禍魂君―ずっと待ってる貴方の為に―
あんたは死後の世界を信じるか?
まあ信じてる奴なんていないだろうな。
俺もそうだった。
そりゃそうだ死ななきゃ死後の世界が分かるはずがないんだ。
知ってるか、神様ってのもいるんだぜ?
まあ知ったこっちゃ無いさ、精々地獄にでも叩き落してもらって地獄巡りでもやってくるさ、八大地獄とかなんとかで200ちょいだっけ?
わからないけどさ、喧嘩上等だ。
出来るかどうかじゃねえんだ、勝手にされるなら勝手にするまでってな。誰が言ったか知らないが無理を通せば道理ってのは引っ込むらしい。無法も一念をもってすりゃ天を貫くんだとかなんだとか。
「人の話聞いてますか?」
うるせえなぁ聞いてねえよ。
「聞いてねえよじゃありませんよ」
うぜー、本当にうぜー、心まで読んでたり、お前らの悪行の方がよっぽどなんじゃねえか、日本なら十二分にプライバシーとやらの侵害だろう。
「はぁ、あのですね、貴方が死んだのは業と呼ばれるものを溜め過ぎて魂に付加が掛かったからなんですよ、だから今の貴方は喋れませんからこうして心を読んでいるのです」
そーいや、そんな事を言ってたような気もしなくもない。
「だーかーらー話はきちんと聞いて下さいよー」
そんなにカリカリしてっと綺麗な顔が台無しだし、皺になったらどうするんだつーの、牛乳飲めよ、そうしたらスタイルも良くなるぞ。
「き、綺麗までは許しますが後半は許しませんよ!?」
あー女って面倒くせーなーもう。
「め、面倒ってこっちが面倒なんですよ!」
わかったわかった、でなんだよ、さっさと地獄巡りのフルコースでもなんでもしやがれっての。
「ですからですね、貴方には転生するチャンスが与えられているのです」
あれか、最初にあった瞬間に俺が思ったこれって異世界とかなんとかって幼馴染がいってたって勘違いしてた恥ずかしい過去を掘り返そうってのか、ああん、ヤンノカゴラァ。
「一応、これでも神様の一人なんですが、どうしてそう喧嘩腰というか喧嘩を売られた事前提で話すんでしょうねえ、まあ事情も分かりなくもないですが」
ああん、てめぇ何人の事情が全て分かってますよみたいな哀れみの顔でみてやがんだぁ。
「はぁ、もうわかりました、では用件のみをお伝えしますね」
おう、さっさと血の池でも針の山でもつれていけや。針山からバンジージャンプしてやるぜ。
「貴方が生前で行った数度の善行の結果、転生という処置になりますが、魂が非常に危険な状態です。よってこれから貴方は転生までその魂を浄化し力をつけて下さい、尚、期限等はありません。それと」
なげーなおい。
「重要な事だけは伝えないと一生そのままですよ?」
クソ、なんでこんな事に……
「貴方が助けた妊婦さんやお婆さん、それに貴方の為に泣いてくれる幼馴染のお陰と言えば分かりませんか」
な、殴りてぇ。神様お願い殴らせて!
「あ、あぶないですね、なんで説明もしてないのに魂術で攻撃できるんですかねえ」
あーん、なんかしらないけどムシャクシャしてやった反省も後悔もしてない。
「…………捨て猫見捨てられない不良の癖に」
テメエ……ホントーに死にたいのかよ。
「冗談ですよ、……………………………」
ブットバーッス。
「魂の状態を良くするには何よりも善行ですよー」
そうして一発だけ攻撃が出来た俺は良く分からない世界へと飛ばされた。
こりゃいくら自業自得と言われても面倒でしかないぜ。
まあこの体と言っていいのかどうか分からない状態(幽霊)で人助けってどうしろってーの。一発殴ったぐらいで飛ばしやがって、そもそも俺の心の傷を抉るあいつが悪いのに神様だってだけで何しても許されるとか思ってんなら次にあったときに覚えてろよ!?
どこのクリスマスの幽霊だよ俺は……そんな話をガキの頃に聞いた。
でもな、そんな都合のいい事なんて無かったぜ、精々自分を守る為に暴力を振るうぐらいしか無かったさ。
そんな俺に人助けしろってのだけでも大概なのに、異世界でやれって転生させる気もない唯の厄介払いだろうが。
あれか地獄も何年もやってて汚職したやつらとかなんかでもう満員御礼か、そうなんだろう、やってられねえ、殴り合いでも楽しめると思ったのによぉ。
そもそもだ、さっきから頭の中でボソボソと言ってやがるのはどこのどいつだ!?
