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『平和』 『J・S・バッハ』 『明日起きたこと』
『平和』
憎しみと復讐の連鎖を断ち切る方法はいくつかある。
強者によるジェノサイド、民族浄化、要するに皆殺し。
もう少しマイルドには同化政策、教育という名の魂の虐殺。
固有文化を抑圧し母語を奪う。
暴力と洗脳、プロパガンダ。
現在でも世界中で行われている。
人間というのは愚かなものだ。
『J・S・バッハ』
バッハのオルガン曲を真っ暗な部屋で聴いていると、俗世のすべてがどうでもよいことのように思えてくる。
思い通りに進まない自分の人生とか、続けて起こる悲しいことや苦しいこととか、すべて遠くの国で生じていることであるような、あるいは許されているような気持ちになる。
不思議だね。
『明日起きたこと』
街全体から人の気配が無くなった東京を私は彷徨った。
死体もない。ゾンビが襲ってくるでもない。
ただの梅雨の晴れ間の空っぽの空間だ。
誰もいない。オフィスビルの中にも道にも誰もいない。
車も中に誰もいないまま放置されている。
信号が形式的に青から赤に変わる。
黒猫が道を横断していく。