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『夏休み』 『平等に訪れるもの』 『逃げた先』
『夏休み』
子供の頃、缶蹴り遊びを誰としたのか、私はもう覚えていない。でも遊んだ記憶だけは残っている。鬼が少し離れた隙に缶を蹴った感触。遊んだのは南広場だったか、それとも小学校の校庭だったか。コンクリートのマンホールの上に缶が転がるのを見て歓声が上がる。おおい、みんな元気かい?
『平等に訪れるもの』
容貌が崩れていくこと。身体の動きどころか意思すらコントロールできなくなること。自分がこの世に居られる残り時間の見当がつくようになること。これらはすべての人へ平等に訪れる。生まれてから寿命が尽きて灰になり、人々から忘れられるまで長くて百年間。まあサッパリしてていいかもね。
『逃げた先』
生き続けたいと思った。私は逃げた、死の匂いからできるだけ離れるように。気がつくと私は曇天の下、鼠色の大海が見える崖の上に立っていた。彼岸と此岸を分かつ場所。そこで私は悟った。死は生が無くなることではなく、より大きな命と一体化することなのだ。私は崖から一歩踏み出した。