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5話【この手に握ろう、白米を】

「どうぞ、ここを自由に使ってください」


 リムリアさんに案内されたのは、総督府にある調理場だった。


「料理に必要なものは一通り揃っていると思いますが、他に必要なものがあれば市場で購入してもらってかまいませんよ」

「おう! 出来上がったら俺にも食わせろよ。約束だからな」


 ゲンジさんは故郷の日本食が余程懐かしいようで、そんなことを言い残していく。




 ――リムリアさんが悩んでいる事案というのは、たしかにそれほど物騒なことではなかった。


 アテナ連合国では、耕作地で小麦を育てるのが主流らしい。

 冷たくて乾燥している気候が小麦の生育に適しているそうで、収穫前は地平線まで届くほどの土地が全て黄金色の小麦畑へと姿を変え、ちょっとした観光名所にもなっているのだとか。


 しかし、今年はそんな小麦が例年と比べて不作だったという。

 国民が飢えに苦しむほどの凶作とまではいかないが、小麦の価格が通常よりも高くなるのは避けようがなく、ファルファトリアとの国境にある砦へ物資を供給しなければならないリムリアさんにとっては、頭の痛い出来事だそうだ。

 砦に常駐している兵士を飢えさせるわけにはいかないし、今のままではどうしても支出が大きくなってしまう。


 ちなみに、小麦からはパンや麺類など色々なものを作れるが、この国では概ねパンが主食とのことだ。

 リムリアさんは『パンがなければお菓子を食べればいいじゃない』などという発言をする人物ではないため、主食となるパンの代わりになりそうなものを探していたらしい。


「それで、これってわけか」


 おれは、調理場の台に置かれている袋の中身を覗き、白い粒がぎっしりと詰まっていることを確認した。

 紛れもなく、それはおれがよく知っている主食――米だった。


 レイトルテの最寄りにある港では、別大陸からも物資を輸入していたりする。

 異国の商人によれば、小麦を大量に輸出するのは難しいが、米ならば安く輸出することが可能とのことで、リムリアさんは試験的に少量の米を購入したらしい。


 ――が、この国では普段からパンを主食としているため、米の調理法に精通している者がおらず、主食とするには満足のいく結果が得られていないのだとか。


「よかった。この世界にも、米はちゃんと存在してるんだな」


 米食とパン食――どちらだと聞かれれば、迷うことなく米を選ぶおれにとっては吉報だ。

 しかし……こちらの大陸では稲作をしていないのだろうか?

 調理法すら普及していないなんて、いくらなんでも米の知名度が低すぎる。


「……あれ? そういえば、イルルはおれが白米を炊いたとき、米のことを知ってたよな」


 傍にいるイルルへ、そんなことを聞いてみた。

 羽ブタのトンカツを作ったとき、彼女にはメタルアントの殻で炊いた白米を一緒に食べてもらったのだ。

 そのとき、それが米であることは知っているようだった。


「ああ。ここと別の大陸をふらふらしていたときに、稀人が育てた珍しい食べ物という言葉に興味をそそられ、食べたことがあったからな。まあ、ジンが食べさせてくれたもののほうが、ずいぶんとうまかった気もするが」


 米が……稀人の食べ物?

 もとの世界においては、米は日本だけでなく、東南アジアや世界各地で広く食べられているものだが……ひょっとして、米食の文化圏の人が異世界に飛ばされて稲作を始めたとか?


「それって、いつぐらいの話?」

「つい最近だ。たしか……何十年か前だったな」

「まあまあ昔の話じゃないかよ!」

「……そうか?」


 くぅっ……思わずツッコんでしまったが、何千年も生きていると時間の感覚が鈍ってしまうものなのかもしれない。


「だからこそ、リムリアは米の調理をジンに任せてみようと考えたのだろう。稀人が育てた食材を、稀人が調理する……至極わかりやすいではないか」


 うーむ。稲作を始めたのが稀人なのはいいとして、何十年かそこらでは、まだまだ米食の歴史としては浅いと考えるべきだろう。もとの世界では、米食の歴史はイルルの生きてきた時間ぐらいあるはずだからな。

