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ファンタジー戦記 習作その1

作者: 兵士ピースフル

英雄が聖剣を手に、悪の根源を成敗しに行く。

ひと昔前なら、そんな物語もありえたかもしれない。それこそ、剣とロマンが戦場を支配していた時代なら。

どんなに多くの人間が、その物語に憧れただろうか。それを証明するかのように、今年の志願兵の数は過去最大となった。敵軍の正体が、正真正銘の悪魔たちで構成された軍――大魔王バルスの率いる軍であることが広く知れ渡ったからだ。

多くの新兵が、英雄として凱旋する自分の姿を思い浮かべていた。だが、新品のライフルを片手に敬礼する彼らの無邪気な笑顔は、次第に絶望と恐怖によって歪められていく。騎士道も戦時国際法も知らぬ相手との戦いは、世界中を覆っていき――


――人類史上初めての大戦が、始まった。



「ドラゴンが来る! 誰か歩兵砲かダイナマイトを持ってこい!!」


ドラゴン? なるほど、オーガ人やエルフ人、そして魔法使いが実在するならドラゴンもそりゃあいるだろう。おとぎ話通りの強さを持っているとしたら、自分は生き残れるんだろうか。


……いや、打ち倒さなきゃいけない。そのためにここへ来たんだから。ここで活躍して錦を飾り、同級生たちを見返すんだ。


立て、レオン! お前はヒーローなんだろう? ここで活躍しないでどうする。肝心の場面で足をすくめちゃいけない!


心の声が聞こえたそのとき、彼の目に覚悟の光が宿り、勇気と闘争心がわき上がっていく。


「俺が歩兵砲を持ってきます! どこにあるのかだけ教えてください!」


レオンの怒鳴り声に、助けを求めた男が振り返った。


「そんな時間はない! なんでもいいから爆発物をよこせ!!」


レオンは急いで死体を一つ一つまさぐっていった。持ち物を漁っていると――あった。敵の戦車をぶっ壊すときに使う、束ねられた手榴弾が出てきた。……これで何とかなるといいが。


「こいつを使って下さい!」


レオンは安全ピンが抜けないよう気をつけながら、男に向かって手榴弾を投げ渡した。


「よく見つけたな、新兵! こいつがあればきっとヤツを足止めでき――」


最後まで言い終えることはなかった。見ると、胸にひし形の尖った物体が突き刺さっている。その次の瞬間――ひし形の石がたくさん襲いかかってきた。


「石嵐の呪いだ! 伏せろ!!」


そんなこと言われるまでもない。レオンは最初の弾が飛んできた瞬間に地に伏せ、雨あられと襲ってくるひし形の嵐を必死で避けていた。だが間に合わなかった兵士たちはその場で針山と化し、建物のガラスが割れまくり、レオンはひび割れた雨を転がって避けた。


「くそっ……とことん殺す気だな、あいつら……っ!!」


レオンは地面を這いながら、先ほど戦死したばかりの兵士から転がっている手榴弾に手を伸ばす。だが――


ゴルゴルゴル……!! 雷のような音が鳴り響いた。それがドラゴンの鳴き声だと気づくのに大した時間はかからない。


血に染まったような赤い鱗。巨大トカゲにコウモリの翼が生えたような出で立ち。そして何より、どう考えても手榴弾ごときで倒せるようには思えない巨体。まさしくおとぎ話通りの怪物だった。兵士がのたまっていた通り、歩兵砲やダイナマイトのような強力な武器は今、ここにはない。


「全軍たいきゃーく!! 陣地に戻れ!!!!」


号令と共に兵士たちがジリジリと後退していく。

だが、そのタイミングを見計らっていたのか、突然白い火球が飛んできた。ゆうに子供の身長くらいの大きさはある。逃げろ! と叫ぶ隙すら与えず、白球はこっぱみじんに大爆発を引き起こした――


