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「キャラクター」と「宿命」のこと

 小説の「キャラクター」には、「キャラクター」としての寿命があります。「キャラクター」の存在理由とでも申しましょうか。


 前話でもご説明いたしましたが、小説の【テーマの提起】において「~という問いかけを呼び起こす【何か】が起こる」シーンと、【テーマの解決】において「~という結論が示される」シーンとの間には、ギャップがあります。もし仮に、それが無い小説があるとすれば、【テーマの提示】をした瞬間が【テーマの解決】となっているわけで、「テーマ」が「謎」として成立していないということです。冒頭でオチがわかってしまう小説、といいかえることもできます。その小説が「構成」に失敗していることは、言うまでもないでしょう。


 「キャラクター」が【テーマの提起】に直面し、そこで何を考え、どう行動し、その結果として何が起こるのか、を描くことによって最終的に【テーマの解決】を導きだす、これが『小説を書く』というプロセスです。ですから、その小説の「テーマ」に直接かかわっているかどうか、が主要登場人物とモブキャラを分ける鍵です。


 「謎」を埋め込まれることによって、登場人物は「キャラクター」になります。埋め込む「謎」とその答えはすでに決まっていますね。「テーマ」となっている「謎」そのものです。

 今回のサンプル、異世界パン屋物語の場合は、


・他者のために困難に立ち向かう存在が「英雄」である


 という答えを導きだすことが、「キャラクター」の存在理由となります。

 よって、『他者のために困難に立ち向かう存在が、英雄である』という答えに対応する問いの数だけ、主要「キャラクター」が誕生します。



 「キャラクター」の存在理由は、具体的な例を挙げればイメージしやすいかと存じます。


  ・その1

   Q:戦闘能力を持たない人間は「英雄」になれるのか?

   A:「他者のために困難に立ち向かう存在が「英雄」である」

     よって、可能である。


  ・その2

   Q:真の「英雄」かどうかを分ける基準は何なのか?

   A:「他者のために困難に立ち向かう存在が「英雄」である」

     という点で分けられる。


  ・その3

   Q:「英雄」の素質を持つものに、最低限教えておくべきことは何か?

   A:「他者のために困難に立ち向かう存在が「英雄」である」

     という基本概念。


  ・その4

   Q:強大な力を持っているはずの自分が「英雄」になれなかったのはなぜか?

   A:「他者のために困難に立ち向かう存在が「英雄」である」

     ということに気づけなかったから。


  ・その5

   Q:自分を打ち倒した「英雄」とは何者だったのか?

   A:「他者のために困難に立ち向かう存在が「英雄」である」

     と後世の歴史家は結論づけるのであった。



  ・その6

   Q:プロ野球選手になるためにはどうすればいい?

   A:「他者のために困難に立ち向かう存在が「英雄」である」

     ……無理でした。


 「テーマ」と並べてみて違和感の無い「謎」は「キャラクター」の存在理由にできます。その6のような悪い例は、「テーマ」と並べると違和感がでます。こうして「キャラクター」達の存在理由を並べただけでも、それぞれの「謎」からどんな「キャラクター」が誕生するか、想像できるのではないでしょうか。


 注意点としては、同じような「問いかけ」を存在理由に持つ「キャラクター」は、同じような立ち居地の「キャラクター」になることです。これが『キャラがかぶる』という現象です。また、「キャラクター」の存在理由を読者に直接見せてしまうと「キャラクター」の寿命が尽きてしまう点にも注意してください。読者の興味をひきつけるのは「謎」です。「キャラクター」の存在理由も「謎」で出来ています。よって、「キャラクター」の「謎」が解けてしまうということは、その「キャラクター」に対する読者の興味が消え失せてしまう、ということを意味します。


 存在理由の「謎」がなくなった「キャラクター」は、まるで世界そのものから排除されるがごとく、物語の本筋から全力でフェードアウトしていきます。これが「キャラクター」としての寿命が尽きるということです。本格的な見せ場が来る前の「キャラクターがそうなってしまわないよう、【テーマの提起】を隠すように、「キャラクター」の存在理由を読者から隠しておくことを意識する必要があります。


 そして、ひとたびその「キャラクター」の「見せ場」が来たならば、それまでずっと溜め込んでいた「謎」を全力で開放し、「キャラクター」生命と引きかえに、「キャラクター」を輝かせてあげてください。そのシーンが小説の盛り上げどころとなり、【テーマの解決】につながるシーンとなるはずです。


 とりあえず、今回は


 ・戦闘能力を持たない人間は「英雄」になれるのか?

  これを『主人公』として採用し、


 ・真の「英雄」かどうかを分ける基準は何なのか?