 米の知名度が低いのも、わかる気がする。


 安く輸出できるということは、その別大陸においても、まだまだ小麦の需要のほうが高いのだろう。

 きっと、米の魅力というものに気づいていないのだ。

 それならおれは、ぜひとも米食の普及に貢献させていただこうと思う。




 ――さて、まずは調理場にある調理器具や調味料を確認しておくことにしよう。


 銅鍋や鉄鍋、包丁が綺麗に整頓されて壁にかかっているのを目に留め、おれは愛でるようにそれらを眺めた。

 ほう……金属鍋の輝きというものは、なぜにこれほど美しいのか。汚れを知らない純真無垢な表面をそっと指でなぞると、芸術的なまでの曲線に魅了されてしまいそうになる。

 しかし、長年使い込まれて黒ずんだ鍋とてまた美しい。まるで歴戦の勇士かのごとき貫禄に満ちた姿は、鋳造されたばかりの新顔にはけっして出せない深みのあるものだ。


 そして、分厚い肉でも難なく切り落とせそうな鋭利な輝きを放つ包丁たち。

 刃先をジィッと凝視しても、わずかな刃こぼれさえ見つからない。

 きっと、この調理場を預かっている人が丁寧に研いでいるおかげだろう。

 ああ、見るもの全てが美しい。


「ジン……どうかしたのか?」

「はぅっ……あ、いや、さすがに調理器具が充実してるな~と思って」


 いかんいかん。おれはキッチン用品や調味料の専門店にいけば、丸一日時間を潰せてしまう男なのだ。

 イルルに声をかけてもらわなければ、きっと小一時間は動けなくなっていたことだろう。

 ふむ……ピンク色の綺麗な岩塩粒や各種香草を粉末にしたものなど、調味料の種類も多い。


「あれ……これは?」


 見慣れた四角い箱のようなものが置かれているのに気づき、おれはそっと開閉部分に手をかけた。

 すると、箱の中から冷んやりとした風が流れ出てくるではないか。


「これ……冷蔵庫じゃないか!?」

「――すごいでしょう。それも魔導機関が実用化されたことで作られたものです。なんでも、ゲンジさんが暮らしていた国には、このような便利なものが普及していたのだとか」


 こちらへ歩いてきた男性が、冷蔵庫についてそんな説明をしてくれた。

 貫禄のあるヒゲに、フォークとナイフが交差した洒落たエプロンが絶妙に似合っている。

 外見はやや強面なのだが、柔和そうな声を聞くとギャップで余計に優しそうな人だという印象を受けた。


「はじめまして。私はここで料理人をしているバルドと申します。リムリア様は仕事もあるので一旦戻るとのことですが、何か困ったことがあれば手伝うようにと仰せつかりました」

「こちらこそ、今日はよろしくお願いします。調理場を貸していただき、ありがとうございます」


 紳士的なバルドさんと握手を交わし、おれは改めて冷蔵庫の中身を覗いてみた。

 電気ではなく、魔力を原動力としている冷蔵庫には、肉や魚、バターや生クリーム、チーズなどがどっさりと詰め込まれている。

 見ているだけでも楽しく、扉を閉めるのが勿体ないと感じるほどだ。


 ――さてさて、調理場を一通り見学させてもらってから、おれは何を作るかを考え始めた。

 米料理といっても、種類は色々あるのだ。


 だが、あまり難しいものを作るつもりはない。

 砦に詰めている兵士が食べることを想定するならば、ゆっくりと優雅に食事をするのではなく、手軽に食べることができ、持ち運びも可能で、夜に見張りをする兵士の方々に作り置きできるものが望ましいだろう。

