複雑な「構成」と「プロット」のこと
「プロット」の話をする前に、より重厚な味わいを持った小説をつくるための手段として、「テーマ」や【宿命】を複雑に組み合わせるための方法を、いくつか紹介しておきたいと思います。
なぜかといいますと、サンプルとして作った異世界パン屋の物語を見て、これが全てだと思って欲しくはないからです。異世界パン屋物語は、わかりやすさを重視するため、かなり単純なストーリー展開になっています。パン屋物語の「構成」を想像してみて、あるいは、この読み物で紹介した方法論をちょっと自分で試してみて、こうは思いませんでしたか。
「これは単純なストーリーになる」
もしそう思ったとしたら、あなたのその直感はまったくもって正しいです。
今まで紹介した方法は、まるで童話のような、まっすぐな一本道のストーリーの作り方です。まあ、確かに、ド直球な王道ストーリーというのは、それはそれで良いものです。ですが、それしか作れない、となるとちょっと面白くないですね。よって、さんざん先延ばしにしてきた、複雑な「構成」の作り方について、ここでご説明させていただきます。
ストーリーが単純で単調になる現象は、物語そのものと、そこに登場する「キャラクター」全員が、常に同じ目的のために一丸となって動くために起こります。前述のとおり、これを打破するには「テーマ」や【宿命】の存在を読者に推測されないように隠し通すか、それらを複雑に発展させるか、という2つの方法があります。
まず、物語の基本となる単純な「構成」について、今一度ご説明します。【テーマの提起】と【テーマの解決】の間に、キャラクター達の【宿命の提起】と【宿命の解決】を挟み込みます。
【プロローグ】
【テーマの提起】
【キャラクターAの宿命の提起】
【キャラクターAの宿命の解決】
【キャラクターBの宿命の提起】
【キャラクターBの宿命の解決】
【テーマの解決】
【エピローグ】
基本的に、ストーリーはこの順序で描かれます。
【プロローグ】と【エピローグ】の分量は、【テーマの提起】と【テーマの解決】の位置によって、限りなくゼロに近づくこともあります。冒頭にいきなり【テーマの提起】を持ってきたり、最後の最後にクライマックスシーンを持ってくるパターンです。
また、「キャラクター」の【宿命】にまつわるエピソードの位置は、必要なら動かすことも可能です。 どの「キャラクター」からスポットライトをあてていくか、という「キャラクター」間の順序もあります。
さらに、【テーマの提起】よりも前に【宿命の提起】と【宿命の解決】を移動させると、物語が進むにつれて冒頭で起こったできごとの真の意味が分かる、なんて展開にすることも可能です。
【テーマの解決】の後に【宿命の提起】と【宿命の解決】を移動させると、【エピローグ】で残された「キャラクター」達が過去を振り返ったり、あるいは、独立した外伝として主人公以外の「キャラクター」の視点で小説の世界のできごとを描くことができるかもしれません。
ある「キャラクター」の【宿命の提起】と【宿命の解決】の間に、【テーマの提起】や、別の「キャラクター」の【宿命の提起】を挟むのも面白いですね。その場合、Aはしばらく迷いを抱えたままになりそうですが。
しかし、【宿命】にしろ「テーマ」にしろ、先に「謎」を解決させてしまうのはいけません。仮に、事件が解決する場面から物語を始めるとしても、その時点では読者に「謎」を残しておいて、後で明らかにするようにしてください。
さて、これを発展させます。
複数の「謎」をつなぎ合わせて「テーマ」や【宿命】を発展させます。方法は2つ、「直列」と「並列」です。
「直列」とは、ひとつの【テーマの解決】が、別の【テーマの提起】となるようなつなぎ方です。わかりやすいように、【宿命】は省略すると、このようになります。
【テーマAの提起】
【テーマAが解決したことにより、テーマBが提起される】
【テーマBが解決したことにより、テーマCが提起される】
それぞれの「テーマ」について、主要「キャラクター」たちは【宿命】を設定され、解決に向けて努力することでしょう。作家の発想が続く限り、いくらでも「テーマ」をつなげることが可能です。ただし、つながっている箇所の順番を入れ替えるとおかしくなります。
「直列」で「テーマ」をつなぐ方法の具体例を挙げてみましょう。
【テーマAの提起】:最強の称号を得るにはどうすれば良いのか?
【テーマAの解決】:当代最強の剣豪、ユキムネを倒す。
という「テーマ」を設定し、主人公は死闘の末に、ユキムネを倒したとします。
その瞬間、
【テーマBの提起】:最強の称号を得たとして、それにいったい何の意味があるのか?
