第一章:星はまだ眠っている(2)
朝だ。最初に初めて私を起こしてからというもののコケコッコーと鳴いている迷惑な鳥がそう告げていた。
しかし、人の三大欲求のうちの睡眠欲に勝てるはずもなく、温かい自分の翼に包まりながら再び眠りに就こうと顔を埋める。
こんな朝早くから起きるのはバカの所業と言っても過言ではない。
起きて村に出たところであるのは村人に押し付けられる雑用だけ。ならば寝ている方が100倍いや1000倍有意義な時間の使い方だと思う。
このまま再び眠りに就こうとした時、いつもより騒がしいことに気づいた。きっとバカな若者が朝から騒いでるに違いない。それか何か別の何かが・・・ここまで思考して考えるのをやめた。考えたところで意味はないし、もしあったところでそれはきっと厄介事だ。
気にしないで眠りに就こうとするが本当にうるさい。村から私の寝床まで結構な距離があるにも関わらず声がここまで届いているということは本当に何かよからぬことが起きたのだろう。
あまりにもうるさすぎて完全に目が覚めてしまった。
寝ぼけながらゆっくりと体を起こし、展開していた翼をリングに仕舞い込んだ。
あくびをしながら窓の外を覗いた。
そこには、早朝だというのに広場に大集合している村人たちの姿。
なんて言ったっけ、あの……そう、朝礼みたいな感じで?
それにあの断固として家から出ないで有名な自宅警備員ダリオンが外に出てきているということだけで一大事だとわかる。
あのニート外に出られたんだ。
それに見慣れない家に車輪がついていて馬に接続されている・・・馬車?のようなものが広場の中心に停まっていた。家には竜が星に巻きつきそれに剣が十字に交差している紋章が記されていた。ほら、あの偉そうにしてるおじさあんたちが掲げてるみたいな・・・そう、あれである。
エーテルの流れを感じるためにゆっくりと深呼吸しながら集中すると人々の魔力からは驚きと少しの困惑を感じ取れる。
うん。つまり村人たちも何も理解できてないということだね。
しかし、いつもの村人の魔力と違って大きな魔力を感じ取ることができた。きっとそれが今回、私を起こした張本人ということだ。つまり、あの害鳥と同等な存在。つまりゴミ。
「・・・んー!」
軽く伸びると、私の周りに小さなリングが浮かび上がる。
頭の近くに二つ、背中に二つ、尾てい骨のあたりに一つ。
それらは竜人特有の器官を封印するものらしいが、記憶を失った今となっては原理は不明だ。
記憶が使えなくても感覚で使うことができ、好きに尻尾を出せたり角を出したり、翼を生やせたりする。実際のところ気にしたことすらない。感覚的にはそう、アクセサリー的なものだと思ってる。
「ん?」
何かが近づいてくる気配を感じて窓の外を見ると自称、私の世話係のリ・・・ク?オ?ヘ?多分リクがこの寝床に向かって焦ったように息を切らしながらこちらに走って来ていた。
嫌な予感がして私は急いでリクと反対方向にエーテル、魔力を集中させて裏口を作った。
激しい爆発音が響くとそこには裏口というには少し大きすぎる穴が出来上がっていた。
まぁ、世の中大きいことに越したことはないよね?
急いでベットから飛び起きて逃亡を図ろうとした時、リクの方が一足早くノックもせずにドアを開いて駆け込んできた。
「お姉ちゃん大丈夫!?爆発音・・・・が、んんん???」
内心で舌打ちをしながらリクの方を振り返ると顔をトマトのように頬を赤く染めながら急いで背中をこちらに向けていた。綺麗な回れ右である。
「お姉ちゃん!いつも言ってるよねっ。てか、昨日寝る時ちゃんと服を着せたのになんで服着てないんだよ!」
「あぁ、なんか気づいたら服がなくなってたんだよね。リク」
「だーかーらー。僕はリクじゃなくてリオだよ。なんで2文字なのに覚えられないの?てか、そうじゃなくてお姉ちゃん仮にも・・・うん。仮にも女の子でしょ?こういうのはちゃんとしてないとダメなんからね!」
「おい、なんだ今の間は私が女じゃないと言いたいのか?」
リオが両手を振って慌てた。
「ちょ、ま、ちが、そうじゃなくて女の子というところに少し疑問が・・・」
「ほう、私がピチピチの17歳に見えないと・・・ババアだと言いたいみたいだね」
「飛躍しすぎ!お姉ちゃんは可愛いし・・・きっと世界で一番綺麗だよ!それに変なこと言ってあんな穴ぼこにされたくないもん」
リオが耳を赤くしながら力強く指をさした方向を見るとそこには先ほど逃亡を図るため生成した完璧な裏口がそこにはあった。