 なら……アレしかあるまい。


「バルドさん、ちょっと買い出しに行ってきます」

「わかりました。でしたらこちらをお持ちください。リムリア様から渡すようにと」


 バルドさんから手渡されたのは、総督府が発行している証明書のようなものだった。


「それがあれば、市場で買い物をするときにお金を支払う必要はありません。後で総督府にまとめて請求されるようになっています」


 なるほど。これはとても良いものだ。

 余計なものを買うつもりはないが、ついつい衝動買いしないように気をつけないと。

 よーし。気を引き締めて、いざレイトルテの市場へレッツラゴーである。



◇◇◇◆◆◆◇◇◇



「――おおおぉぉぉ! これはまさしく醤油! それに味噌まで! おじさん、それとあれとこれと、おまけにそいつもちょうだいな」

「あいよ! 好きなだけ買っていってくんな!」


 レイトルテの街にある市場は活気に満ちており、交易が盛んなためか、その品揃えも非常に豊富だった。

 おれのリュックにも醤油や味噌が入っているが、もし米を大量に仕入れて兵士の食糧とするのなら、こちらの世界にある材料で料理を作らなければ意味がない。


 それに、しばらくこの街に滞在して店を出すのなら、リュックに入っている調味料はすぐに使い切ってしまうだろう。醤油や味噌などの馴染みのある品が売られているのを見て、興奮してしまうのも仕方ないというものだ。


「ジン……なんだか少し、性格が変わって見えるぞ」

「そう? おれはいつも買い物するときはこれぐらいのテンションなんだけど。あ! あそこの乾物屋に売られてるのって、ひょっとしてカツオ節じゃないか!? うおぉぉぉ! 海苔まであるじゃないか!」


 ちょっぴりだけ普段より興奮しているおれは、料理に使う材料を色々と買い漁り、ほくほくと満足顔で総督府へと戻ってきた。


 しかし……なぜ醤油や味噌まで売られているのだろう? 

