Chapter 1 episode: Awaken 2
とはいえ、次はどこへ向かうべきか迷う。まだ地理がよくわからず、おおよその目星をつけることも難しい。
闇雲に動き回っても仕方がないのだが、行動しないことにはどうしようもない。さしあたり、他の場所へ移動することにした。
周囲は相も変わらず、猥雑だ。得体の知れない霊が漂っている。この程度のこと慣れてはいるが、けっして気分のいいものではなかった。
――しかし、今のところたちの悪い霊はいない。
あの〈悪霊〉のような影は皆無に近い。それだけに、あのときの出来事は不可解そのものだった。
手がかりはどこへ行けば得られるだろう。考えても答えが出るはずもなく、だんだんと途方に暮れてきた。
いったん帰ろうか。いやいや、行くとしたらすでに何かが起きた場所か。この眼鏡さえなければ、迷わずもっと大胆な行動がとれるのだが。
目立つ外では、相手も活動しづらいのかもしれない。とりあえず、どこか中に入ってみようと決めた。
――どこの校舎にするか。
建物の数が思ったよりもずっと多い。
――広いというのも考えものだな。
目移りしてしまうが、ここは白鳳高校のそれにしておくことにした。万が一誰かに見つかっても問題なく、一応は勝手がわかっている。
あの和洋折衷の校舎に近づき、手近な一階の窓に目星をつける。
案の定、鍵はしっかりとかかっていた。いつもの自分なら楽々解錠できるはずだが、眼鏡をかけている今はまるで予測がつかなかった。
突っ立っていても意味はない、ともかく試してみた。
駄目で元々と集中力を高め、霊力を集約していく。右手を窓のほうへかざし、クレセント錠の動きをイメージする。
すぐに錠の取っ手部分が揺れはじめた。やがて音もなく、フックが完全に外れた。
――よし。
さっそく中に入る。思ったよりも楽だったのはどうしてだろう。
ともかく侵入できた以上は、あとは内部を探るだけだ。
辺りはしん、と静まり返っている。
――だが、妙だ。
明らかに〝ある〟というわけではないが、判然としない何かを確かに感じる。十分に注意したほうがよさそうだった。
剣袋を左手に持ったまま歩を進める。動く気配があったのは、向かいの角を曲がったときのことだった。
――近づいてくる?
いや、逆だ。こちらが進むにつれ、徐々に離れているようだった。
対象がどこに位置しているか判然としない。畢竟、ただの勘に頼って歩を進めなければならないことに、わずかな苛立ちがあった。
が、より広い廊下へ出た直後、状況は劇的に変わった。
「!?」
わずかな月光を受け、煌めく刃。
――ナイフ。
感じるより早く、横へ動いた。
いつもに比べればそれは止まっているに等しいものであったが、すんでのところでかわし、頭の横を高速ですり抜けていく凶器を見送った。
すぐさま顔を起こして前方を見やったものの、認識できる範囲内に動く存在の姿はなかった。
「…………」
殺気はあまり感じなかったとはいえ、敵意を持たない奴が武器を投げるはずもない。
――いろいろあるな、ここは。
初日からこれだ。先が思いやられるが、あまり深くは考えずに先に歩を進めた。
あちらこちらに〈罠〉があってもおかしくはない。中途半端な緊張を感じながら、回廊らしきところを抜け出た。
上方に並ぶ明かり取りの窓からもれる光を受けてうっすらと浮かび上がるそこは、広間のようだった。
転校してきたばかりの自分には、ここが実際にはなんのための場所なのかはわからない。
ところで、
――ここはどこだ……
校舎に入ってからおおよその方向は把握しながら進んできたつもりだったが、もはやさっぱりわからなくなった。
