よん
短めです。
文字と数字、魔力の感じ方、めぐらせ方。二人とも意欲的に学んでくれていた。
手を使う遊びや体を使う遊びも取り入れて、体力作りもしっかり平行している。
「かーさまととーさま、ほんとうにこんなことちいさいころやってたの?」
リンの質問に義母が笑った。
「もう少し上まで登ってたわよ、二つ上の枝かしら。そして降りられなくなって泣いてね~」
…幼馴染みとの結婚って、悪いところもあるのよね…。
3歳の誕生日。本来ならこの世界では5歳になるまで祝わない。でもね、憧れもあった七五三を思い出して、ちょっとだけ豪華なメニューにしてお祝い。
二人とも、私たちのところに産まれてきてくれてありがとう。
誰よりも幸せになってね。
二人はちょっと涙ぐんで、でも嬉しそうに笑った。
こんな毎日を積み重ねられるように、これからも沢山のことを学ばせてあげなくては。
「かーさまさぁ、なんで魔法は教えてくれるのに剣はまだなんだよ? おれ、はやく剣でカッコよくたたかえるようになりたいんだけど」
基礎体力がないとかえって危険なこと、まずは筋力や瞬発力をつけるように説明。タキはそれでも不満げで、ちょっとしたらニヤニヤしだした。
「じゃあ、これならいいだろ?」
魔力を全身にめぐらせて筋肉をおおきくした。4歳児のボディービルダー…正直気持ち悪い。
「母さまになぐりかかってみなさい、タキ。リンはそこでみていて」
私の言葉に駆け出そうとしたタキが、2歩目でスッ転んだ。
魔力での筋肉強化もきれて、涙目になっている。触ると身体中が熱を持っていた。
急な筋肉強化の弊害だ。アイスマッサージをしながらもう一度説明。すぐに剣を使わせることはしていないのは、剣の専門家の夫の方針でもあるのだから。
治癒させることは今の私にもできるけれど、少し痛い思いも必要だろう。
うんうんうなって涙目のタキは可愛いけれど、昔の夫とまったく同じ行動をとるのは…前世の記憶なんて関係ないんだなあ、と、ちょっと遠い目になった。
リンは女の子だけど、運動をさせるときはズボンをはかせている。
ただ、前世の記憶の弊害なのか、ミニスカートにスパッツで運動したいと言い出した。
ミニスカートはこの世界にはない。膝下丈でさえ子どもしか許されない風潮がある。説明するよりも見せた方がはやいだろうと二人を連れて街に行った。辺りを歩く人の服装を見せつつ、目的地は夫の職場。今日は折よく訓練の見学可能日だ。
女性騎士達の姿を見れば、大丈夫だろう。
…リン、タキ。女性騎士のアイドルになりました。
可愛い子が好きなのはどこの世界の女性も変わらないのね。
まあ、可愛いのは当然ですけどね、うちの子だから!
夫の指揮する姿もみられたので、尊敬の目を向けられたあの人の帰ってからの自慢話はどれくらい長時間になるのかわからない。
お酒、呑む分以外は隠しておかないと、ね。
「かーさまがどこをめざしてるのか、いまいちわかんない。私たちを可愛がってくれてるのはわかるし、嬉しいけど。そのわりには厳しい時もあるし」
リンから言われた。やっぱり女の子の方が精神年齢高いのかな?
タキはボディービルダー以来、楽しく遊んで学んでを素直に繰り返しているからね。
リンを膝の上にのせて、話した。私の大好きな両親が結婚後に亡くなったこと。この世界の医療が私からみると遅れていること。魔物が街の外にいて、ケガや死が日本よりも身近なこと。
「だからね、最低限自分の身は守れるようになって欲しくてね。きっと、いつかは役に立つから」
「じゃあ、火の魔法を禁止しているのは?」
「延焼して味方を傷つけてしまうことが多いの。森や草原、魔物よりも燃えるものは沢山あるから。騎士団の魔法師も禁じられているのよ」
わかりやすく、丁寧に。わかって欲しくて説明して。リンには理解してもらえた。リンには。
…タキ、私の説明は子守唄ではない。
私の教育方針は夫にも同意を得ているし、剣に関しては私よりも夫が教えるから、ということで先伸ばししていた。
剣…刃物を、人を傷つける手段にもなるものを渡すときは、5歳の誕生日。
嬉しさと不安を胸にかくして、その日は段々と近づいてきていた。