 これらは、大豆や麦といった穀物を発酵させて出来上がるものだが、もしかすると……過去にそういった醸造技術を持った人がこちらの世界に迷い込んだのかもしれないな。

 いや、なんでもかんでも稀人が技術を持ち込んだと考えるのは、この世界の職人の方々に失礼だろうか。


 それと、魔力による言葉の自動翻訳が相当便利なものだということを改めて思い知った。

 このカツオ節としか思えないものは、おそらく原料の魚はカツオではない。

 だが、見た目は限りなくカツオ節に似た何かである。

 おれがそう認識すると、あら不思議。

 もうその物体は、カツオ節という単語で店の人にも通じてしまうのだ。

 魔力による自動翻訳、恐るべしである。


「――よし、と。まずは白米を炊くところから始めるか」


 調理場に買ってきたものを広げ、さっそく調理開始である。

 袋に入っている白米を少量手に取り、しげしげと見つめてみると、精米技術がやや未熟なためか、ところどころ茶色がかったものが混じっていた。

 収穫した米から籾殻を取り去ったものが玄米だが、この玄米からさらに糠を除去したものが白米である。

 茶色の粒は、糠が残っているのだろう。

 せっかくなのでおいしく食べてもらえるよう、白く綺麗な粒を選んでボウルに入れた。


 玄米は栄養豊富かもしれないが、そのまま炊いてしまうと少々食べづらい。

 どうせなら、魔導機関を組み込んだ精米機をゲンジさんに作ってもらえないかな。

 玄米のまま輸入すれば、かなり日持ちも良くなるだろうし。


 おれはそんなことを考えながら、丁寧に白米を研いでしばし水に浸けておいた。

 浸水させてやることで、炊いたときに中心までふっくらと火が通る。

 できれば土鍋が欲しかったが、今日のところは調理場にある鍋で炊くとしよう。

 いやいや、普通の鍋でも意外とおいしく炊けるものなのだ。

 市場には陶器などを売っている店もあったので、特注すれば土鍋なんかも作ってくれるかもしれない。また今度聞いてみるとしよう。


「ふむ。この前は気づかなかったが、ジンはずいぶんと楽しそうに料理をするのだな」

「そりゃあ、これを食べた人が喜ぶ姿を想像しながら作ってるからじゃないかな」

「わしか?」

「いや、今回はイルルじゃないけど」

「そっ……れも、そうだな。うむ」


 明らかに動揺の色を見せた彼女の姿を見て、おれは慌てて言葉を付け加える。


「あっ……いや、味見ということで食べるのはいいと思うよ。リムリアさんに食べてもらう前に、意見とか聞きたいし」

「ああ。任せるがいい」

「あの、よければ私にも……」


 おっと、バルドさん。あなたもですか。

 やだ、ちょっと多めに作らなきゃ無くなっちゃうかもしれない。


 さてさて――米を浸水させている間に、具を作り始めよう。


 カツオ節を薄く削り、こんもりと羽毛のような山が出来上がったら、それを鍋に投入。

 醤油と砂糖を一緒に加え、強火にかけて手早く混ぜれば、飴色おかかの完成である。

 カツオ節からしみ出る魚介の旨味が、醤油と砂糖のあまじょっぱさと合わされば敵はなし。

 ご飯との相性も抜群である。


「どれ」


 すぅっ、と自然に手を伸ばしてきたイルルの腕をがしりと掴んでおかかをガード。


「いや、まだ食べちゃダメだから」


 味見するのは、完成してからにしてほしい。

 次に用意するのは、ツナマヨである。

 ツナは、マグロやカツオといった赤身の魚を油漬けにした缶詰というイメージが強いが、レイトルテは港が近いためか、新鮮な魚も売られていた。


 市場で買った綺麗な赤身を取り出し、それをカツオ節でとった出汁のなかで泳がせてやりながら、小さくほぐしていく。塩を少々、それにちょっとだけ醤油を加え、水分がなくなれば食べ頃だ。


「おっと、そろそろ米を炊いておくか」


 米粒が十分に水を吸った頃合いで、鍋へと移動させて水を適量まで加える。

 どうやらコンロにも魔導機関が使われているようで、火力調節まで可能になっているようだ。

 さすがは総督府。

 設備も最新のものが揃っているのだろう。


 しっかりと蓋を閉め、最初はやや強めの火で沸騰させてやり、ちょっと待ってから弱火で10分、火を消してから蒸らしに10分で完成である。

 土鍋なら保温性が高いため、沸騰したら火を消して20~30分蒸らせばふっくら炊き上がる。


 鍋を火にかけたら、ツナマヨの続きといこう。

 ツナは出来ているので、次はマヨネーズを手作りしようと思う。

 基本的な材料は卵黄に酢、そして油だ。

 米酢はないので、代わりに調理場にあったワインビネガーを使うことにした。

 卵黄にワインビネガー、塩、胡椒を加え、泡立て器を使ってよぉ~く撹拌させる。

 ここで撹拌が不十分だと、最後に油と混ぜるときに分離してしまうのだ。


「ふぅ……これ、なかなか……しんどい、な」


 情けないことに、普段マヨネーズを手作りするときは、電動ハンドミキサー様のお世話になっていたので、人力で混ぜるのがこれほど大変だとは思わなかった。

 ここからさらに油を少量ずつ加えながら混ぜていくかと思うと、ちょっと腕が悲鳴を上げそうである。


「疲れたのならわしも手伝うぞ。飛び散らさないように混ぜればいいのだろう?」


 イルルが泡立て器を手に取って、得意げに頷いた。

 ちょっと不安な気もしたが、おれが油をちょっとずつ入れていくと、その度に泡立て器が電動にも負けないほどの速度でブィィィン、と回転したではないか。


 え、なにこれ。

 泡立て器って、手動でこんなに速く動かせるものだっけ?

 ……まあいいや。食欲をそそる卵黄色のマヨネーズがあっという間に完成したのだから、素直に喜ぶことにしよう。

 さっそくツナとマヨネーズを混ぜ混ぜし、手作りツナマヨの完成だ。

 ご飯にも合うが、こいつは柔らかなパンとも良い仕事をする万能選手である。


「お、そろそろ弱火にしとくか」


 炊飯鍋の蓋からシュンシュンと蒸気が吹き出し始めたので、弱火にしておいた。


 ツナを作るときに赤身魚をほぐしたわけだが、サーモンピンクといった色合いなのに不思議と白身魚に分類される魚――鮭にそっくりな切り身も売っていたので、実は一緒に買ってきてある。

 こいつはシンプルに焼くだけでいいと思うが、味噌をほんの薄っすらと表面になじませてから、炙り焼きにしておこう。


「あとは……これをどうするかだな」


 ピンポン玉ぐらいの大きさの赤い実が瓶詰めにされたものを、袋から取り出す。

 蓋を開けるとツンと鼻につく匂いが漏れてきたが、どことなく懐かしく感じられる香りだ。

 梅干し……によく似ているが、名前はシビビの実というらしく、市場で味見をしてから購入させてもらった。


 シビビの実が、おれのなかで『梅干し』と自動翻訳されないのは、こいつが梅干し以上に酸っぱいからだろう。料理に酸味を加えたいときなんかに、ちょっぴりだけ使用するものだと店の人に教えてもらった。

