(1)
優しい草の匂い。
君と草原で待ち合わせをした。
「君と居たいから。
俺は君が好きだ。」
青空を見上げて、俺は約束する。
「……うん。」
君の髪がなびく。
答えは、風にかき消されてしまったけれど、
もう分かってる。
「俺のそばに居てくれないか?」
そっと抱き寄せると、
君は俺の背中に腕を回して、
胸元に顔を埋めた。
『まどろみの中、君を見つめる
君は無防備で、幸せそうに眠ったまま
君の夢に、俺は居るのかな
楽しい夢を見れているのかな
頭を撫でて俺は行く
明日のために
君と居るために』
歌い終わると、歓声が巻き起こる。
俺はそれを機に楽屋へ向かう。
「お疲れさん、シン。」
「おぅ。」
マネージャーからタオルを受け取って汗を拭く。
「次は北海洞だぞ。」
「今の時期、寒すぎじゃん。」
「ファンが居るんだから行くのは当然だろう?」
「……ま、行くけどね。
あ、とりあえずアイツに電話していい?」
「ちょっと待て。今は関係者も外に居るし、
車の中で頼む。」
「はいはい。」
少し俺は不機嫌に車へ向かう。
「あっ!シンさん、サインくださいっ!」
「いいですよ。でも、ここは関係者以外
立ち入り禁止ですからね?」
俺は色紙にサインをして、
ファンの子を通用口から外へ誘導し、
車に乗り込む。
「……マネージャー。今日の警備って、どこ?」
「ARSOだな。北海洞でも警備予定だぞ。」
「じゃあ、もっとちゃんと警備するように言っといて。
さっきファンの子が混じってたから。」
「分かった、すまんな。」
「ん。じゃ、ちょっと電話する。」
呼び出し音の後、寝ぼけた声でアイツが答える。
「ぅう?シン、おはよ~。」
「ガク。また、寝てたのか。」
「うぇっ!?な、何のことかな……。」
「後でシメる。」
「ご、ごめんなさい……。」
「って、この話じゃなかった。
ガク、俺これから北海洞行くから。留守番よろしく。」
「あ~、うん。……ん?北海洞?」
「うん。北海洞。」
「北海洞って何処だっけ?」
「北の海に浮かぶアレだ。」
「あぁ。って、今日帰って来ないじゃん!」
「そうなるな。」
「……なら、連れてってくれるとかは?」
「却下。今起きたような人はダメです。」
「うぅ……寂しくて自殺してもいいのっ!?」
「そう言える人は自殺しないよね。」
「そうだね。」
しばし沈黙。
「……やだぁぁぁっ!!」
「ヤダとか言うなっ!!」
「シンの意地悪……。」
ガクの声がちょっと涙声になってきた。
「まぁ、何か買ってきてやるから。」
「……ほんとに?」
「あぁ。」
「じゃあ、冬野恋愛ドリンク。」
「まぁた甘いのを。」
「いいじゃん、好きなんだし。」
「はいよ。じゃあな。」
電話が終わる頃には鳴多空港へ着き、
マネージャーは搭乗手続きに向かう。
俺はそれまで買い物。
空港の土産物屋で、ガクが好きそうな甘い物を
宅急便で送る手配をしておく。
「シン、終わったぞ。」
「あ、分かった。」
俺はマネージャーに促されるまま、
搭乗ゲートへ向かう。ファンへのサービスも忘れずに。
「シンさん、こっち向いてください!」
「あぁ、はい。」
フラッシュを背に浴び飛行機に搭乗すると、
中ではフライトアテンダントさんの説明が始まる。
「AAA航空をご利用いただき、
ありがとうございます。本機は鳴田-佐津幌便です。
佐津幌には、10:30頃到着予定です。
どなた様も、ごゆるりとフライトをお楽しみくださいませ。」