――ええい、この厄介な眼鏡め。
天性の方向音痴は記憶障害に陥ったらしく、すべての責任を黒縁の物体に押しつけて天を仰いだ。
迷っていても状況が変わるわけではない。広間の奥のほうへ向かってみることにした。
やけにがらんとしたところだ。これといって置物もなく、ただ冷たい風が吹いている。
「うん?」
よく見れば、前方にさらにつづく通路があった。黒い闇が手招きしているようで気が引けるが、わずかな風の流れを確かに感じた。
――やけに派手な廊下だな。
人が五人横に並んでも通れるほどの幅のある通路の壁面には、手作りだろうか、全体にレリーフまで施されている。
天上に対し、懺悔をする者。
巨人に踏みつぶされる悪魔。
握手を交わす一方で、互いに刃を隠す男と女。
「ふんっ、この世の象徴か」
嘲りを含んだ声で思わずつぶやきながら、未だ先の見えない廊下を進む。
数分経った頃、ようやく突き当たりが見えてきた。
黒い重厚な扉。来る者を拒むかのように、固く閉ざされている。
――いや。
わずかだが右側だけがずれている。それに――
――霊気が流れてくる。
眼鏡をかけていてさえわかる不自然な流れ。
しかも、それは〝人間〟のものではない。
――来たか。
音もなく刀を袋から抜き取り、扉の隙間から内側をうかがう。
初め、何があるのか判然としなかった。手前には長椅子が整然と並び、その奥には祭壇。天窓がステンドグラスになっていることもあって、月明かりの強い今日でも内部は薄暗くてよく見えない。
――教会、だな。
祭壇が豪華すぎてどの宗派のものかわからないが、教会であることに間違いはなさそうだった。
気配を探る。なけなしの霊力を感知能力に集中させると、〝それ〟はすぐに見えた。
赤く輝く霊光。
それに包まれた少女が、祭壇の前で何かを抱えて座っていた。
人。
男子の制服を着た生徒らしき人物が焦点の合わない目を虚空に向け、首筋から液体を流し、シャツの襟を黒く染めている。
その男にしてはきれいな肌に唇を当てているのが、先の女だった。
――やれやれ、俺の本職とはな。
蓮は口の端をつり上げながら、扉を開けて前へと出た。
正面から堂々と。
「おい」
まるで気づいていなかったのか、女がびくりと反応した。
「ただの眷属のようだな。今どき、生きた人間から直接吸血するとは呆れた奴だ」
女が、濡れた口元をぬぐいながら立ち上がった。
その目は、皮肉げに輝いていた。
「お前なんかに何がわかる。吸血鬼の餌食になったあたしたちの――」
「わからない。別にわかりたくもない。俺は貴様のような輩を狩るだけだ」
愛刀〝〈秀真〉〟を前面に掲げた。
「〝〈狩人〉〟として」
あからさまにたじろいだのは女のほうだった。
「クルースニク……どうして日本に」
「ふんっ、この国際化の時代に何を言っている。ヴァンパイアが世界中に散ったとしても、我らは永遠に追いつめる。それだけだ」
自信満々に語る蓮であったが、最初の衝撃から立ち直ったか、女はやがて怪訝な表情を浮かべた。
「その程度の霊力で?」
「……………………」
――そ、そうだった。
眼鏡の存在をすっかり忘れていた。直前まで相手が気づかなかったのも、霊力が極端に抑えられていたせいだ。
硬直した蓮の様子からおおよその事情を察した女は、失笑しつつ自身の制服の袖をまくった。
「ばかな奴、その程度の力であたしと戦おうなんて」
「違う! 俺の本当の実力は――!」
「うるさい!」
祭壇前の階段を強く蹴り、まさに飛ぶように接近してくる。
――やっぱり速いか!
