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プロローグ

 目覚まし時計のベルが部屋中に鳴り響いていた。

うなだれながらも目覚まし時計を止める。

 そして時間を見て驚愕した。

「――って、やべ、もう9時じゃん!!」

 学校のHRは9時15分。決して遠くない場所だが、登校に20分はかかるであろう距離だった。

 慌てて着替え、家を飛び出す。

「遅刻だ!!」

 さすがに寝起きで全速力ダッシュはきつかった。

 こういう時、口にパンでも咥えていたらお決まりのシーンなのだろうだが、あいにく男が咥えてはしっていてもなぁ。なんてくだらない事を場合じゃないな。

 電車やバス通学がないだけ幸運だったと思う。あったらもう遅刻確定なところだった。

「しかし、深夜のバイト減らさないとやべぇなぁ」

 これ以上、バイトを続けていたら、学業に支障がでそうだ。


 信号を無視して一気に突っ切る。待つ時間すらも惜しい。

 学校に通い出してはや半年。すっかりこの景色にも慣れた。

 そう言えば、鈴木のやつが転校生が来るとか言っていたな……

 まぁ、どうせ野郎なんだろうが。かわいい女の子だったとしても接点なんて持たないだろうだろうからなぁ。俺もバイトで忙しいし。


 これがラブコメ的展開なら登校途中でぶつかったりするのがお決まりである。まぁ、あんな事はありえないけどな。

次の瞬間だった。変な妄想をしていて不注意だった。思っていたことが実現する。ラブコメ的な展開のアレだ。


 まぁ、相手は車なんだけどね。


 衝突する瞬間、辺りがスローモーションになった。はっきりと体に衝突するまでが鮮明に目に映る。頭の中は真っ白で何も考えられなかった。

そして、避けることもできず、車ともろに衝突して大きく吹き飛んだ。

数メートル吹き飛び、地面に転がった。

 ――――いってぇ。今の俺じゃなかったら死んでたぞ……。

 衝突した車は黒のリムジン。金持ちの車か。

 車はその場に停車した。そして中から声が聞こえる。

「今の衝撃は何事だ?」

「いえ、それがその……、人が飛び込んできまして……」

 運転手と思われる男は動揺していたように聞こえる。っというか乗っている人ずいぶん電子ボイスですね。どこぞの宇宙戦争の暗黒面に堕ちた騎士のような声だ。

 そして、運転手は慌てた声で電子ボイスの奴に話しかけていた。そりゃぁ、人を轢いたんだ。慌てて当然。不祥事どころか、警察沙汰になるレベルだ。

まぁ、不注意な俺が悪いんだが。

何やら説明しているようだが、それよりも病院へ運んでほしいものだ。事故として言い訳が立つ。遅刻すれば鬼のしごきが待っているからな……。いや、下手すれば殺されるかもしれない。それだけはごめんだ。

そして状況を把握したらしく、電子ボイスの主は言った。

「何だ、そんな事か。かまわん、さっさと走らせろ」

 おぃいいいいいいいいいいい。

「しかし、彼が道路にいますが?」

「かまわん。直進しろ!!」

 ――って何でだ!!

 

「はっ、主の命令とあらば、命に代えましても」

 何がはっだよ!? それに、今、あなたの命じゃなくて、僕の命が引き換えになろうとしているんですが……。

 そう言ってお構いなしに、アクセルが踏まれる。

 ものすごい回転で道路と激しく摩擦する。

そして、車は――――――反対車線に飛び出し、猛スピードで去って行った。

 あの運転手さん。一応、気を使って避けてくれたようだった――――って轢き逃げじゃん!! 警察だ警察。

 携帯をポケットから取り出し、11……。――ってそれどころじゃない!!

『次遅刻したら、理由が何だろうとお前を殺すからな?』

 体育教師に前回言われた一言を思い出し、血の気が引いた。

 例え病院に行ってもこう言うだろう。

『病院に言っただと? 仮病のためにわざとだろう? その怪我も自分でつけたものに違いないな』

 などと言われるに違いない。事故を起こした張本人がいない限り、病院に行ったら、その次は墓場行きだ……。

 そんな選択肢は思い浮かばなかった。

 高校じゃ、地獄の番人と恐れられている。体育教師アーノルド。独身で趣味が拷問。うちの校風は比較的に自由なせいか不良にも寛大だが、校則にはめっぽう厳しい教師である。噂によると元グリンベレー、やシールズにいたことがあるって話だ。本当に教師か?

