル50以下の者による攻撃は無効です』
そんな声が聞こえ、青く、薄い壁のようなものによって、その攻撃はふさがれ、直後、先ほどの青い生物と同じように絶命した。
『身体の完全回復を確認』
『即回復スキルを自動開始』
『スキル法典の自動使用』
『自動回復終了、即死不可スキルを発動』
そんな声を聴いている時、それは起こった。
「ほぉ、王に盾をつくとはいい度胸だ」
俺の口から思ってもいない言葉が出た。
そして、勝手に歩き出す。
「ここまでコケにされたのは、初めてだな。代わりに、お前たちには、最上の苦しみを味わらせてやろう」
自分の体を使った何かは、何もない空中から出た鎖で、緑色の生物を一匹残らずとらえ、体を引き裂く。
「ふむ。貴様らに使う時間が惜しいな」
そう言うと、やはり、何もなさそうな空中から、無数の剣を出して、緑色の生物を一人残らず絶滅させる。
「ふん、つまらん余興だったな」
全てが終わった途端、体の自由が戻った。
「なんなんだ、今のは、この体のもともとの持ち主か?それとも、俺のもう一つの人格?」
ここに来て、自分んと言う存在が恐ろしくなる。
そんな、事を考えていると、横から声がした。
「貴公」
振り向けば、先ほどまで、緑色の生物に囲まれていた、騎士がいた。
「ああ、えっと、無事でよかったよ」
俺は不愛想に言う。
「ああ、貴殿のおかげで命拾いした。感謝する」
そう言って、頭を下げてくる。
うん、御礼をキチンと言えるのは、良いことだな。
「いやいや、そんなことはないよ。それじゃあ、俺は先を行くんで」
そう言って歩き出そうとしたが、それは騎士によって止められた。
「いやいや、何か御礼をせねば気が済まん。この森を出たところに私の家がある。ぜひ、君を招待したい」
「ふむ」
少しばかりの思案。
確かに、このまま自分だけで森をさまようのは非効率でもある。それに、騎士の家となれば食事くらいは、出てくるだろう。
「…わかった。では招かれよう」
「ああ、ありがとう。と、自己紹介がまだだったな。私は、リーネ、一応騎士をしている」
そう言いながら、右手を出してくる。
「ああ、私は、佐久山蒼汰と言う。よろしくな」
そうして、握手をする。
そんな出会いもあり、町へ赴くのだった。
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「しかし、佐久山殿は、強いのだな。ゴブリンの群れを一掃するとは」
「いやいやいや、それにしても、何故あのような場所に一人で?」
「ああ、まあ、私の身の程知らず、と言うやつか。群れくらい、自分一人でも大丈夫だと思っていたんだがな」
リーネが、顔を落とす。表情は兜でうかがうことはできない。
「その兜、苦しくないのか?脱いだらどうだ」
「ああ、いやしかし…」
何やら悩んでいるようだった。
顔に自信がないのか?
何やら仲間が出来たようで、うれしく思う。
「ここには俺以外は誰もいない。たまには、外の空気を腹いっぱい吸い込むことも必要なんじゃないか?」
「ふむ、確かに素だな。では、外すとしよう。恩人にいつまでも素顔を見せないというのも、失礼だな駆らな」
そう言って、リーネは兜を外す。
兜の裏から現れたのは、長い赤い髪を持った、少女だった。
「ふむ、女騎士だったか…」
小さい声でつぶやく。今の今まで女性と気づかなかった自分を恥じる。
「改めて、リーネだ。よろしく」
微笑みながらそう言った。
「女騎士だったのか」
「ああ、まあ、基本隠すことにはしているのだ。少しばかり、その、正確に難があってな」
「な、なるほど」
俺は、彼女の装備をもう一度見る。
よく見ると、ちぎれたであろう青いマントの後、鎧の所々についている紋章、剣は持ち手に鎧と同じ紋章があった。
「あ、あまり、じろじろ見ないでくれ」
リーネが恥ずかしそうに、顔を赤らめながら言う。
「ああ、そうだな。すまんかった」
一方の蒼汰は、三十を超えたおっさんのため、まったく動じない。
その態度に、ますます恥ずかしくなるリーネだった。
「ゴッホン、それで、蒼汰殿は、あそこで何をしていたのですか?」
当然のような質問を受け、答えるのに詰まる。
ここは、正直に話すか、はぐらかすか。
「まあ、少し、野暮用があったので」
はぐらかすことに決めたようだ。
「そうなのか?まあ、人にはそれぞれ事情があるからな」
そうして、辺境の町にたどり着く。
途中の休憩中に、自身のスキルについて確認する。
法典
効果範囲内の者をすべて従わせることのできる、王のスキルである。等々…
王の居城
全ての攻撃を無効化し、状態異常をもとに戻す。癒しも行われるため、まさに王の城を再現したものである。また、錬金術との合成技で、顕現させることも可能。等々…
「なるほどな。これ、チート過ぎるは」
俺は、まあ頭を抱える。
目指すは、目立たず、悠々自適に辺境でのスローライフ。
これじゃあ、目立ってしょうがないじゃないか。
「まあ、その対策は後々考えるか」
そうして、再び移動を始める。
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「ところで、蒼汰殿。町へはどのような用件で来たのだ」
もう少しで、辺境の町、と言うところでリーネが聞いてきた。
「そうだな。まあ、とりあえずは宿が欲しかった」
「そうか。では、しばらく辺境の町に?」
「いや、そこはまだ決めていない」
「ふむ」
何やら、気になるkとがあるらしい。
こちらの森からくるものは珍しいのだろうか。
「ならば、冒険者をやってみてはどうだ?」
「冒険者?」
リーネが、提案してくる。
「うむ。君の使う魔法?は騎士向きではないし、かといってその強さを使わないのはもったいなさすぎる。そこで、冒険者と言うことだ」
「なるほど…」
そこで、俺はリーネに、冒険者についての概要を説明してもらうのだった。