物語
気が付けば手遅れ、何てこと、この世の中ならいくらでもある。
そう、これもその例の一つにすぎないのだ。
ボロいアパートの一室、畳には染みだらけ、窓の枠は歪んでいて外気が遠慮などいざ知らず、部屋の中に流れ込んでくる。
意識がだんだん遠のいていく。
寒い。
もう愛なんて信じない。
やっと自由の身になれた。
借金が無くなり、あの女の手からも自由になった。
ようやく人生の始まりだって言うときに、倒れるなんて。
我ながらとても運が悪い。
あ~あ、もし次の人生があるなら自由気ままで何不自由ない、沢山の時間を思うがままいきたいな。
所詮はもし、仮定の話だった。
次があるとしても、記憶がない。
そうなればまた一から人生のやり直しだ。
だから、願わくば、我が次の人生は、悔いのない人生を送ってもらいたい。
佐久山蒼大は、そう、強く願い息を引き取った。
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「何だか、眩しいな」
蒼大は、瞼ごしに光を感じていた。
耳からも音を拾い始めた。
鼻には、湿った土と木の臭い。
耳には風に揺られて、葉っぱ同士がぶつかり合う音。
瞼越しの光。
ここは森の中?確かアパートの二階で死んだはずじゃあ。
恐る恐る目を開ける。
そこには、大きな湖の水辺と、一面を多い尽くすような森があった。
「どういうことだ?」
とりあえず、立ち上がり周りを見る。
何処にも人の気配がしない。
自身の姿を水面で確認する。
そこには、黒いロングコートに、スーツとネクタイをした自分がいた。
これは、転移した?そんなファンタジーなことが現実に?あり得ん。
ならこれは夢か?
いやいやそれにしてはリアルすぎる。だがもしお決まり設定の上、異世界なのだとしたら、ステータスが確認できるはず。
カモン、ステータス!
心でそう念じると、目の前には透明な板が出てきた。
驚いた事に、チートもチート、レベルは完ストされており、スキルには射出可能なアイテムボックス、職業は国王、剣聖、錬金術師と載っていた。
一つ一つの説明を見る。
国王
自信が定めた領域内での序列最上位、又は王権、法典の作製が可能。
アイテムボックス内の宝物の使用を可能にする。等々……
剣聖
剣を扱う者の最上位、スキル習得の短縮が可能。
レベルを上げる際の短縮も可能。等々……
錬金術師
錬金術の最上位を扱う事が可能。
一般の魔術師の最上位職業、錬成する全ての物を最も良い物にする。又、物作りを想像により、顕現可能。等々……
職業
自身の持つ職業を多重に使用する物。
石にする事で売却可能。
と載っていた。
俺は、あまりにチートな設定を見て、身体が震えた。