  これを『ヒロイン』として採用します。


 あまり「キャラクター」を増やしすぎると収拾がつかなくなりますので、この2名でストーリーをつくっていきます。なお、主人公とヒロインを逆にしても成り立ちます。どの「キャラクター」の存在理由をどういった役割の「キャラクター」に当てはめるか、ということも作家が自由に決めていいのです。


 「キャラクター」の存在理由が固まったら、いよいよ「キャラクター」作成に移ります。存在理由だけ与えたところで、なかなか「キャラクター」は動いてはくれません。ごくまれに、それだけで細かい設定が次から次へと沸きあがってきて、たちどころに事件を解決してしまう優等生もいるらしいですが。しかしながら、普通はもう少しキャラクターに血肉を与えておいた方が動かしやすいです。



 では、下の表を埋めながら「キャラクター」を作っていきましょう。


【名前】:

【宿命】寿命:0

【背景】魅力:0

【設定】

【関係】


 簡単に、各要素の説明をしていきます。

 【名前】はキャラクターの名前です。説明するまでもないでしょう。


 【宿命】は、先ほど決定した「キャラクター」の存在理由がそのまま入ります。

 その横の「寿命」という数値は、未解決の【キャラの存在理由】の個数です。先ほど説明した、「キャラクターとしての寿命」がどれだけ残っているのかを表します。物話を無駄に壮大にしたくなかったのでさっきはやりませんでしたが、他の存在理由と矛盾を起こさないことを条件に、1人のキャラクターに複数の存在理由を組み込むことも可能です。「寿命」がゼロになった時点で、その「キャラクター」のストーリー上の重要度はモブキャラ並に暴落するので注意してください。


 【背景】は、その「キャラクター」にまつわる過去のエピソードが入ります。箇条書きで大丈夫ですが、【宿命】と矛盾するエピソードは避けましょう。また、未来に起こることもいれてはいけません。その未来のことが作中で現実になった時点で、【背景】としてカウントしてください。

 そして、【背景】にあるエピソードのうち、小説の本編で直接書かれていないものの個数が「魅力」の数値となります。小説内で過去エピソードがひとつ明らかになるたびに、「魅力」は減少していきます。


 【設定】は一般的に言うキャラクター設定のことです。

 【宿命】と【背景】に矛盾しなければ、何をどれだけ盛り込んでも大丈夫です。


 【関係】は、読者視点のキャラから見た、そのキャラクターとの関係です。



 これらをさっきのパン屋物語の主人公に当てはめた場合、こんな感じになります。



※ストーリー開始時点

【名前】:『異世界パン屋店主(仮名)』

【宿命】寿命:1

・戦闘能力を持たない人間は「英雄」になれるのか?


【背景】魅力:4

・地球でパン屋を営んでいた。 ※未使用

・彼の店は結構流行っていた。 ※未使用

・幼少期は身長の低さにより、からかわれることも多かったが、小学校高学年あたりからそれなりに背が伸び、そんなこともなくなっていった。 ※未使用

・料理専門学校に通っていたが、就職活動に失敗し、途方にくれていたところをバイト先のパン屋(家族経営)の店長(当時68歳)から「じゃあウチにくるか?」と誘われ、弟子入りしたことが、パン屋になったきっかけ。 ※未使用


【設定】

・パン職人

・男

・28歳

・9月21日生まれ

・黒髪

・大柄


【関係】

・読者視点そのもの(一人称主人公)



 いかがでしょうか。

 とりあえず、小説の冒頭のシーンで、いきなり上2つの【背景】を消費して「魅力」が2になってしまいそうですね。また、主人公の師匠の年齢まで決める必要はなかったのですが、勝手に思いついてしまったので書きとめておきました。


 【宿命】と【背景】の総数は、そのキャラクターが持つ「謎」の個数です。明かされていない【背景】エピソードは、それぞれ1個の「謎」とすることが可能ですので、それがそのまま、読者から見たキャラクターの「魅力」につながります。よって、キャラの「魅力」を維持するために、【背景】も不必要に読者に見せないよう、工夫を凝らす必要があるといえるでしょう。また、「寿命」を消費してクライマックスシーンを作るように、「魅力」を消費してそのキャラの出番をつくることも可能です。


 そして、【背景】が多ければ多いほど、作者にとっては動かしやすくなります。「キャラクター」に自分の【宿命】を果たしてもらわないことには小説が完成しないし、何の理由もなく「キャラクター」が過去のエピソードと矛盾する行動をとれば読者が混乱します。よって【宿命】と【背景】が多いほど、その「キャラクター」は行動の選択肢が狭まることになります。究極的にいえば、常に選択肢が1つになるくらいガチガチに【背景】を増やせば、そのキャラクターは勝手に動き回るようになります。