ふむ、何度見ても完璧な裏口。きっとこの良さは現代アートの人にはわかってもらえるはず。
「まぁ、部屋の装飾だと思えばいいものじゃない?ほら空気の流れが良くなったよ」
リオは呆れた様子ではぁ、とため息を吐くと後ろを向きながら羽織っていた上着を私に差し出していた。
私はキョトンとしながらも上着を受け取り、リオの対応が面白くて思わず笑ってしまう。
「ふっ、まだ年端もいかない坊主のくせにこんな紳士的な対応ができるんだね。こんな村のどこでそんなことを学んだのやら」
「そりゃあ」
少年は横目で私の顔を見ながら、
「生活力もなくて、」
「グッ」
「散財癖で貧乏で」
「ッ」
「服もまともに着れない飽き性のお姉ちゃんの世話をしていたら嫌でも身につくものなんじゃない?」
私の胸に何故だかこれらの言葉が深く突き刺さり胸が苦しくなる。
「はぁはぁ、リオ、中々に鋭いキレ味の刃を持ってるみたいじゃない。私がいなくても魔物の討伐も余裕で出来そうだね」
私ながら面白いジョークを言えたんじゃないかな。きっとリオも笑わずにはいられないはず・・・。
顔を確認すると先ほどまで頬を赤らめていたはずだったが今は赤みも引いて少し落ち込んだかのように顔を俯いていた。
ん?どうした?もしかして私のジョークがあまりにも面白すぎてお腹痛くなっちゃのかも。やっぱり私は罪な女なのかもしれない。
「———お姉ちゃん、仮に、仮にだけどね。もし、お姉ちゃんの失った記憶の一部を知ってるって人がお姉ちゃんを探しに:村まで来てるって言ったら・・・どうする。もし、だからね!」
リオの声は不安を隠そうとしているのか元気を装って話しているけれど言葉の節々が震えていて不安になっているのが手にとって分かる。
そのことが実際に今起きているということも。
なるほど。たまたま私の発言と今起きている事象が重なってよりリオをより不安にさせてしまったようだ。
横目で外を確認すると、リオをつけて来たのか二人の少女と鎧を身に纏った護衛らしき人物がゆっくりとこちらに向かって歩いて来ていた。
「仮に・・・ね」
「お姉ちゃんは僕とずっと一緒にいるよねっ!」
リオは不安になったのかこちらを思いっきり振り向き、泣きそうな目で私を見つめると一瞬で振り向いた勢いのまま一周して元の位置に戻りながら叫んだ。
「さっき服を着てって言ったよね!?」
「あぁ。ほら、でもリオの上着小さすぎて裾が通らないんだ」
「別に僕は前を隠して欲しいから渡したんだよっ!自分の服を着ればいいじゃん!」
手にリオから手渡された上着を持ちながらベットの上に腰掛けている私が気に入らなかったのか足踏みをして体全体で不満を表現していた。
その行動が年相応の幼さを感じてとても面白い。
いつもと似たような会話をして過ごしていると突然扉が音を立てて開いた。
「———アルテミラ様のご自宅でお間違い無いでしょうか?」
ノックもなしに扉が開いたことに驚きつつ扉の先を見ると先ほど見た全身を鎧に包んだ屈強な男性が立っていた。
胸には馬車についていた紋章と同じものが刻まれており、どこかの貴族、もしくは国の騎士ということが一目で分かった。
はぁ、リオがノックせずに入ってくるのは慣れていたけど、いかにもちゃんとしてそうな騎士がノックもなしに入ってくるのは別の意味で驚いた。
まるでこの騎士に下に見られているとしか思えない対応だな。
私は警戒心と不躾なやつに裸を見られる嫌悪感からエーテルを使って威嚇をする。
エーテルが濃くなった影響で空気が一気に重たいものへと変化し、騎士は耐えきれなかったのかそのまま跪いた。
「はぁ、騎士ともあるものがノックもせずに入ってくるものなのか?躾がなっていないんじゃないか?お嬢さん」
空中にあるエーテルを操作して自身の体に纏わせて服を生成した。
デザインはいつものやつで問題はないだろう。
騎士は意識を失いそうなのか頭の部分がガクガクと震えている。
状況を見かねたのか扉の隙間からぴょこっと可愛らしい少女がこちらを覗いていた。
「あら、気づいていたのね。あたし達、認識阻害の魔法をかけて慎重に広場からここまでやってきたのだけど・・・ふふ、流石にあたしの可愛らしさは誤魔化しきれなかったみたいね!」
可愛らしい雰囲気と場を和ませるような雰囲気が印象的で、実用性を重視したドレスを着たいかにも貴族のような格好をした女の子である。
少女に続いて後ろからは魔女っぽい大きな帽子をつけているとても小柄な女性が会釈をしながらこちらに顔を出していた。