現状を鑑み、迎え撃つことはあきらめて最初から回避に徹する。
ヴァンパイアの眷属となれば、自由を失うかわりに身体能力が飛躍的に上がる。
しかも、今日は満月に近い〈十六夜月〉。月光が妖なる者の力をさらに強める。
「くっ……!」
左目のすぐ横を、相手の長く伸びた爪が通り過ぎていく。逃げ遅れた髪の一房が、無惨にも持っていかれた。
とにかく逃げに徹した蓮は、なぜか中途半端な位置にあった説教台ともろにぶつかり、派手な音を立てて倒れ込んだ。
だが、体勢を立て直す暇さえない。
顔を上げたときにはもう、眼前にまで相手が迫り、凶器と化した両手を振るってくる。
それを鞘に入ったままの刀で払いのけながら、横へ跳んでかわした。
「私の正体を知られたからには、生かしてはおけない!」
「ばかが! お前の正体など見抜いている奴はいくらでもいるだろう、この学園ならな!」
「何……!?」
「はっ、気づいてなかったのか? 鈍い奴だな。感知タイプから戦闘タイプまで、いろんな〝ハンター〟がこの学園内にはいる。あやかしもな。お前のような無邪気に霊力をまき散らしている奴の存在に気づかないはずがないだろう」
「…………」
「そんなことも知らされてないなんて、どうやらお前は主人から信用されてないらしい」
「!」
女の顔が、憎しみと怒りに彩られた。
「黙れッ!」
図星だったか、激昂して突っ込んでくる。
今の状態ではかわしきれないと悟った蓮は、わずかな霊力を前面に集め、障壁を展開する。
しかし、それはあっさりと砕かれ、相手の人差し指から伸びる爪が左の肩口に突き刺さった。
深手にならないようすぐに体をひねると同時に、刀の鞘で相手を押し返して間合いを確保する。
つづく相手の攻撃も致命傷を避けるので精いっぱいだった。
――運動が苦手な奴の気持ちがわかる。
現実とイメージとのずれ。『こうしたい』と思っても体がついてこず、なまじ頭の中では動かせているだけにそのギャップが無様な結果をもたらす。
だが、問題はそれだけではなかった。
――少し、まずい。
肉体的には、前と変わりがない。鍛え方が違う。この程度のこと、怪我のうちには入らないのだが、徐々に生気が抜けていくのがわかる。
――あの爪。
女の爪は、どうやら自身の爪を変化させたものではなく、それ自体がひとつの霊器のようだった。
しかも、殺傷能力だけではない。対象に触れた瞬間、その霊力を削り取るらしく、今の狂った感覚の中でも自分のそれが確実に落ちていることを感じる。
――前言撤回だ。わざわざ霊器を渡すなんて、主人から信頼されている何よりの証拠じゃないか。
生まれながらのヴァンパイア――〝真祖〟が何者かはわからないが、それなりのものを持っているようだった。
「!」
背後から霊器をまとったナイフ。
それを鞘ではたき落とすものの、今度は前方から本人が飛んできた。
「しまっ……!」
防御が間に合わず、思いきり後方へ弾き飛ばされる。完全に宙へ浮くほど衝撃を受けた蓮は、何かに摑まることもできずに出入り口の重厚な扉に派手に叩きつけられた。
背中をしたたかに打ちつけたせいで、しばらく呼吸ができない。それでも強引に体を動かして立ち上がろうとしているところへ、女の近づいてくる気配があった。
「弱い、弱すぎる。男なんてみんなこんなもの」
けなすというより呆れたように顔を歪め、わざと靴の音を立てて歩み寄ってきた。
それを睨みながら蓮は、一連の攻撃に違和感を覚えていた。
――いったい、どうやって……
ナイフは、確かに真後ろから飛んできた。しかも、この校舎に入った最初のときと同じく、霊気をまとった状態で。
〝術〟でも使ったというのか。だが、正面にいた相手にそんな素振りはまったくなかった。
「…………」
最悪の事態も想定しておいたほうがよさそうだ。
目の前の相手が予想よりも強いか他の不確定要素があるなら、この戦い、難しいものになる。
――うん?