 無論、絶対にそこまでしなければならない、というわけではありません。

 それに、この表はどちらかというと、「キャラクター」を作るときに使うよりも、脳内で完成させた「キャラクター」が矛盾を抱えていないかどうか、「キャラクター」の「寿命」が気づかないうちに尽きていないか、メインヒロインの「魅力」が他の女キャラに負けていないか、などを分析するために使った方が良いでしょう。「魅力」の数値は「キャラクター」の作りこみ度合いがそのまま反映されますので、こだわってみてはいかがでしょうか。



 主人公と同じように、ヒロインも作ってみました。


 ※ストーリー開始時点

名前:『異世界パン屋のヒロイン(仮名)』

【宿命】寿命:1

・真の「英雄」かどうかを分ける基準は何なのか?


【背景】魅力:3

・異世界の大衆食堂の一人娘として生まれた。 ※未使用

・幼いころから家の手伝いをしてきた。 ※未使用

・料理人である両親から料理の技術を見て盗んできた。 ※未使用


【設定】

・明るく社交的な性格

・16歳

・女

・茶髪

・声が大きい

・店の常連にとってアイドル的存在

・料理上手

・ひととおりの家事はできる


【関係】

・主人公とは、まだ出会っていない

・異世界に突然トリップした主人公を最初に見つける予定。

 ※未来のことは本当は書かないほうがいいんですが、このくらいは許してください。

  どうせ、すぐに上書きされます。


    

 「キャラクター」を作ったら、その「キャラクター」の【宿命】について考えます。【宿命】も「テーマ」と同じように、【宿命の提起】と【宿命の解決】のシーンがセットになっています。

 キャラクターの【宿命の提起】のシーンを作る作業は、【テーマの提起】を考えたときのように


・そのキャラクターの宿命の問いかけを呼び起こす【何か】が起こる


という文章における【何か】を各「キャラクター」毎に考えることです。やはり、わかりやすいものは避けたほうが無難でしょう。ただし、主人公の【宿命の提起】は【テーマの提起】と基本的に同じものになります。それが主人公の証です。


 次に、【宿命の解決】が起こる、見せ場のシーンを作ります。描写ひとつ、台詞ひとつでもかまいません。その「キャラクター」の【宿命】に結末が示される、印象的なシーンが脳裏に浮かんでくるまで、ひたすら妄想を続けます。「キャラクター」の命が燃え尽きるシーンですから、その「キャラクター」の生みの親として、最高の晴れ舞台を用意してあげてください。


 見せ場のシーンは、最低でも「寿命」の個数分必要です。うまく思いつかないときは、【背景】を追加して「魅力」を増やしていきましょう。【背景】は、「キャラクター」の【宿命】や他の【背景】、小説本編でそれまでに書いた内容などに矛盾しなければ、後から付け足してもかまいません。ストーリーの展開上、「キャラクター」の構成要素が変わってしまったときはガンガン上書きしましょう。ただし、バックアップは忘れずに。



 【宿命の解決】のシーンが主要「キャラクター」全員分完成したら、次は【テーマの解決】のシーンを決める番です。ですが、ここまできたということは、それをわざわざ考える必要はないでしょう。


 【宿命】の答えは、「テーマ」の答えと一緒です。つまり、あなたが最も気に入った【宿命の解決】のシーンが、そのまま【テーマの解決】シーンを兼ねることになるのです。ただ、個々の「キャラクター」が【宿命の解決】シーンを越えた後の、大団円のシーンなどを【テーマの解決】シーンに据えたくなることもあるでしょう。それならそれでもかまいません。それが、自分の用意した「テーマ」の答えに最もふさわしい、と思うのであれば、それをそのまま【テーマの解決】シーンとして採用しましょう。


 ちなみに、異世界パン屋物語の【テーマの解決】シーンは、いろいろと考えた結果、ヒロインの【宿命の解決】シーンである、


 人々のためにパンをつくる続ける主人公の姿をずっとそばでみていたヒロインが、なにげなく

「こういう人のことを、本当の「英雄」って呼ぶのかもね……」

 

 とつぶやくシーンでいこうかなと思いました。

 ダサいのは承知の上です。私の力量では、残念ながらこれが限界でした。


 【テーマの提起】、【宿命の提起】、【宿命の解決】、【テーマの解決】、これらのシーンが出揃ったら、次は「プロット」つくりです。ここまでくれば、小説の完成まであと少しです。

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