君の秘密と僕の秘密
宇宙ステーションに併設されたコロニーの窓から、見える僕達人間が過去に暮らしていた星は、荒漠とした赤茶色に染まっている。そこには海と呼ばれる生命の坩堝があって、大地には様々な草木が生い茂り、多種多様な生物が生きていたという。勿論、僕達人間も例外ではない。
どうして、人類が地球を捨てることになったのか、大人達は教えてくれない。聞いても、皆んな苦虫を噛んだような顔をして、口を閉ざしてしまう。先生も例外ではない。人類の歴史に関しては、教えてくれるけど、どうして地球から、海が失われたのか、草木が失われたのか、そして、人類が何故、地球を捨てることになっなのか、それは決して教えてくれない。
だから、僕が授業に参加しなくなったのも、必然と言える。他の子供達は、何も疑問に思わないのだろうか? 僕には彼等の心情が理解できない。だって、僕達の祖先が過去に住んでいた星だよ? そこに、どうして想いを馳せないでいられるのだろう。
大人達は口々に言う。ここに、産まれたことは君達にとって、奇跡のようなものだと。確かに僕達には、母親も父親も存在しない。世代を経るうちに、人間の生殖機能は段々と衰えていったと言う。宇宙の環境が、人間にとって、想定していた以上に過酷なものだったと大人達は言うけれど、それを証明できる書物や研究の成果などは、僕達、子供には読むことが禁じられている。
だから、僕は消灯時間までの間、日がな一日、荒廃した地球を眺めている。
「ねぇ、どうして君は死んでしまったの?」誰に言うでもなく、僕は呟く。
「また、ここにいたのね。授業にも全く出ないで」
僕が振り向くと、長い金髪を一本に結び、白いワンピースを着た、僕と同い年の少女が立っていた。
「出たって無駄だからしょうがないよ。先生は僕の質問に何も答えてくれない」
「それは、私達が知らなくたっていいからでしょ? 何が不満なの? ここには私達の先祖様が持ち込んだ、本や音楽、ゲームだってある。窓に向かって、独り言を言っているより、有意義な時間を過ごせるのに」
「君にとっては、そうかもしれない。でも、僕にとっては、そんな過去の遺産よりも、星を眺めてる方が有意義な時間なんだ」
そう言って、僕は少女から視線を外し、星に向き直る。応えてほしい。どうして君は死んでしまったんだい?
「旅立った大人達の話は聞いてるでしょ?」
大人達が話していた。僕達が住めるかもしれない星が見つかったって。そして、旅立ちに選ばれたメンバーは、宇宙ステーションから旅立った。
「何度、繰り返せば、大人達は気が済むんだろうね。先発隊が、失敗してから、これで十度目だ。ロケットだって、もう残っていない。今回の遠征が失敗したら、僕達は、死ぬまで、この檻の中で暮らすことになる」
「確かに、あなたの言う通りね。でも、私達が死んでも、人類は滅びない」
戯言だなと僕は独りごちて、星を眺める。
「どうして、そう言い切れるの? 僕達人間がどうやって産まれてくるかも分からないのに」
「分からないのはあなただけ。あなたが授業に参加していない間、先生が見せてくれたの。私達がどうやって産まれてきたのか。そして、これから先、どうやって子孫を残していくのか」
どうせ、嘘っぱちに決まっている。僕が何度も聞いたから、業を煮やして、嘘を教えたんだ。
「どうせ、嘘だよ。大人達が教える筈がない」
「あなたが言う、大人達に、私達も近付いていることに、あなたは気付いていないの? 今生きている大人達が死んだら、誰が次に産まれてくる子供達を導くの?」
僕は答えに窮する。認めたくはないが、彼女の言葉には不思議な程、説得力があった。
「君は何を見たんだい?」
「私達が造られる過程。大量のポッドの中に胎児が浮かんでいたわ。私達、毎日数本は血液を採られるでしょう? 先生が言うには、血液中の白血球から核を取り出して、クローンを造り出しているらしいわ。言ってしまえば、私やあなたのコピーね」
僕は別な意味で愕然とした。人間の技術はまだ、その段階までしか進化していないのかと。
「そのコピーをいずれ大人になる僕達が育てると。でも、どうして今になって先生は教える気になったんだろうね? 何も、全員に教える必要もないだろうに。混乱の種を招くだけだ」
「教えられたのは、私だけよ。あなたといつも一緒にいたからじゃないかしら? そして、勘違いしているようだけど、大人達全員が知っているわけじゃないわ。適正があると認められた子供達だけに教えられるみたいよ」
「随分、曖昧なんだな。君の言うことが真実だとしたら、よく人類はコロニーで生き延びられてきたものだね」
少女が、いつの間にか、僕の隣に立ち、星に目を向けている。
「あの星に生きていた人達だって、きっと私達と同じよ。何も知らない人も居れば、知っている人も居た。知っていて何もしない人も居た。━━今度の授業で、どうして、あの星を捨てることになったのか、教えてくれるった先生が言ってたわ」
僕は今度こそ、本当の意味で愕然として、少女を見る。少女が微笑みを返してくる。
「私達、二人だけに教えてくれるみたいよ。どうしてか知らないけど、私達は特別なんだって」
僕は少女から視線を外し、星を見据える。
腑に落ちないことだらけだけど、どうやら僕は特別な人間らしい。やっと君の秘密を知れる時がきたよ。
おしまい。
最後まで、お読みいただきありがとうございました。
今回は少しだか長めのSSです。感想など、頂けたら嬉しいです。