 携帯で時間を確認する。あと5分か……。まだ間に合う!!


 ゆっくりと立ち上がった。体からは出血していた。

 指を動かしてみる。指はピクリと反応した。

よかった。まだ動く。走れるか? いや、やるしかない。

 再び大きく足を動かした。

 学校は目前で、チャイムが鳴りだした。

 やばい、これが鳴り終わる前に校門を抜けなければいけない。抜けなければ俺の命が!!

30、20、10、5メートル。もうすぐだ!!

 チャイムが鳴りやむと同時に、猛ダッシュで飛び込んだ。


 ぎりぎりセーフ。安堵でため息が漏れた。

「ちっ、命拾いしたな」

 体育教師はそう言って、門を閉じる。とても教師のセリフとは思えない。

 というか、手に持っている物って拳銃ですよね?

 この国には銃刀法違反というものがあったはずなんだが……。聞くのも怖いぞ。


 その場を後にして、教室へ向かった。

「ちょ、ちょっと、カズ君怪我しているじゃない!!」

 シスターの格好をした女性が話しかけてきた。こいつはクラスメイトの橘音葉。

「あぁ、さっき車と衝突してさ」

「えぇ!! 一体何があったの!?」

「ただ単に考え事をしてたら轢かれただけだ」

 いわゆる前方不注意。

「なーんだ。てっきり誰かに狙われたかと思ったから……」

 なーんだで片付けられてしまった。こっちとしては大事故なんだけどな。

 ――――てか狙われるって何だ!?

「音葉。少しは労わってくれ……」

「だって、カズ君がどうみても悪いでしょう?」

 もっともすぎて言い返せなかった。でも少しぐらい心配してくれてもと思うが。

「神よ。カズ君にせめて安らかな眠りを……」

 などと祈り始める。

「まだ死んでねぇよ!!」

 音葉は格好通り、クリスチャンの家系だ。親は海外にいて、何でもその道のお偉いさんだとか? そんなこともあって、うちの家でよく面倒をみていたせいか、お互い見知った仲だ。ただ、どこかずれてるんだよな……。

「――って音葉、そろそろHR始まるんじゃないのか?」

「あ……、そうだった!! カズ君、またあとで!!」

 そう言って音葉は席へと慌てて戻った。

 俺も自分の席に着き、ようやく一息。っと思ったが

「ようカズキ、――――ってお前血だらけじゃないか!?」

 前の席に座る鈴木の奴が話しかけてくる。

「あぁ、さっき車に衝突されてな」

「普通は病院だろ? なんでお前学校にいるんだよ……」

「今日遅刻するよりマシだからな……」

「あぁ、確かに。アーノルドの拷問を受けるぐらいなら死んででも来るよな……」

 ちなみに体育教師アーノルドは1回遅刻すると殴られる程度で済む。2回目は地獄の拷問。そして3回目は誰も知らないような恐ろしい事となるらしい。大抵の奴は2回目の拷問の時点で登校拒否を起こすんだが……。そして、俺は今日3回目の危機に陥っていたと言うわけだ。

「まぁ、お前はそのぐらいの怪我じゃ、なんともないだろ?」

「どういう理屈だ!!」

 などと言い合う。まぁ、いつもの戯れみたいなものだった。

「なぁなぁ、それより昨日話した転校生が今日来るらしいぞ? 女かな?」

 それよりで片付けられるのか……。

「さぁな」

 簡単にあしらった。

「つめてぇなぁ。なぁ、そう思うだろリチャード」

 冷たいのはお前だよ!! などと思ったがめんどうくさそうなので流す。

 鈴木のすぐ隣でヘッドフォンを付けて音楽を聴く金髪の青年リチャードは無反応だった。

 反応のないリチャードを鈴木は揺さぶる。

「せっかく、名曲を聴いている最中に何だい?」

 彼のヘッドフォンから漏れる電波ソング。こいつは生粋のアニソンオタである。リチャードの親は世界的なアーティストで音楽の売り上げが歴代1位2位を争うほどであった。こいつ自体もものすごく才能があり、世界きっての天才などと将来を有望視されているらしいが、まぁ俺から見れば単なる頭のおかしい奴なんだけどな。