と、新たな「謎」が浮かび上がり第2章がスタートします。【宿命】でも全く同じことが可能です。
もうひとつの「並列」とは、2つ以上の独立した「テーマ」が、それぞれ独立した結末を迎える構成です。同一「キャラクター」に複数の「テーマ」に基づいた【宿命】を与えても良いですし、2人以上の主人公を対比させることもできます。図にするとこうなります。
【作品全体を包む共通のテーマの提起】
【テーマAの提起】【テーマBの提起】
【キャラクターAの宿命の提起】【キャラクターBの宿命の提起】
【キャラクターAの宿命の解決】【キャラクターBの宿命の結末】
【テーマAの解決】【テーマBの解決】
【作品全体を包む共通のテーマの解決】
こちらも、図だけではわかりにくいでしょうから、例を挙げます。
【作品全体のテーマの提起:片想いに意味はあるのか】
【実った片想いには意味はあるのか】【実らない片想いに意味はあるのか】
【「キャラクター」Aが片想いする】【「キャラクター」Bが片想いする】
【「キャラクター」Aの恋は実った】【「キャラクター」Bの恋は実らなかった】
【恋は実った、そして意味はあった】【恋は実らなかったが、意味はあった】
【作品全体のテーマの解決:実っても実らなくても、片想いには意味がある】
この例では、AとBが違う「テーマ」で似たような結論に達したわけですが、同じ「テーマ」を与えてそれぞれ別の結論にしてもいいですし、違う「テーマ」を与えて違う結論にしてもいいでしょう。ただし
作品全体の「テーマ」から逸脱しない範囲で、という条件付きです。
作品全体を包む共通の「テーマ」を設定しないのであれば、1本の小説にまとめる必要性は感じられません。2本の小説にしてしまった方がいいでしょう。逆に、作品全体を包む共通の「テーマ」の枠から出ないのであれば、主人公を何人増やしても作家の自由ですし、「謎」の解決を「謎」の提起より先にださない限り、読者に見せる順序は自由に変更できます。
さて、つぎはいよいよ「プロット」つくりです。なんのために「プロット」をつくるかというと、そのままにしておいてはバラバラな【宿命の解決】シーン同士をつなぐためです。
よって、まず、見せ場のシーンを「構成」で決めた順番で並べます。ここでもまた、異世界パン屋に登場していただきましょう。
【プロローグ】のシーン
【主人公の宿命と、テーマの提起】のシーン
【主人公の宿命の解決】のシーン
【ヒロインBの宿命の提起】のシーン
【ヒロインの宿命と、テーマの解決】のシーン
【エピローグ】のシーン
これらのシーンをすべてひとつなぎにするのではありません。「テーマ」や【宿命】の提起のシーンは、それまでの流れを無視する突拍子もない偶然の事件のこともあります。そんなものを無理につなげようとするとストーリーの流れに違和感が生じることも多いです。
つなげるべき個所は決まっています。繋ぐ必要があるのは、それぞれのキャラクターの【宿命の提起】から【宿命の解決】までのシーンです。読者を惹きつけておく「謎」をちゃんと用意しておけば、その前のシーンと時間や場所に連続性が無くても、多少であれば許されます。急な場面転換をしても大丈夫です。
プロットのつなぎ方は人によって様々です。本能のままに書き綴る、感覚派の作家さんも多いでしょう。ですが、ここでは理屈っぽいひと向けに、各シーンに短いキーワードでタイトルをつけて、それぞれの提起から解決までの間を連想してつなぐ方法をご紹介させていただきます。
さっきのパン屋の場合を見てみましょう。主人公の宿命の解決と、ヒロインの宿命の提起のシーンも考えてみました。
【プロローグ】:日常
【主人公の宿命の提起】:パン屋の異世界トリップ
【主人公の宿命の解決】:決意
【ヒロインの宿命の提起】:お手玉
【ヒロインの宿命の解決】:得心
【エピローグ】:後日譚
このような感じでしょうか。日常はどこまでいっても日常、後日譚はどこまでいっても後日譚です。
「決意」のシーンとは、店(パン屋)の奥で主人公がひとりでなにやら考え込んでいた後、何か覚悟を決めた顔で、「やるか」とつぶやくシーンが浮かんだので、それを採用したものです。
ヒロインの【宿命の提起】の「お手玉」は、なんとなく、「テーマ」である「英雄」と関係なさそうなキーワードを入れてみただけです。小さい妹を世話するときに、お手玉あそびなどをしていそうだったので。(おそらく、このシーンで「背景」の妹ネタを使ってしまうため、そこでヒロインの魅力が減ってしまうことでしょう)