「き、聞く気になりました?」
「仕方ねえな、お?声が出るな」
話が違うって感じじゃねえな、なんだこれ。
「ええ、声では無いのですが、これは念を送って会話してるのです。魂術の扱いが上手なのです」
「ほー俺にそんな才能が」
「魂の術だけあって強い精神力と欲求が大事なのです」
「褒められてないよなそれ」
「いえいえ、この世界に来てすぐにお話が念で出きるなんて普通は一方通行だったり、ジェスチャーだったりするのですよ?」
「そうか、じゃあまあいいんだが、お前ももしかして」
「一応この世界の神様やってます、スフィーナと申します、禍魂様のお世話をさせて頂きます」
「なんつーか次は腰の低い女神様だなあ。調子が狂うっていうかなんていうか」
「ア、アハハハ自慢じゃ在りませんがまあ神様にも色々いますから」
「そうか? ならいいんだけどよ、それはそうとその禍魂様ってのは何だ」
「説明は受けられましたよね」
「おう、まあ軽く?」
「どうして疑問系なのかで全てが分かった気も致しますが、まあこの世界では貴方がお客様ですから」
「でも納得いかねえなぁ、わりーけど俺は好きな事やってきたし喧嘩ばっかりで学ってのも大した事はないし、自慢じゃないが人様から様をつけて呼ばれるもんじゃねえんだ」
「そうですか? 普通に考えてこのような処置をうけるなんて相応の事がないと考えられないのですが」
「本人が言ってるんだしさ、できればその様ってのも丁寧な喋りも簡便してくれないか」
「喋り方はその、これが素ですので改良のしようがありませんが、様はやめましょうか」
「そうだな、できれば、あれ名前があれ?」
「それは転生の第一段階の処理ですね、本来の名前は発せません、そうして徐々に慣らしていくのですよ」
「そうか、まあしょうがないな」
「はい、では禍魂君。いきましょう」
「ちょーっとまてい、なんだと」
「いきましょうと」
「いやその前に君って言ったよな」
「はい、様が無ければ呼び捨てというわけにも参りませんしね、親しみを込めてみたのですが、チャンの方がお好みですか?」
「おい、この外見でチャンは犯罪だろう」
「意外とかわいいので受けると思いますが」
「神様の感覚はわからねーが万が一誰かに知られたりすれば俺は憤死すると思う、死んでるけど」
「そうですか、では君で」
「他に呼び方ないか、いっそ”なあ”とか”おい”とか”おまえ”とかでもいいからさ」
「ではアナタで宜しいですね」
「ん……、いや待て変だよな、アナタって普通に考えてみろ」
「本当ならアナタ様となるところをアナタと呼び捨てに」
「いやいやいや、そーじゃないだろう」
結局の所納得させる事ができず俺の呼び名は禍魂君になった。どこぞの獣でも従えてる神様とか幕府を開いた人とかのパチモンのような呼び名だがしょーがないよな。
で、人助けっていうからやってきたんだが。まあ異世界っていってたしな、ありえるかもと思ったけど、文明のレベルは低くは無いが魔物がいて人が襲われるなんてしょっちゅうな訳だ。
それを俺が退治するって寸法だ。至ってシンプル。よかったよ金を稼いだりも出来ないしさ。何より頭を使わないってのは楽だ。
いや何時も暴力だけの解決じゃなかったぜ。勿論俺の知恵じゃねえけど。
助けた事が切欠で仲間ってわけじゃないけど精霊とも知り合いになったしな。
まあ脳内の女神様とかもアドバイスくれるし一人じゃないお陰だな。
すっげー時間が掛かった。
本当にこの魂の修復ってのは魔力を吸い上げてるんだって。
倒したり感謝の心が力になってるらしい。
詳しい事は判らないが俺の魂を癒すのには最高のモノってのがその二つ。
1000年も頑張った。
まあ死ぬ前だと時間的にも考えられないけど、こんなに頑張ろうなんて思ってなかった。
まあ脳内の神様とか精霊とかその他諸々のお陰だ。
なんだか眠いな、うん。
「ちょっくら寝てくるさ……なんだよ、何か喋れっての」
「もう生まれ変わる準備ができたんだ」
「そうか、長い間悪かったな付き合わせてよ、ありがとう」
「いい、私も楽しかったし」
「一人にしちまうのか?」
「もともと、一人だったもん」
「そう、だよな、頑張れよ」
「うん」
意識が消え行く中俺は思った。ふざけんなこんちくしょうって。
何が神様だ、何が道理だ、何が決まりだよ。ふざけんなよ、神様だって悲しむだろうが、あいつ泣いちまったじゃねえか!
キャンセルだよ!
こんな転生ならいらねえよ!
「仕方がないですねー、では宜しく」
はぁ?
「また、恐ろしい程の魂術の発動なんてするからですよ? また魂に不可が掛かりましたからね。こちらの説明不足も含めてもう一度あの世界へ行ってください。但し今度は永久にとなりますがね」
チッ本当ならブッ飛ばす誓いがあったけどチャラにしてやる、ありがとう。
「よう」
「え?」
「ただいま」
「……」
「驚いたか、俺も驚いた」
「な」
「何でかって、あっちに戻った瞬間に魂術で大暴れして戻ろうとしたら特例でここに永久就職だってよ」
「あ」
「あ?」
「逢いたかった」
「俺もだ、愛してる」
「私もよ、ずーとずぅーと昔から」
「思い出したさ、いい加減な」
「愛してるわ」