「僕もこんな曲で世界を洗脳したいものだ」

 とか言ってるし……。実際にこいつならやりかねないところが怖い。

親御さん泣くぞ……。

「――で、お前は転校生どう思うよ?」

「転校生? 興味ないね」

「なんでだよ!? あこがれるだろ? 転校生の美少女だぞ?」

 熱弁する鈴木。まぁ、気持ちが分からないこともないが……

「どうせ2次元じゃないんだろ?」

「…………」

 だろうな。いかにもこいつが言いそうなことだ。


 次の瞬間

「はいはーい。みなさん席付いてください」

 入ってきたのは担任の女教師の佐藤先生だった。

 その声を聞き全員が席に着く。

「今日は転校生をって――――田中君、血まみれじゃない!?」

 こっちを指差して女教師は言った。まぁ、教室に血まみれの生徒がいれば至極当然の反応である。

「さっき車に跳ねられまして……」

「そう、それは大変ね。まー、それは置いておいて―――」

 聞いておいてスルー!? いや、もう慣れたけどさ……。

「今日から転校生がこのクラスに入ります。みなさん仲良くねー」

 この一言で、クラスは騒がしくなる。

「やっぱり女の子かな? どうせなら美人の――」

 などと相変わらずの鈴木。

「まぁ、どちらにしてもこの学校に来る時点でロクな奴じゃないだろうなぁ」

 鈴木にそう返した。

 この学校は普通の学校とは若干違う。この学校は訳ありの生徒ばかりを招き入れている。といっても単なる問題児という意味ではない。世界中の問題児。本人ないしは親。さまざまである。リチャードの親は世界的なアーティストだし、鈴木の奴は元総理の息子だしな。

 それこそ大統領の隠し子なんていうのもいるかもしれない。

 俺は有名人の息子じゃないが……。

 転校生もおそらくは訳ありだろう。関われば命を狙われるような事だってありえる。変な奴じゃなければいいけどな。

「さぁ、入ってきて」

 教師の呼びかけでドアが開き入ってきた姿。

 その姿にクラス全員があっけにとられていた。

 宇宙戦争の暗黒卿がかぶっていそうな仮面。全身黒ずくめにマント。完全にコスプレ状態だ。なんかコーホーコーホー聞こえるし……

「みんなに自己紹介をお願い」

 そう言われて、黒板に名前を書いて行く暗黒卿。

 そこに書かれた文字は

『ドラゴン・焔』

「今日からこちらに転校することになったドラゴン・ホムラだ!! よろしく頼む」

 はぁあああああああああああ!?

 クラスから一斉に沸き上がる声。当然だろう。見た感じの妖しい格好。それに名前もどこのプロレスラーだ!! っと言いたくなるような名前。突っ込みどころが満載だ。

 全員の反応を見て先生が慌ててフォローに入る。

「ホムラさんはかの有名な龍族の王の御子息になります。なのでドラゴンという名前なんですよー」

 いや、知らんから!! そもそも龍族って何!?

 しかし、この声、どこかで聞いたような…………。

 あの暗黒卿のような電子ボイス…………。

「――――あ、お前はぁああああああ!!」

 思わず立ち上がり叫んだ。

 聞き覚えのある電子ボイス。今朝のやつじゃねぇか!!

「なんだなんだ。知り合いか?」

 などとクラスからは騒がれていた。

「ちくしょぉ、お前だけラブコメしやがって……」

 などと鈴木は悔しがっている。いや、全然嬉しくねぇし……

 教師も転校生に聞く。

「ドラゴンさん、知り合いなの?」

「いや、知らん」

 知らないのは当然だが、轢いておいてこれは、なんかひどくないか?