ここでつなげるべきシーンは、
【パン屋の異世界トリップ】のシーンから
【決意】のシーンまで
【お手玉】のシーンから
【得心】のシーンまで
これらの2組です。
もちろん、フィーリングによってつなげることができれば、それに越したことはありませんが、それができなければ、連想ゲームのように繋ぐ方法もあります。
ひとつ、実際にやってみましょう。
【パン屋の異世界トリップ】から【決意】まで連想ゲーム
【パン屋の異世界トリップ】といったら『パン』
『パン』といったら『主食』
『主食』といったら『食卓』
『食卓』といったら『家庭』
『家庭』といったら『子供』
『子供』といったら『お菓子』
『お菓子』といったら『甘味』
『甘味』といったら『嗜好品』
『嗜好品』といったら『贅沢』
『贅沢』といったら『我慢』
『我慢』といったら『忍耐』
『忍耐』といったら【決意】
できました。これが「プロット」の原型です。
さらに、ここからこのキーワードの羅列に「謎」の要素を付加して、面白さを付け足します。【パン屋の異世界トリップ】と【決意】は、すでに対になって「謎」を形成していますので、問題は『』で囲まれた部分です。そのキーワードを使った疑問文を作ります。『』内の単語を使って、Q&A形式の文を考えます。
【宿命の提起】:パン屋の異世界トリップ
Q:異世界にも『パン』はあるのか?
A:大体同じものだが、材料は異世界原産、また酵母を活性化させるために魔法を使う。
Q:異世界の『主食』って何?
A:主人公が転生した地方では、パン食が基本です。
Q:異世界の『食卓』はどんな感じ?
A:The 質素。
Q:異世界の『家庭』ってどんなもの?
A:親戚同士が近所に住んでいて(同じ長屋に住んでいることも)、コミュニティを形成しています。
Q:異世界の『子供』たちの暮らしぶりってどんな感じ?
A:家の手伝いとか、妹弟の世話とか、バリバリ働いています。でも、遊んだりもします。
Q:異世界にも、『お菓子』はあるの?
A:あるけど、基本的に庶民の食べるものじゃないです。
Q:では、『甘味』は出回っていないのか?
A:そもそも、砂糖やそれに準ずる甘味料の安価な精製技術がありません。
よって必然的に、甘いもの、というとお菓子ではなく果物中心でしょう。
Q:もしかして、全体的に『嗜好品』はあまり流通していないのか?
A:「組合」と呼ばれる組織が、そういった品物の流通を独占的に取り仕切っています。
Q:じゃあ、もし『贅沢』品を手に入れたいときはどうするの?
A:「組合」が運営する市場で大金を払うしかないでしょうね。
Q:『我慢』するしかないのか?
A:そういうことです。
Q:そんなに『忍耐』力が続くものなの?
A:続けるしかないじゃないですか。
【宿命の解決】:「決意」のシーン
ほとんど、「異世界の『~』」で質問分が始まっています。これもまた、異世界ものというジャンルの大きな長所でしょう。また、Qの部分はなるべく直接描写しないほうが良いですね。この順番は、読者に見せる順番でないことにも注意してください。
まあ、ここまでいろいろ考えてきましたが、これはあくまでもただのサンプルですから、この異世界パン屋物語は実際には書きません。小説を書き上げるまでの様々なイベントを全て作るとなると、まだまだやらないといけないことがありそうですし。
まず、パンの作り方について、調べなくてはならないでしょう。主人公はプロのパン職人なわけですから、リアリティを出すためには、当然「家庭でできる簡単パンづくり」程度の知識ではなく、プロとしてのノウハウが要りそうです。自分で作れる範囲のパンなら、実際に作ってみる必要もあるでしょう。そして、それらの基礎知識をもとに、ファンタジー異世界にしかない材料をつかった「魔法のパン」の設定を考えて……などと、妄想がぐんぐん膨らみます。
そう、まるでパンのように。
ごめんなさい、調子に乗りました。「謎」と作家と小説のことに話を戻しましょう。
異世界パン屋の2人には向こうの世界で仲良く頑張ってもらうとして、私は手紙の続きを書きたいと思います。それが私という「キャラクター」の存在理由ですから。
……この手紙に書くことも、いよいよ残り少なくなりました。しかし、最後にもう少しだけ、伝えなければならないことがございます。