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「謎」と「テーマ」のこと

 拝啓


 寒さもようやく衰えはじめましたが、いかがお過ごしでしょうか。

 このような手紙を書かせていただくのは、これが初めてのことでございますので、もしかすると不作法な点があるかと存じますが、なにとぞご容赦願います。


 私についての説明は、あまり意味を持たないでしょう。長年にわたり、ずっと読書漬けの毎日を送ってばかりの人間、その程度の存在です。そうして、過去に生み出された数多の小説たちと向きあいながら、将来この世に生まれ落ちる小説との出会いを夢見ながら、日々を過ごしておりますと、心にひとつの疑問が浮かんでまいります。


 素晴らしい小説とは、どういったものを指すのでしょう?


 小説の素晴らしさとは何でしょうか、面白い小説は素晴らしい小説なのでしょうか、そもそも、小説の面白さとはどこからくるものなのでしょうか。このような、物事の根源にかかわる問いかけは、その問いを抱く人間の人生によって解き明かしていくもの。そしてその答えは、ひとりひとり全く異なるものとなるのでしょう。かくいう私も、長年にわたり疑問を抱き続け、その結果、自分なりにひとつの答えに到達した、と確信めいた手応えを得ました。それゆえに、出すぎた真似かとは存じますが、このような手紙をしたためた次第であります。


 結論から申し上げますと、小説の面白さは「謎」が生み出すものであります。「謎」の概念こそが、物語の原点なのです。


 では、ここまで持ち上げた「謎」とは一体何なのかということですが、いくつか例を挙げさせていただきます。最もわかりやすいのは、ミステリー小説における「謎」です。作中で起こった殺人事件の犯人や、犯行に使われたトリックなどが「謎」となることがほとんどです。では、恋愛小説においてはどうでしょうか。恋愛小説における「謎」は、主人公たちの恋の行方とその結末、ということになるでしょう。最後に、異世界チートハーレム小説についてです。このジャンルにおいては、異世界に放り込まれた主人公が何を体験し、どうやって生き、何を成すのか、といった要素が「謎」となりえます。


 読者の頭に浮かぶ「?」マークこそが、「謎」の正体です。「この先いったいどうなるんだろう」と読者に思わせるもの、それが「謎」の定義だといえます。小説は読者に「謎」を提供し、その脳内にモヤモヤした何かを生み出します。そして、読み進めるにしたがってその「謎」が解消されてゆき、読者に晴れやかな気分がもたらされる。これが小説の面白さのメカニズムです。

 実例をご覧に入れましょう。以下の例文をどうぞ。



 まんまるがひとつ。

 まんまるがふたつ。

 まんまるがみっつ。

 あなたもみえる?


 ぶんしょうのおわりをつげる、まる。



 ご理解いただけたでしょうか。


「わかりづらい」

「よくわからなかった」


 こうした感想をお持ちの方がいらっしゃいましたら、まことに申し訳ありません。私の作文能力の低さがその原因です。一応、ネタバレをいたしますと、このヘタクソなポエムにおける「まんまる」とは、句点(。)のことでございます。


「それで、結局このポエムは何が言いたいのか」


 このような感想を持っていただけたのなら、ひと安心でございます。これが私の伝えたかったことなのですから。何を隠そう、このポエムに意味など全くございません。しかしながら、それがまさに重要なのです。逆に考えて見ましょう。なぜ、あなたはこのポエムを、全く何の意味も持たない文章を、ついつい読んでしまったのでしょうか。


 そこに「謎」の力があります。「まんまる」という意味不明のものをポンと与えられることで、このポエムを読んだ人の脳内には「謎」が生まれます。そして、本能的にその「謎」の答えを求め、先の展開を期待し、文章を読み進めてしまうのです。最終的に、5行目でその「謎」に対して解答が与えられると「謎」がもたらしたストレスが解消され、快楽が生まれます。これが読書の面白さなのです。


 もちろん、読書による快楽を与える手段として、直接的な快楽を書いて読者にそれを追体験させる、という方法も存在します。官能的な濡れ場、ハラハラするアクションシーン、おもわず泣ける感動的なシーン、それらは確かに単独で快楽をもたらすものではあります。ですが、この方法には問題点があります。そういったシーンのみを組み合わせてストーリーを構築するのは、至難の業だということです。


 一方、効果的に「謎」を使うことができれば、なにげない日常のシーンでも読者に快楽を与えることが可能となります。先ほど述べた、単独で強烈な快楽をもたらすシーンと組み合わせれば、緩急のついた起伏のあるストーリーを構成することが可能になります。


 読者は、決して自分からページをめくってはくれません。読者はいつでも、小説を読むのをやめることができます。まして、娯楽の多いこの時代です。つまらない小説を読む時間があったら、もっと面白いものを探しにいったほうが良い。そう考えるのは、当たり前のことだともいえるでしょう。作家側が、常に新鮮な面白さを供給し続けないと、読者はすぐにでも小説を読むのをやめてしまう可能性があります。作家が読者にページをめくらせるのです。


 また、「謎」の存在は、作家にとっても重要な意味を持ちます。「謎」なくして、小説は存在できないと言ってもいいでしょう。



 物語の核は「謎」であり、小説の「テーマ」もまた「謎」なのですから。



 小説を書くときには、特にそれが長編である場合は、物語の核となる「テーマ」が必要不可欠です。ストーリー全体に横たわる「テーマ」がなければ、動き回る「キャラクター」たちに振り回されて物語が制御不能になり、小説が空中分解してしまうでしょう。


