プロローグ
東京は火の海。空は黒煙に覆われまだ日中のはずだが太陽は見えず夜中のように暗い。
巨大生物が東京を蹂躙している。全高約50m。全長は長い尾を入れて約100m。外見は爬虫類のようでもあり猿のようでもある。高層ビル群をなぎ倒しながら都内を進んでいく。巨大生物が歩を進めるたびにズン、ズン、という地響きが起きた。巨大生物の背中には岩のような背ビレがあり、その背ビレがチェレンコフ光のような青白い光を発する。次の瞬間、巨大生物は口から同色の熱線を吐いた。熱線はあらゆる物を融解させ蒸発させた。東京は焦土と化した。火の中を巨大生物が悠然と歩いていく。
当時の自衛隊の火力はまったく通用しなかった。巨大生物に傷をつけるどころかその進行を遅らせることすらできなかった。
東京上空に甲高い音が鳴った。何かが落ちてくる。刹那、東京は白い閃光に包まれる。爆風がすべてを焼き払い、キノコ雲が上がった。
最終的には日本政府が秘密裡に開発していた小型核爆弾を東京に落とした。まだ避難途中の国民が無数にいたにもかかわらず。憲法で戦力放棄を謳い、先の大戦で原爆を落とされた国が、自分の頭の上に自ら核爆弾を落としたのだ。
爆音のせいでいつまでも地面が揺れていた。次に不穏な静寂が訪れた。すべてが消滅したあとの死の静寂だ。
ズン……ズン……。
静寂の先、遠くのほうからかすかに地響きが聞こえる。
ズン……ズン……。
その地響きがどんどん大きくなる。なにかがやってくる。
舞い上がった砂塵の中、巨大な影が浮かび上がった。何事もなかったかのように巨大生物が立っていた。
死者行方不明者10万5000人以上。罹災者は100万人を超えた。のちの人々はあの巨大生物のことを「怪獣」と呼んだ。