物は大切に
この話では「椀」が登場しますが、それはいわゆる抹茶をたてたりする奴で、ご飯を食べるアレではありません。
作者の表現力が欠落しているせいで勘違いされてしまわない様、先に書いておきます。
「……仕方ないじゃないですか」
俺は机を挟んで座っている、メガネの男に言う。
「仕方ない?」
俺は苦し紛れに反論する。
「地球上には重力があるんですから、いつかはこうなりますよ」
「いえ。丁重に扱っていればこんな事にはなりませんよ」
男は冷たく言う。
「……」
「君にはあれ程、気を付ける様に言ったのですが」
「……すいませんでした」
「謝ってもコレは元に戻ってはくれないのですよ」
そういって男は机の上の椀……だったものを示す。
椀だったもの。……今それは元の形を無くし、十数個の破片となっている。
面倒だ、簡潔に言おう。割れた。うん、割れた。俺が割った。
「コレの価値は君にきちんと伝えた筈ですが」
「……はい」
「知る人ぞ知る名人が長い年月をかけて作り上げた、世界に二つと無い一品」
男が椀の魅力について語りだしたので、俺は溜め息をついた。
「弁償スレバイイデスカ」
俺がそう言うと男は俺の事を睨む。
「やはり君はコレの価値が分かっていない様ですね」
「すっげー高いんでしょ」
「値段などつけられませんよ。ですが無理矢理つけるとなると……軽く京は超えますね」
「ケイ?」
「知りませんか? 兆の千倍です」
俺は頭の中でその言葉を繰り返した。
「すっげー高いじゃないですかっ!」
「さっき君も自分で言っていたでしょう」
「いや、流石にそこまで高いとは」
これが本当の桁外れ。……なんて言ってる場合じゃない。
「……払えません」
「そうですか……困りましたね」
男は少しの間を置いて、口を開いた。
男は最後に、何と言ったのでしょうね……(とか言って思いつかなかったのをごまかすw)