「田中君。ドラゴンさんを知っているの?」

「こいつが俺を轢いた張本人ですよ!!」

 おおおおおっと周りが騒ぎだす。鈴木に至っては

「ちくしょぉおおおお、お前だけ運命的な出会いしやがって……」

 とか言って泣いていた。こいつも病気だな。

 そして、教師からもっとも聞きたくなかった一言。

「そうなのー。じゃあ、ちょうどいいわね。田中君、お世話をお願いできる?」

 何がちょうどだ。あきらかにめんどうくさいんだろあんた……。さすがに反論をした。

「いや、ちょっと待ってくださいよ!!」

 しかし聞く耳を持たない。

「みんなもそれでいい?」

「「「田中君が適任だと思います~~!!」」」

 などとクラスメイトは賛同した。明らかに不当な多数決。どう考えても押し付けようとしている。

 そして、そのまま世話係となり、妖しい転校生は真横の席に座ることとなった。

「よろしく頼むぞ」

 半ば強引に任されてしまったわけである。


 ってか急展開過ぎだろ!!




 ドラゴン・焔という謎の――――否、変態のお世話役に任命されて、はや4時間が過ぎた。授業中、ドラゴンの奴は教科書をまだ持ってきていないので仕方なく見せることになる。

机をくっつけて見せていたわけだが、肩に無駄に尖った肩パットをつけているせいか、たびたび突き刺された。

 それに、あの電子音も一種の洗脳だろ……。妙に耳に残るんだが……。

 そして、現在は昼休み。やっと授業の呪縛から解放され、ようやく飯にありつこうというところだ。

「田中~~!! ちょっといいか?」

 真横から聞こえる電子音。

「――――ってお前、いきなり呼び捨てかよ!?」

「じゃあ、何と呼べばよいのだ?」

「普通は『さん』とか『くん』とかつけるだろ?」

 ドラゴンは少し考えるそぶりを見せ――って動かないから何しているのかわからないが。

「そうか……。そういうものか……」

 とか電子音でつぶやいていた。

 黙ってドラゴンは教室を出て行く。そして、再び教室に入ってくる。

 こいつ、何をしたいんだ?

 そして、再び俺の机の横に歩み寄る。

あぁ、仕切り直しのつもりか。

 まるで、ドラマの撮影のTAKE2とでも言わんかのような場面の光景だ。

「サン・タナカ~~!! ちょっといいか?」

 誰だそれ?

「サン・タナカ、校内を案内してほしいんだが頼めるか?」

「ちょっと待て」

「善は急げだ。さっそく行くぞ!! サン・タナカ」

「さも当たり前のようにスルーするな!! っつーかだな、俺は引き受けてねーだろ!?」

「むぅ、サン・タナカはわがままな奴だ」

「その呼び方はやめろ!! メキシコ人みたいになってるだろーが!!」

「お前が『さん』をつけろと言ったんだろう?」

「つける場所がちげー!! 普通は名前の最後につけるもんだぞ」

「ふむ、そうか……。―――――でだ、田中。案内を頼めるか?」

 面倒くさくなったのか、結局呼び捨てか……。まぁ、別にいいけどな。

「まぁ、飯を食い終わってからでいいなら、構わないぞ?」

「今すぐだ!!」

「お、おい!! ちょ、ちょっとまて!! う、うわ」

 強引に手を引っ張られ、引きずられるように教室を後にした。力強すぎだろ。

 そして、廊下を引きずられながら通り過ぎて行く。

「分かったから、止まれって!!」

 ドラゴンは歩みを止め、立ち止った。

 しぶしぶ、納得してドラゴンを案内することにする。はぁ、飯抜きか……。こういう案内って普通は放課後な気がするんだけどなぁ。


 案内する場所は至って普通だった。職員室、保健室、図書館、音楽室といった学校生活には欠かせない場所を周るだけ。といっても昼休みは簡単に潰れてしまうが……。

「田中、この広大な敷地は何をする場所だ? はっ、もしや……、ドラゴン界に侵攻するための軍事演習をしているのではないか?」

「ないない」

 そもそもドラゴン界ってどこだよ……。

「あれはな、運動場って言って、学生がスポーツをする場所だ」

「ほー。これが人間界のスポーツか……」

 グラウンドではサッカーを楽しむ生徒が数人。そして、それを物珍しそうにドラゴンは眺めていた。

 