「ねぇ、ねぇ。お姉ちゃん!さっきから何と話してるの?口調も変わって、警戒モード、ならぬ他所行きモードだけど・・・何かそこにいるの?」
背を向けていた少年は私が服を着ているのを確認すると不安なのか周りをキョロキョロしながら私の元までやってくるとそのまま抱きついた。
ふふ、可愛いところもあるじゃん。外面だけはちゃんとしているフリをしているけど実際のところ、内面は年相応に育ちきっていない。まるで好きな女の子に大人面をしている男の子みたいで本当に面白い。
「ほら、坊主が怖がっている。姿を見せたらどうだ?」
可愛らしい少女は今、気づいたようにハッとすると、
「ごめんなさい、あなたには見えてるみたいだから完全に忘れていたわ。アネモネ、魔法を解いてちょうだい。あたしからもひとつお願いいいかしら?」
少女はそう言うと可愛らしく微笑むとある一点を指差した。そこには跪いて今にも気を失いかけてる騎士がいた。
「そろそろ私の騎士ちゃんが倒れてしまいそうだから・・・押しかけた分際で申し訳ないんだけど。少しだけでいいの警戒を解いてくれないかしら?」
アネモネと呼ばれた魔女は指を軽く弾くと彼女らを纏っていたベールのようなものが幕が上がるように消えていった。
魔法を解いたのを確認すると私もエーテルの濃度を人が普通に生活できる程度にまで下げた。
少年は突然、虚空から現れた彼女らに驚きを隠せないのか、いまだに少し震えながら服の裾を握りしめていた。
ここまでくると小動物を愛でてるような気分になってしまう。本当に可愛い。
リオの頭を撫でていると安心してきたのか少しずつ震えが治ってきていた。
少女はゆっくりとこちらに近づくとリオに目線が合うようにしゃがみ込んだ。
「怖がらせてごめんなさい。そうね、お詫びと言ってはなんだけど・・・うーん。お近づきの証にこんなものをあげるわ!大切にしてあげてね」
少女はポケットの中をガサゴソと漁るとそこにはどうやってポケットに入っていたのか疑問になるくらいのサイズのどこか少女に似ているぬいぐるみを少年に差し出していた。
「ふふ、とても可愛らしいでしょう?それとねこの私に似て可愛らしいお人形さんには秘密の機能が付いているの」
少女は人形の髪を捲り上げるとそこには小さなボタンが付いていた。ボタンを押すと、
『おはよう!もしくはこんばんわ。もしかしたらこんにちはかもしれないわね。目覚めはやっぱり1日の運勢からよね。今日のあなたの運勢は・・・大吉よ!おめでとう、すごいわね!きっと今日はいい1日になるわ。今日も頑張りましょう』
少年は困惑からキョトンとしているが少女は対照的にクスクスと笑っていた。
「ふふ、面白いでしょう?なんとこれ特注品なの。名付けてジニアール人形、略してニアちゃんと呼んであげて!きっとこれはあなたの日常に少しだけ素敵な変化をもたらしてくれるわ」
リオは本当に状況が掴めていないようで私と目の前の何か喋ってる少女の人形を交互に見つめていた。
意味がわからない。二人揃ってフリーズしているとリオは何かに気付いたのかハッとしていた。
「少しよろしいですか?」
「ええ、なんでも聞いてちょうだい」
リオは唾を飲み込むと口を動かした。
「もしかしてですけど・・・ジニアール第一王女ですか?」
少女は一瞬、驚いた顔をしたがすぐに取り繕うといつもの笑顔を貼り付けていた。そして、一歩下がると綺麗なカーテシーをした。
「そこの坊やいい目をしているわね!自己紹介が遅れてしまったわね。私はジニアール・サイエスティア、サイエスティア王国の第一王女と周りからは呼ばれているわね。でも、お近づきの印にどうぞニアと呼んでくれたらとっても嬉しいわ。そしてこの子が・・・」
ジニアールことニアが隣になっている魔女に視線を移すと手に持ってる長い杖を両手で持ちながらお辞儀をした。
「初めまして、私はアネモネ・ローズ・・・ううん。私はアネモネと言います。まぁそんな前置きはいいのです!どうして私の魔法を見破ることができたのですか?この魔法を見破られたのはあなたを含めて二人?いやその他大勢です!」
魔女ことアネモネは喋りながら百面相の如く、表情をコロコロと変えて話していて思わず笑いそうになって口元を手で隠す。
「あら、アネモネいつになく饒舌ね。ふふ、表情が顔に出てるわ。よっぽどあ、あなたに・・・興味を持ったのね。そうよ!名前、名前を教えてくれないかしら?あたしと友達になりましょう?」
こっちだけ名前を教えないのは流石に礼儀知らずにも程がある・・・かな?
「そうだな。私はアルテ——————」




