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短めです。

5歳の誕生日。

短剣と鞘にその子に合わせた装飾を施したものが贈られる。

これは騎士爵より上の男爵や子爵も変わらないらしい。

これからは身を自身でも護れるように、との願いをこめて。

夫がタキに選んだのは翼を意匠にしたもの。木登りにはまって木から木へと跳びうつるこの子に、さらなる飛躍を願ったそうだ。


また、リンにはリンの好きな百合をあしらっていた。これは実は騎士団の魔術師の意匠の花と同じでもある。最近は細かい鉱物の玉を飛ばして木の枝を…マイルドな言い方をすれば剪定しているから、義母や母のように魔術師の道へ進むと思っているのかもしれない。


私と義母で腕によりをかけて二人の好物を沢山作った。魔物の肉のコロコロステーキに、具沢山のシチュー。ケーキにも色々な果物をのせて、華やかに。

この日だけは実は苦手だと知っている野菜は使わなかった。

二人の大好きなものばかりのごちそうだ。





まずは夫から、ひとりずつ呼んで短剣を手渡す。

「タキ。これからは剣の扱いも少しずつ教えていく。一足跳びに強くなる方法などどこにもない。毎日の鍛練がお前を支えてくれるだろう。いつか、大切な人が出来たときに護れるように、日々精進しなさい。父様は鍛練の手助けは惜しまない。だが、最後は自分自身の意志がお前を強くする。これだけは忘れないでくれ」


「リン。お前は色々な物事をよく観察する眼がある。思慮深いことは大きな長所だ。だからこそお前の魔法には独創性があるのだろう。だが、時に魔法の発動ができなくなることもある。その時に慌てないように、剣もしっかりと身につけて欲しい。それが心の強さへも繋がってくれると父様は信じている」


二人は真剣に夫の話を聴いて、短剣を胸に抱きしめた。まだまだ小さな手だけれど、産まれた時からくらべると本当に大きくなった。

二人の金に近かった髪も薄い茶色になりつつある。

体を動かすことが大好きなタキは海のような青い瞳をキラキラと輝かせて、剣を学べることが本当に嬉しそうだ。

リンは独創性を誉められたことが嬉しくもあり、魔法の発動ができなくなる時というのが不安でもある、といったところか。新緑のような瞳が相反する感情に揺れている。


私は膝まづいて二人と視線を合わせた。


「リン。タキ。5歳は本当に特別な歳なの。これからはもっともっと沢山のことを学んでいく。剣の修得や、本来なら魔法も5歳で学び始める。沢山の山にぶつかることもあるでしょう。でも、いくつになっても母様はあなた達の味方です。それを忘れないで。

これは、魔物からとれる魔石です。瞳の色はその人の魔力の色と似ていると言われているの。あなた達の魔力がもしも枯渇してしまいそうになったとき、私が助けに行くまで、もちこたえられるようにこれを御守りにして、身につけておいて」

二人それぞれの瞳の色の魔石をペンダントにして、私は二人の首にかけた。


これは、私が母から5歳の時にもらったものと同じもの。私もアイスブルーの魔石をもらった。魔物から街を守るために魔力枯渇まで闘い、亡くなった母。勇敢な、でも優しい人だった。

母を思い出したのか、義母が顔をそむけて目元を拭ったのが視界の端にはいった。


「「ありがとうございます。父様、母様」」


まっすぐに見つめながら言ってくれる二人の声が、温かい宝物のように私の胸におちた。





そのあとの晩餐では、短剣を離さないタキと自室へしまいにいってから食べたリンとで、性格の違いがより際立った。

幸せそうにパクパク食べる二人と、それを夫や義両親と見守れることが嬉しくて、私は胸がいっぱいであまり食べられなかった。




二人を寝かしつけたあと、夫とひさしぶりに酒を酌み交わした。妊娠してから私はお茶か白湯でつきあうだけだったので、本当にひさしぶりだ。

「ネマ、ありがとう」

酒精がのどをとおってふわふわと体温が上がる錯覚にとらわれる。

「二人ともあんなにいい子に育ったのは、ネマのおかげだよ」

夫の深い森のような瞳が優しく私をうつしている。

「君と結婚して、本当に幸せだ」

視線を下げると酒が揺れている。

久しぶりだからか、まわるのがはやいのかもしれない。

「ネマ、…ネマ?」

笑いを含んだ夫の声に、意地でも視線をあげない。

「…わかったよ、ネマ」

ふわっと体が浮き上がったのも、そのあと酒を片付けることができなかったのも、多分、久しぶりの酒のせい。

それ以外の理由なんて、私は知らない。






短剣を渡したからといって、それで練習するわけではもちろんない。

子供用の木剣の素振りから始める。片手ずつ、10回。それを繰り返す。朝晩1セット。もっと実戦的な練習を望んでいたらしいタキとリンは拍子抜けしたらしいが、5歳児が対戦式の練習を初めにしたところで変な癖がつくだけだ。

素振りの型を少しずつなおされて、剣の軌道がまっすぐになっていく。

まっすぐになってからでないと次のステップには進めないのだ。

それでも、今までの木登りやおいかけっこ、遊びのなかに入っていた身体作りがここでいきてくる。

木剣をふりあげる。ふりさげてとめる。結構筋力が必要になるのだ。足元も、体幹も、全身の筋力がないと剣は本当には扱えない。

二人も基礎の難しさがわかってからは、真剣に取り組んでいた。

毎日、毎日。

ゆっくりと、だが着実に二人は剣を身につけ始めた。

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