その時だった――――――

 ゴールを外れたサッカーボールが、勢いよくドラゴンにぶつかる。

 ボールが命中した暗黒卿はそのまま倒れて転がった。

 まぁ、外傷はないだろう。あの鎧だしな。

 ウィイイイン。ガチャンと効果音をつけれそうなほどゆっくりと起き上がった。

 そして、理不尽にもその矛先は俺に向いた。

「おい、田中。なぜ我を守らない?」

「ん? 悪い悪い。俺は気づかなかった」

 ボールが外れることに気を配るほど余裕はなかった。第一、これだけは慣れてるんだし自力でよけるだろ……。

「それでも我の従事か!?」

「いや、従事になった覚えはねーよ!!」

「問 答 無 用」

 ドラゴンはボールを拾い上げ投げつけてくる。はっきり言って逆切れだ。そして、次々とその場にある物を拾い上げて投げつけてきた。

「おま、落ち着けって!!」

 表情は見えないが怒っているようだった。つーか、砲丸の球とか、当ったら死ぬぞ……

 うん、とりあえず逃げよう。

「待て!! 逃げるな!!」

「無理を言うな!! つーか、何を怒ってんだ!?」

「我がドラゴン族の配下は主を裏切ったら死罪だ!! お前は主を守ることを怠慢から怠った。だからお仕置きをしなければならない」

 ドラゴン族の縦社会ってえらく厳しいんだな。さぞ主に苦労しているだろうな……。

じゃなくて――――

「そもそも、俺はお前の部下じゃねぇー!!」

 階段を一気に駆け上がり、後ろを確認した。

 ものすごい剣幕で追いかけてくる暗黒卿。こわっ!!

 逃げよう。ん――――?

 しかし、次の瞬間だった。

 ドラゴンは階段の足を滑らせ、そのまま豪快に音を立て、下の階に転げ落ちる。

 そして、そのまま倒れていた。

「おい、大丈夫か?」

 声に反応はなく、ピクリとも動く様子はなかった。

 慌てて階段を下りて名前を呼び、そして、鎧を小突いてみるが、反応はなかった。

 やばくないか? 頭でも打ったか?

 息は――――――仮面だとしているのかすら分からんな。

「とりあえず、保健室連れて行くか……」

ドラゴンを抱え――――うお、鎧のせいか、結構重いな。

 保健室へ運び、ベッドに寝かせる。

「つーか、先生はどこだろうな」

 保健室に先生は見当たらなかった。

 こいつ動かないけど死んでないだろうな? 

 まず、こいつの仮面とらないとな。じゃねーと息すらままならないだろうし、そもそも生きているのかすら分からん。

 暗黒卿のような仮面に手をかけ、ゆっくりと外す。

 微かだが、吐息のようなものが聞こえる。よかった。どうやら死んではないようだ。

 そして、仮面を全部外した時、俺は驚愕した。

「お、女――――――!?」

 黒髪で肌の色は白い。あー、そういえば、ほむらって女の子の名前だったな……。

あの暗黒卿の仮面をかぶって偉そうな口ぶりをしていた所からは想像もできない中身だった。つーか、はっきりいって、めちゃくちゃ美人じゃねーか!!

なんで、こんなへんてこな仮面かぶっているんだ? まさか、顔を見られたらマジで呪い殺す能力者とか? ってんな漫画みたいなことはあるわけないな……。

ただ言えるのは、こいつがすごく残念なやつで、仮面を外すとすごい美人ってことだ。

これがギャップ萌えってやつなのか? などとくだらないことを考えていた。


そして、気がつくとドラゴンは目を覚まし、涙ぐみながらじっと睨みつけている。

「よぉ、起きたか?」

「………………」

「悪いとは思ったけど、仮面外さないと苦しそうだったから外したぞ?」

「………………」

 お願いだから何かしゃべってください!! 半泣きで震えられると、俺が保健室に連れ込んで何かしようとしているみたいじゃないか!!

「い…………」

 彼女は掠れた声で言った。結構、綺麗な声だ。でなんつったんだっけ、「い」?


「いやぁあああああああああああああああああ!!」

 彼女は悲鳴を上る。次の瞬間、彼女の拳が顎を綺麗に捉え、俺は宙に吹き飛んだ。


 ドラゴンの名は伊達じゃなかった。廬○昇龍覇と文字を表示すれば、綺麗な絵になっていただろう。まさにそんな感じだった。

 そして、俺はそのまま意識を失った。


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