気がつくと、レオンの周りは静けさに包まれていた。銃声も魔法の炸裂音も聞こえない。


取り敢えずライフルを手に取った。だが、銃身の半分先がなくなっていた。断面には熔岩のようなオレンジ色の粘着物がこびりついている。


レオンは震えていた。どう考えても武者震いではない。巨大な力に相対したことで体が早く逃げろ、と訴えている。さらに言えば、ドラゴンの進む先……レオンのいる場所は一本道だ。このままここにいても、はたまた移動しようとしても、見つかるのは時間の問題である。


「覚悟を決めろ、俺……」


レオンは伏せた姿勢のままライフルと手榴弾を地面に置き、胸からペンダントを取り出した。小さな剣の形をしている。


「見てろよバケモノ……目にもの見せてやる!!」


レオンは小さな剣を、チェーンのリングから勢いよく引き抜いた。


「『ソード』!!!!」


掛け声と共に剣はぐんぐん大きくなり、ちょうどいい大きさの片手剣へと姿を変えた。少し青みがかかった銀色の剣。それを握り締め、レオンは心の中で気合を溜めていく。


「いち……に……さん……行けっ!!」


一か八か、伏せた姿勢から立ち上がり、いきなりドラゴンの前を駆け抜けた。

ドラゴンも不意を突かれたようで一瞬動きを止めたが、すぐに彼の動きを追って突進してくる。

思わず後ろの建物へ倒れ込んだが、背中が当たった瞬間にドアが開き、レオンは玄関に尻餅をついた。階段を見つけ、反射的に駆け上る。少し広い部屋を見つけたので割れた窓ガラスから剣先を覗かせ、血走った目で獲物を探すドラゴンへと狙いを定めた。


ドラゴンが一歩歩くごとに、レオンの心臓と肺が大きく跳ね上がる。荒くなる息づかいを何とか落ち着かせながら、剣を狙撃銃のように構え続ける。今すぐどこかへ隠れてやり過ごしたくなる衝動を、必死で押さえながら。


「大丈夫……グリズリーの時もそうだった。ちょっと難易度が跳ね上がるだけだ……」


身体中のエネルギーを剣に送り込む。青白い電流が刀身を覆い始め、やがて剣先へと収束していく。


「――今だ!」


引き金を引くように、一気にレオンは剣の持ち手を握り締めた。

凄まじい稲妻がほとばしり、ドラゴンの全身を駆け巡る。バランスを崩した怪物はしびれながら横へ倒れ込んだ。それと同時にレオンは窓から飛び出し、ドラゴンの背中へと思いっきり剣を突き立てる。


グオオオオアアアアア!!!! 世界中の銅鑼を鳴らしたかのような咆哮が響き渡り、レオンは背中から地面へ叩きつけられた。受身の姿勢でで全衝撃を受けとめ、一気に勝負をつけようと首もとへ躍りかかる。――だが、敵も用意ができていた。


レオンは反射的に地面に転がった。さっきまでレオンが立っていた場所に真っ白い炎が吹き掛けられ、その場で真っ赤な熔岩が形成された。


「まずい……っ!」


何度も襲いくる鉤爪や尻尾、そして炎を必死で避けながら、レオンはこれまでにない強敵に冷や汗をかき始めていた。

本能的に悟っていたのかもしれない。――勝てないと。


大きく振り回された尻尾がレオンを直撃した。レオンは吹き飛ばされ、強く地面に叩きつけられた。口から全てを吐き出しそうになり、頭から何か熱い液体が伝っていく感触がする。

始めは汗かと思ったが、焼きごてを押しつけられているような痛みが、流れているものの正体が汗でないことを悟らせる。


「何でだよ……っ……! 死んでたまるかよ……っ!! まだ何にも成し遂げてちゃいないのに……くそっ……」


レオンの意識は次第に朦朧としていった。頭が何度命令しても体が言うことを聞かない。こんな状況だというのに、身体は休息と手当てを欲して釘付けになる。


「ちくしょう…っ…」




 






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