ふと相手の視線が気になった。こちらのほうを向いているようでいながら、よく見ればわずかにずれている。
膝立ちになりながら、はっとして斜め後ろを振り仰いだ。
「お前は……」
白鳳高校の制服をまとった女子生徒がいた。その肌は暗闇の中でもわかるほど白く、わずかな月光に煌めく短い髪は黄金だった。
『等身大の人形です』と言われれば信じてしまいそうなその風貌に見とれてしまいそうになったが、弾かれたように立ち上がって少女を後ろへ押しやった。
「逃げろ! 今ややこしいことになってるんだ……! だいたい、なんでこんなところに!?」
「お祈りを……」
「そんなのは明日にしろ! いいから早く――」
逃げろ、という再度の言葉は発せられることはなかった。
一瞬で真横まで来た眷属に、左腕の一閃によって完全に弾き飛ばされた。
木製の長椅子をいくつも巻き込み、粉々に砕け散った木片をまき散らしながら祭壇に衝突して止まった。
さすがの蓮も、声を上げることすらできなかった。
「何? こんな女のために意識をそらしたの? ばっかじゃないの、あんた」
ばかはお前だ、といつもなら反論するところだが、今はうめくことも難しい。
「――でも、きれいな〈娘〉。いつもは女に興味ないんだけど、いいよ、あんたもあたしが〔飲んであげる〕。あたしよりきれいな娘なんてむかつくし」
たいして美人でもないくせに、と皮肉を言いたい思いに反して、唇は震えるだけだった。
「…………」
金髪碧眼の少女は、恐怖で動けないでいるのがわかる。
眷属の女は、その細い首筋へ向けて右手の爪を伸ばしていく。
少女の青白く見える肌に先端が突き刺さり、つ、と赤い筋が下へ伸びた。
「やめろ!」
「黙れッ!」
振り向きざま、円錐状に形態変化させた霊気の塊をぶつけてきた。動けない蓮の体を問答無用に貫いていく。
意識が混濁しそうになる中でも、少女が手を強く握りしめているのがわかる。
――俺は……
足元に落ちた雫は涙だろうか。
――俺は、また……
血。
血、血、血。
赤く染め上げられた大地が、暗黒の空と融合していく。
その中心、町であったはずの丘に立つのは、フードをかぶったひとりの少女。
その瞳に映るのは――
――俺は、また守れないのか。
いや、守る気がなかっただけか。
――いや、今度こそ〔俺が守る〕。
そう確信した瞬間、内側から〝力〟が込み上げ、全身に霊気がみなぎる。
その感覚に気分が昂揚しながらも、わずかな違和感に動きを止めた。
次から次へと押し寄せてくる霊気の波動。それは普段の自分さえも超えて、際限なくふくらみつづけていく。
――まずい!
明確に認識した。
〔暴走しかかっている〕。
このまま放っておけば大変なことになる、自分ではなく周囲が。
――こんなときに!
今、目の前でひとりの少女が自分のふがいなさのせいで犠牲になろうとしているというのに、自分は力を押さえ込むので精いっぱい。
急がなければならない状況だが、とても他のことができたものではなかった。
――早く……早く!
少しずつ膨張した霊力が集束していくのがわかる。
しかし、妙な感覚があった。
そういえば、
――守る? 守らない? 俺は、何を考えていたんだ。
時おり訪れる意味不明の思い。だが、それは驚くほど明確に胸に刻まれ、単なる思い違いとは感じられない。
それを認識すると同時に、急速に力がしぼんでいく。
荒い息をつきながら、蓮はすぐに顔を上げて二人を見た。
「何、今の……。霊気……?」
吸血鬼の眷属は、その動きを止めていた。
異質な〝気〟の流れ。これまで経験したことのない感触に、女は我を忘れた。
「――変な奴。あんたみたいのは、早めに消しておいたほうがいい」
言うなり、左手をかざしてその五指を対象へと向けた。
同時に五つの爪が問答無用に伸びてくる。
すべてをかわしきることは不可能。どれかを防いだとしても、他の少なくともひとつがこちらの急所を貫くだろう。
打つ手がない。悔しさと無力感に打ち震えながら、どうすることもできずに立ち尽くした。
いやに爪のそれぞれの動きがはっきりと見える。しかも、その周囲を流れる霊気の波動まで明確に感じ取れた。
それは、〔いつもの感覚〕だった。
「!?」
爪の先が眼前にまで到達した瞬間、何があっても左手に握りしめていた刀が強烈な光を発した。
それは幾条もの輝く帯となり、鼻の先にまで迫った相手の左手をからめとり、音を立てて締めつけていく。
今まで主を嫌みなまでに無視しつづけてきた〝秀真〟が、ついに本性を現した。
「なぜ……?」
ふと、先ほどの出来事を思い起こす。
内側からあふれる力。
――内側からあふれる?