 空中分解、などと格好つけた言葉ではなく、ハッキリと言ってしまうのなら、更新停止、エターなる、などと呼ばれる状態になるということです。物語が終着点へたどり着くことなく、作家が力尽きてしまう現象のことです。こうなってしまう原因には、周囲から強烈な批判を浴びせられて心が折れてしまうような、外部からの要因も確かにあることでしょう。しかし、そうした外部からの要因が無くとも、物語の途中で失速し、ゴミ箱に投げ捨てられてしまう小説が数多くあるのが現状です。


 どうしてそんなことが起こるのかといえば、それらの小説は、もともと終着点に到達することなど不可能な構造だったから、なのでしょう。倒すべき敵の親玉、ラスボスが存在しないゲームのようなものです。これを達成したらゲームクリア、という到達点がないままに、延々と雑魚敵を狩り続ける日々が続きます。ゲームを終えるタイミングは、プレイヤーが飽きたときのみ。このような構造を持つ小説は、たとえどこで完結したとしても、中途半端に不完全燃焼したような印象を与えてしまうことでしょう。


 ストーリー全体をつらぬく「テーマ」の存在が、物語に一貫性をもたらすのです。優れた「テーマ」を秘めた小説は、読み進むにつれて最初はバラバラだと思われていた断片が組み合わさり、まるでひとつのパズルが完成するかのように展開されていきます。あるいは、主人公と共にひとつひとつイベントを乗り越えるたび、物語が先に進んでいる実感と共に新たな景色が読者の目の前に広がります。


 小説の「テーマ」は、あいまいな状態で成立するものではありません。「テーマ」と一般的な概念との境目は、問いと解答がきちんと用意されているか否か、です。

 例を挙げてみましょう。


・『幸せ』


 これは「テーマ」ではありません。ただの単語です。何の考えもなしに様々な『幸せ』の形を並べても、それはまとまりの無い文章の羅列でしかありません。小説のようなもの、とでも言いましょうか。


・『幸せとは何か』


 これも「テーマ」としては不完全です。ただし、これを「テーマ」に据えても小説を書き始めることはできるでしょう。問題となるのは、不完全な「テーマ」を持つ作品は、綺麗に書き終えるのが極めて難しいことです。「キャラクター」たちは、『幸せとは何か』という問いを胸に秘めつつ、自分なりの答えを見つけようと懸命にもがくことでしょう。しかし、彼らがその答えに到達できるかどうかは一種のギャンブルです。


 それはなぜかといいますと、『幸せとは何か』という問いかけに対する答えが、その小説の作者自身にもよくわかっていないからです。筆をすすめるうちに「キャラクター」たちが自分で答えを見つけてくれればいいのですが、結局どこにもたどり着けなかったり、苦労の末に得た答えがしょうもないものだったり、報われないことも多いでしょう。


 では、どうすれば良いのか。答えはこうです。


・『Q:幸せとは何か A:日々の暮らしに感謝すること』


 いかがでしょうか。

 これが、「テーマ」という存在でございます。ここで重要なのは、答え(A)の内容ではありません。同じ問い(Q)であっても、答え(A)は人によってそれぞれでしょうし、正直に言えば『日々の暮らしに感謝すること』という答え(A)には私も100%同意できるわけではありません。あくまでひとつの例とお考えください。しかしながら、初めから答え(A)が用意できていること、これが「テーマ」と「テーマのようななにか」を分ける境界線だとお伝えすることはできたかと存じます。


 このような、Q&A形式をとる自己完結した「テーマ」は、それ自体が「謎」を形成します。先に述べたとおり、「謎」は小説の面白さの源となりますので、「謎」をきちんと活かしきることができれば、面白い小説が生まれます。よって、しっかりした「テーマ」の存在は、小説にとって必要不可欠なのです。


 あとは、どうやって読者に「テーマ」となる問いを提示し、どうやってその問いを解決してみせるのかです。これが、小説の「構成」と呼ばれるものです。小説の「構成」について、乱暴に説明してしまうならば、【テーマの提起】と【テーマの解決】、そのタイミングと手法を決めることでございます。


 もっとも単純な小説の「構成」を図で表すと、以下のようになります。


   【プロローグ】

   【テーマの提起】

   【テーマの解決】

   【エピローグ】


 どうしてそうなるのか、という疑問にお答えするため、もう少しだけ詳しく説明いたします。


 1本の糸のようにつながるストーリーのなかに、Q&A形式の「テーマ」を挿入すると、


   【「テーマ」が提起(Qの提示)される前】

   【「テーマ」が提起(Qの提示)されてから、その答え(Aの提示)が導きだされるまで】

   【「テーマ」の答え(Aの提示)が導きだされた後】


 ストーリーをこの3つの段階に分けることができます。

 これを言いかえたものが、


   【プロローグ】

   【本編】

   【エピローグ】


 という流れの正体です。そして、【本編】が始まる瞬間と終わる瞬間が、それぞれ【テーマの提起】と【テーマの解決】でございます。



 ここまで、自分でも驚くほど偉そうに、いろいろと語ってまいりました。しかし、まあ、なんと申しましょうか、口先だけなら誰でも何とでも偉そうなことを言えますよね。

 ですので、次は実際に「テーマ」を使って「構成」を組み立ててみようかと存じます。小説のジャンルは、ファンタジー異世界トリップもの、としましょうか。現代日本に暮らす主人公が、剣と魔法の異世界へ行って活躍する物語です。


 「テーマ」は


   Q:「英雄」とはどんな存在か

   A:他者のために困難に立ち向かう存在が「英雄」である


 という「謎」を使用することにいたしましょう。ちなみに、読み方は「えいゆう」ですよ。「ひでお」じゃないです、念のため。

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