目覚め
昼食を買い、自宅に戻る、
戻ってわかったこと。
この二人の小さい女の子(推定三歳)は、まだ自分でトイレに行けないようだ。
何故っ?
と思うのだが、いけないのなら仕方がなく、まず、トイレの場所を教える、
次に、自分でパンツを下ろすように言う。
着ている物は、昨日のままなので宝物庫の中に入れてあった、妙に触り心地の良い布でできたワンピースを着せる。
「ふう、これで昼ごはん食べさせて、歯を磨いて………」
俺は、ふと、世の母親たちはいつ休んでいるのだろうと、至極当然の疑問を抱くのだった。
「おじさん、みずがとまらないです」
今朝からおじさんと呼ぶ子供二人に呼ばれ、あっちへ行ったりこっちへ行ったり。
うん。本当に、いつ休んでるんですか?ご婦人方
そして、地球にいる母さん、僕を育ててくれてありがとう。
万感の思いを込めて、地球にいるであろう母親に思いをぶつけるのだった。
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時間と言うのは、長いように感じられて短い。
ここ十年はそんなことを感じるいい機会だった。
前世での稼いで、取られ、短い時間をやりくりしていた、絶望の短い時間ではなく、充実感のある十年を過ごしていた。
エルフ少女二人を三歳児?から育て、きょいくをしてきた。
自分は頭がいいわけではないが、他人の記憶を当てにして、歴史、魔法、剣、弓、それに様々な考え方や道徳についても教えてきた、つもりだ。
まあ、血は繋がってないが、自慢の娘たちだ。
そうしてつい先日、この子たちの母親たちが、示し合わせたように、同時に目を覚ました。
暫くは俺のことを警戒して、娘について聞かれたが、家の前で倒れていた事、それを俺が助けたこと、子供は元気に育っていること等を説明し、娘さんを合わせると、泣きながら御礼を言ってきた。
もう一人も同じような展開だった
エルフは長命であり、賢く、物知りである。
そして何よりも、身体能力や魔法センスが明らかに人間以上にある、らしい。
代わりに、鍛冶仕事がエルフの大半は太くだそうだ。
そのため十年寝込んでいても、歩く程度は普通にできるとか。
なんやねんそれ。
ダイニングの丸机の周りに座り、一通り自己紹介をする。
ちなみに、子供二人のことはレイとアリスと呼んでいたが、本名はレイラとアリシアらしい。
そして、親御さん二人は、なぜかにらみ合っていた。
「何故この場所にダークエルフがいるのですか」
「それはこちらのセリフでもある」
何やらこちらを置いて、喧嘩を始めようとしていた。
「お母さん。とりあえず、おじさんの話を聞こう?」
「そうだよ、争ってる場合じゃないでしょ?」
そんな母親たちを止めたのは、娘さん方だった。
「ああ、レイラ、こんなに大きくなって」
「アリス、立派になったな」
どうやら二人は、立派になった娘を見て、感動しているようだ。
「ところでレイラ、何故その者の子供と隣で座っているのかしら?」
「そうだアリスそこの者と一緒に座るなど、あり得ん」
いきなり空気が変わった。
え、何?なんか仲悪いのかな?