眼鏡は、なくなっていた。
元の状態に戻っている。感覚も、霊力も、何もかも。
蓮は、うっすらと口の端に笑みを浮かべた。
「おい」
軽く声をかけただけで相手が怯えたのがわかる。
いけないことだと思いつつも、その様子に〈饐〉えた喜びを感じながら、刀の柄に手をかけた。
「今から本当の俺を見せてやる。ありがたく思え、女」
ようやく機嫌が直った愛刀の刀身が、久しぶりにそのまばゆいばかりの姿を見せた。
瞬間的に強烈な霊光が弾ける。
圧倒的なまでの輝きが周囲を覆い尽くし、不気味なほどに明滅をくり返す。
蓮の瞳は、赤く輝いていた。
《こころの準備はいいか、女。行くぞ》
これまでうつむき、動けないでいた眷属の女が、弾かれたようにして顔を上げた。
「……動くな。もしへたに何かしたら、こっちも右手を動かすよ」
鋭い爪を有す右手の先は、未だ少女の首筋に当てられていた。人質がいるかぎりうかつなことはできない、はずだった。
しかし、
《やりたければやれ。お前が右手に力を込める前に、お前の首を飛ばしてやる》
あまりの霊気の波動に声まで不自然に揺れている。
「…………」
弾かれたように女は動いた。
少女を突き飛ばし、自身は相手の側面にある壁に向かった。
蓮は動かない。
女は壁を高速で駆け上がるとそこを蹴って、一直線にターゲットへ飛んだ。
常人にはほとんど認識することすら難しいその動き。
だが、蓮にはすべて見えていた。
《遅い》
やや嘲りを含んだその声に、女は憤りを感じるよりも先に戦慄した。
〔目の前にいない〕。
さっきまで確かに赤い輝きを放っていた存在が手の届く位置にいたというのに、今は何もない。
気づいたときには、奴は後ろにいた。
爆発が起きたかのような衝撃に、弾かれるというより押しつぶされるようにして元来た壁のほうへ飛ばされた。
背中から激しくぶつかると同時に、意図せずくぐもった息がもれる。
揺れる視界を強引に上へ向けて前方を確認したとき、背筋が凍りついた。
ひたり、ひたり、と男が静かに歩み寄ってくる。
その顔には、薄い笑みが張りついていた。
――このままじゃ、やられる。
命の危険を感じるほどの圧力に押されるようにして震える足で立ち上がり、同時に右手の爪を前へと突き出した。
一瞬で終わった。
眼前で霊気であったはずの爪が、五本ともに散っていく。
それらは、床に落ちて音を立てる前に霧消した。
――太刀筋がまるで見えない。
恐怖に駆られながらも、今度は左手で仕掛ける。しかし、結果はまったく同じだった。
もはや、近づいてくる相手を呆然と見やるしかない。
《吸血鬼に隷属する哀れな女よ》
男が、気怠げに右手の刀を掲げた。
その柄頭から、霊気の塊がしたたり落ちていく。
《今――俺が楽にしてやる》
無常の闇の中、紅き刀が振り下ろされた。




