24/33
『返せなかった本』 『雨音がしても、しなくても』 『夢のマイホーム』
『返せなかった本』
寝苦しい夜
汗ばんだ寝衣
扇風機が廻る音
仕方なく本を読む
雨が屋根を叩く
シーツのしわ
微かな眩暈
手を振る私
頷く貴方の顔
なぜ無表情なの
口に感じる錆の味
唇をまた噛んだ
夢から覚める
一人の部屋
朝一番の電話
懐かしい声
友の訃報
後悔と逡巡
新幹線の予約
本はもう返せない
『雨音がしても、しなくても』
夜、雨音を聞きながら眠るのが好きです。真っ暗な部屋の中で聞こえるのは雨音だけ。世界の中に私一人しかいないような気がしてくる、その孤独感が好きなのです。夜目覚めた時に雨音がしなくなっているのも好きです。明日の朝、晴れているということだから。青空が好きだから。私、単純だね。
『夢のマイホーム』
五十年前に拓かれた新興住宅地。郊外の駅から徒歩で二十分。坂が多く車がなくては生活できない。新婚夫婦が多く移り住み、幸せな家族を演じた。時は流れ子供達が巣立ち、老夫婦だけが古い住宅地に置き去りにされた。老老介護の果ての孤独死。なんのための人生だったのか。まあよくある話。