「ゴッホン。まあ、お二人の意見も聞きたいところだが、今日はもう休んで、明日話し合おう」
二人は、しぶしぶと言った具合に部屋に戻った。
「まったく。起きてそうそう喧嘩とは、本当に元気なんだな」
「おじさん、お母さんがごめん」
「うん、おじさんに迷惑かけちゃった」
しおっとした二人に謝られては、怒れない。
「二人が悪いわけではない。まあ、今日のところは寝ることだ。明日、すっきりとした頭で話し合おう」
ところで、ダークエルフとエルフは、人間にとってはどちらも変わらないのだが、エルフにとってみれば一緒にされたくない部類の事らしい。
「まったく。これも人種差別に入るのだろうか」
ふと、疑問に思ったことを、むねの奥にしまう。
出来れば、レイとアリスには、そにょうな価値観を捨てて生きて行ってもらいたい。
そう思う蒼汰であった。
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朝、ギルドに赴いたおっさんは、依頼の者を受け取りに行く。
「ああ、おじさん。以来の品、届いてるよ」
ここのギルドで最初に受付をしてくれた彼女こと、ロゼッタがいつものようにこちらに声をかける。
「いつもすまんな。それで、例の載品は?」
「ああ、物だけに、裏にあるよ」
御年25歳、まったく人の成長は早いな。
「ありがたい。ところで、そろそろ相手は見つかったか?」
俺はからかうようにいうと、そっぽを向いて、言った。
「いないよ、中々見つからない物だね」
これでいて、非常にモテるのだが、彼女の求めるスペックが高すぎて、一日二人は告白しているが、見な撃沈仕手いるらしい。
「いい加減要求水準を下げてみたらどうだ?そうしないと、見つからないぞ?」
「わかってる。まあ、その時が来たら結婚式には呼んであげるから祝品、用意しておきなさいよ?」
「ああ、そんなときが来たら、な」
そう言って、ギルドの裏に回る。
そこには、大きな袋を持った冒険者と、受付嬢がいた。
「今回依頼された純オリハルコンのインゴットです」
そう言って、塊の全てを見せてきた。
ウムうむ。
「ああ、これだ。ありがとう」
俺は冒険者にそう言って、依頼書にサインする。
「いやいや、おっさんの依頼はたまにしか出ないが、報酬が良いからな」
そう言って、リーダと思しき青年が依頼書を受け取った。
「そんじゃあ、またな」
そう言って、彼らは去っていった。
俺は、インゴットを宝物庫にしまい、家に帰る。
これは、来年から学校に行かせようと思い、お守りを作るために手に入れたインゴットだった。
ギルドとの付き合いは、つい先日までハイポーションを納品していたが、先月で辞めた。
そろそろタンス預金が家に収まら無そうだったからな。
冒険者ギルドでつぶやかれていたことだが、魔王軍だが、新しい指導者が出たらしく、今は人族が押されていた。
国はついに英雄召喚を行うことにするようだ。
どうやら、魔王召喚に成功したらしい。
「まったく」
いつまでも戦争をやっていることに、少しばかり不安を抱くおっさんであった。
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家では、レイと母とアリスの母が紅茶を飲んでいた。
それ、うちのお茶なんですが。
ちなみに、レイがエルフで、アリスがダークエルフだ。
「ム?早いですね」
リビングでコートを掛け、一人用のソファーに腰を下ろす。
「あら、おはようございます、えーと…」
「ああ、おじさんで結構ですよ?」
「いえ、それでは申し訳ないです。ササキさん、でよろしいですか?」
「ええ」
「では、ササキさん。この度は私たち親子を拾って下さり、ありがとうございました。この十年、短い間でしたが、娘を育てていただきありがとうございます」
アリスの母親からお礼を聞いていると、隣からレイの母親からも言われる。
「私も、ササキさんには感謝しきれん。このエルフと一緒と言うのは癪だが、助けてもらい、感謝する」
「…ただ、私がそこに偶然いただけ。それだけのこと」
「それでもです」
「わかりました。受け入れましょう。それで、今後の予定なのですが…」
「敬語はいりませんよ?」
「うむ」
二人がこちらを見て頷く。
「それでは、この先、あなたたちは里かなにか、じぶんの故郷にでも戻るつもりですか?それなら、そこまで付き合いますが」
「いえ、しばらくはここにいようかと」
「そうだな。十年越しではあるが、目的をはたさねばならないからな」
「ふむ」
二人の話を聞き、子供二人をがっこうに入れる話を持ち出す。
「実は、あの二人には王立アカデミーを受けさせたいと思ってな、どう思う」
「私は賛成です。若いうちは勉学に励むのが一番ですから」
「私もかまわないと思う。本人にその意思があればな」
二人からはいい返答を貰った。
「わかりました。では、そうしましょう」
「ああ、それと、この家にいる内は、喧嘩をしないように。あの子たちに悪影響を及ぼしかねない」
「…わかりました。家主たるササキさんが言うのです。守りましょう。それに、今まで世話を見てもらった借りもありますからね」
「…そうだな。この家にいるうちはそうしよう」
これで、一安心?
とりあえず、目下の目的は二人にアカデミーの受験勉強をさせねば。
ただ、彼女たちは思った以上に頭がいいので、いらない気もするが。ねんには念を、だな。