 これを一粒丸々使えば、リムリアさんが試食した瞬間におれは投獄されるかもしれない。


「邪道かもしれないけど……これと合わせてみるか」


 シビビの実から種を除き、実の部分に蜂蜜をたらりと加えて味見してみる。

 うん……なかなかいい塩梅だ。

 これならば、もう梅干しと言っても差し支えない。初めて食べる人も驚きはしないだろう。


 ――おかか、ツナマヨ、鮭、梅干し。


 これらと白米を合わせた料理といえば、もう何を作るつもりかわかろうというものだ。

 そう―― 『おにぎり』である。


 手軽に食べることができ、持ち運びも可能で、夜通し見張りをする兵士に作り置くこともできる、単純ながらも日本を代表する米料理。

 しかも、おにぎりの便利な点は、自分の好きな具が入っているものを選んで食べることができるところだ。

 パンが主食のアテナ連合国では、パンに色んな具をはさんだサンドイッチを食べることが多いという。それに代わるものとしては、まさに打ってつけといえるだろう。


「よし、そろそろだな」


 鍋の火を止め――蒸らしが終わってから蓋を開けると、炊きたてご飯の良い香りが白い湯気とともに吹き出した。

 熱々のご飯を食器に移して粗熱を少し取ってから、おにぎりを握っていくことにする。

 冷水に手を浸してから、ほんのちょっとの塩を手に揉み込んでやった。

 ぎゅっと強く力を込めないように気をつけ、ふんわりと空気を含むようにイメージしながら優しく握っていく。

 くぼみを作り、用意した具をたっぷりと包み込んでやることも忘れない。

 最後に海苔を火で軽く炙り、パリッとさせてから包んであげれば完成だ。


 おにぎりのラインナップとしては、塩むすび、おかか、ツナマヨ、鮭、梅干しの五つである。

 ツナマヨは純和風とはいえないが、海外で人気のあるおにぎりの具として、上位にランクインしていると聞いたことがあるので、今回採用した次第である。


 炊いたご飯を全ておにぎりにすると、おれとイルル、そしてバルドさんが味見をしても十分すぎる量があった。


「どうぞ、食べてみてください」


 イルルやバルドさんと一緒に、できたてホヤホヤのおにぎりを味見することに。

 うん。ご飯はふっくらと芯まで炊けているし、具のほうは馴染みのあるものばかりだが、なかなか上手くできているんじゃないだろうか。

 めちゃくちゃうまい! というよりも、なんだか心がほっとするようなおいしさである。


「お恥ずかしながら、米を炊く方法は異国の商人から教わったのですが、なかなか上手くいかずに困っていたのです。上手に炊けば、このようにもっちりとした食感になるのですね。ふぅむ……炙った海苔の風味が、またなんとも食欲をそそる」


 バルドさんはゆっくりと味わいながら、おかか、そしてツナマヨへと手を伸ばした。


「カツオ節と醤油の組み合わせがなんとも美味ですな。ああ……なるほど。このようにすれば色々な具を楽しめるというわけですね。やはり、稀人の方からは色々と学ぶべきものが多い」


 いやぁ、そこまで褒められるとなんだか照れてしまう。

 そういえばイルルはやけに静かだけど――……なっ……もう完食している、だと!?


「ジン。どれもおいしかったが、わしはツナマヨとやらが一番気に入ったぞ。あの卵黄から作った濃厚なソースは、そのまま飲んでもいいぐらいだ」

「マヨネーズは飲み物じゃありません!」


 こんなツッコミをすることになるとは思わなかったが、やはりツナマヨが人気のようだ。

 バルドさんも、マヨネーズの作り方をもう一度じっくり教えてほしいと言っていた。


 味見をしてもらった感触としては、おにぎりを作って成功だった気がする。

 ゲンジさんは懐かしの日本食を喜んでくれるだろうが、リムリアさんは果たしてどんな評価を下すだろう。

 ……ちょっと緊張してきたぞ。



 ちなみに、梅干しおにぎりを食べたバルドさんの顔が、独特のすぼむような顔になっていたのは報告しておきたい。

時々、おにぎりをムシャムシャしてやりたくなることがある。

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